第466話
「ケン、出場者名簿が出たらしい」
休憩中の俺をアルフィーナが呼びにきた。
現在1時30分。
試合開始まで残り30分だ。
場所は学院内の決闘場。
あそこなら思う存分戦えるだろう。
っと、出場者名簿が出たんだったな。
「そうか、なら行く。お前はどうする?」
俺がそう尋ねると、アルフィーナは少し考えてこう言った。
「ふむ………私も今は手持ち無沙汰だ。同行しよう」
「へぇ、暇なのか。仕事は?」
「今は休憩中だ。昼食を取ろうと思ってここにきたのだよ」
「そうか。んならさっさと行こうぜ」
俺とアルフィーナで街の中央の巨大モニターまで観に行くことにした。
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「しっかし人が多いな。俺人混み嫌いなんだよ」
「好きな奴なんているのか?」
「俺の地元にはアホかってほどいる」
ハロウィンとか特にだ。
何故現代の若者はあんな人混みに自ら身を投じるのだろう。
と、おっさん臭い事を思っていると、見知った顔を発見した。
「はぁ………あ? おお、お前らも来てたのか」
そこにはいつものメンバー、リンフィア、ラビ、ニールがいたのだ
ついでにラニアとコロネとレイ、それにルクスもいた。
「よう、リフィ」
「あ、ケンくん。やっぱり名簿を見に来たんですね」
「まぁな。ウルクの対戦相手が気になるし」
「へぇ………ウルクちゃんですか。へへへ、相手にとって不足なしですね」
ん?
「合宿の時は、まだ言われた中の土台までしか出来てなかったんですけど、これでやっとケンくんにどこまで強くなれたか披露できます」
「お前………………まさか」
「はい、出場します」
リンフィアは、はっきりとそう言った。
ニールが複雑そうな顔をしている。
「ほらニール。やっぱり反対されなかったじゃないですか」
「くっ………まさかお前が何も言わんとは………」
「反対する理由はねぇよ。あくまで試合。死ぬ危険がねェのならこんなのはいい経験になるだろうぜ」
「私にリンフィアさ………彼女に刃を向けろと!? なんて残酷な事をさせるのだお前は!! この鬼! 悪魔! ヒトデナシ!!」
どっちかというと全部お前の方が近いだろうが、この半魔族。
小学生のようなボキャブラリーに俺は呆れてしまった。
「だったら場外にだしゃいいだろ。ま、さっきの感じだと今のこいつがそうあっさり外に出るとは思えんがな」
「チィッ………それしかないか」
ニールが渋々と言った感じでそう言った。
すると、
「ニール」
と、リンフィアに呼ばれたニールは、ビクッと体を震わせた。
リンフィアが人を叱る時のトーンだ。
俺もついビクッとなる。
だが次の瞬間、ニールの表情が一変した。
「もし当たっても、ちゃんと戦ってください」
リンフィアは真面目にそう言った。
もう止められないと観念したのか、ニールは一瞬肩を落とし、改めてリンフィアに向き合うとこう言った。
「望みとあらば、全力で戦いましょう」
これを聞いたリンフィアは満足そうな笑みを見せた。
その時、
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「!!」
俺は何かを感じ、パッと後ろを振り返った。
しかし、誰もいない。
だが、何者かがこちらを見ていたのは確実。
この人混みでは、特定しようにも方法がない。
「どうした? ししょう?」
ラビがこちらを見てそう尋ねた。
「………いや、なんでもない」
「そうか。なーなー、ししょう。ダガーのちょうし、見てくれないか?」
「ん? まぁいいが………」
俺はラビからダガーを受け取って、調子を見た。
刃こぼれはない。
言いつけ通りにちゃんと研いでいるようだ。
だが、付加した術式に些かボロは来ている、と言うよりは少し変質されていた。
大きな魔力を一気に注いだのだろうか。
俺はそれに合わせて再び魔法を付加した。
これで大丈夫だ。
「ありがとー、ししょう。これでワタシもこころおきなく出られる」
「は? え、お前まさか………お前も?」
「うん、しゅつじょうするぞ。こんかい出られないのはししょうだけだ」
驚愕の事実。
ちょっとショックだ。
まぁ、俺が出られないのは仕方ないと思うが、一個くらいいいじゃんと思ってしまう。
「………って、お前ら急げ! そろそろ時間だぞ!!」
時計を見たリンフィア達はそのまま慌てて会場へ向かった。
忙しない奴らだ。
「あのパーティでアンタはずっと旅をしていたんだな。羨ましいぞ、聖」
流が割と本気でそう言った。
「お前にもいただろ、仲間」
「今は対立中だよ」
やれやれという流。
流といえば、俺は一つ悩んでいることがあった。
それは、俺が遭遇した楠 留華について話すべきか否かということだ。
「天崎が、来ているんだろ?」
俺は思わず声が出そうになった。
ちょうどそっちの転移者のことを考えていたせいだろう。
「ああ」
「………気をつけなよ、聖。彼女はアンタみたいに甘くない。目的次第では親兄弟も殺す」
流は厳しい顔でそう言った。
なるほど、確かこいつはそれに耐えられないでこちらに亡命したという事だったな。
「忠告しておく」
流は、はっきりとこう言い放った。
「アンタでは奴には勝てないかもしれない。何故なら奴は——————」




