第464話
ライブが終わった後、店の宣伝云々を終わらせて、会場の後始末をやった後、俺達は速かに解散した。
打ち上げをやろうと言いたいところだったが、生憎祭りはまだ終わっていない。
そう言ったのは、全て終わってからにしようと言い出したのは、もちろんミレアだった。
帰った後、ミレアはいつもとは質の違う疲れにまいったようで、最低限の事を終わらせて泥のように眠った。
ここで帰ってすぐに寝れるところがミレアらしい。
ちなみに、俺はというとまだ少し寝付けなかったので、ベランダに出て明日から出店で出す予定の品を何品か試食していた。
「お、これうまい」
「本当にー? あ、本当だ。これ好きかも」
ウルクも一緒である。
ステージにこそ出ていなかったが、裏方で色々とやってくれていたので、こいつはこいつで疲れているはずなのだが、どうも俺と同じく寝付けないという。
そして、どうも興奮さめやらぬが故に、という訳でもないらしい。
「で、護衛どもはなんで出てこないんだ?」
「やっぱりバレてたんだー。さすがケンくん」
折角なので、全員呼んで飲もうという事になった。
ぞろぞろとダグラス達がベランダへと集まる。
「よ、おっさん。この前ぶりだな」
「おう、そうだなボウズ。あ、その酒くれ」
俺はテーブルの上の酒瓶をダグラスに向けて投げた。
「ローレスもバルドとレトも久しぶりだな。つかちゃんと覚えてんのか?」
「それはこっちのセリフだろう、ケン」
「あんだけ印象の強い事をされたら流石にね」
「レトの言う通りさね。アタシらがアンタを忘れる事はないよ」
俺はそれぞれに酒の入ったコップを渡しながら、ふーんと返事をした。
適当だが、ちゃんと聞いているぞ。
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そのまま俺たちは結構遅くなるまで飲んでいた。
ちなみにウルクだが、酒は入れてない。
そのお陰か。飲み会でも飲む事なく意外に寝る事なく起き続けている。
向こうのほうで、バルド達と騒いでいた。
するとダグラスが俺の方にやってきた。
なので、少し質問することにした。
「そんで、おっさん。どうだ? 他所の国の異世界人は」
俺がそう尋ねると、早速つまみを食い漁っていたダグラスがこう答えた。
「正直バケモンだな。俺らが護衛しても正直足止めが限界だろうよ。まぁ、足止め程度なら出来そうだがな。ガッハッハッハッハッハ!!」
清々しい程に認めていた。
ただ、そうは言っているが、ダグラス程の男ならば渡りあえないこともなくは無い。
と言っても、かなりシビアな条件下で、だが。
「ボウズはあんなのと戦おうとしてたんだな」
ダグラスが、持っていた酒を一本一気に飲み干した。
「っはァッ! ………ま、正直言ってあんなのがごまんと居るって考えただけで真っ向から受けてかかるのはごめん被りてぇな」
「安心しろ。ここではひとまず護衛だけだ。まぁ、戦うのは間違いないがな」
「別に戦わねぇつもりはねぇさ。これでも冒険者である前に一端の戦士。覚悟くらいしてる。護衛は任せとけ。だがよ、ボウズ」
「?」
「お前さんみたいな小僧が何も全部背負い込む必要はねぇんだぜ?」
「………」
このおっさんにそんな事を言われるとはな。
いや、別段意外な話でもない。
このおっさんは、常に周りを見ているのだ。
「背負ってるつもりはねーし、俺がそうしたいからやってんの。それに、この方法が一番効率がいい」
「………」
少し不服そうな表情になるダグラスに、俺は気がつかなかった。
この時このおっさんは、何を思ったのだろうか。
「………あの姫さん」
「ん?」
「どう言う気持ちなんだろうな。自分の国が敵に周り、自分を狙うのは実の父が仕向けたかつての仲間。あの年で経験するのは早すぎるくらいの修羅場だ。元が王女様なだけに相当辛ぇだろうな」
「………」
墜ちるという不幸は、当然ながら辛いが、それはただ不幸であるよりもずっと辛い。
幸せを知っているが故により強くそれを求め、手にできないと知った絶望は、相当なものだ。
だが、ウルクに限っては少し違う。
この事実が辛くないと言いたいのではなく、あいつはきっと、とうに地獄を知っていたのだろう。
いつか天崎も言っていた。
ルナラージャが、身分重視の階級社会だという事を。
あいつはきっと、人間の汚いところをよく知っている。
だからあの殺気にも耐えられたし、国家転覆なんて途方もない事をする決意を持てた。
俺は、そんなあいつの覚悟を尊重する。
そのためにも、俺はまずあの国を滅さなければいけない。
余計な事をベラベラと話す趣味はないので、これらは言わないでおいた。
「………おっさん」
「どうした? ボウズ」
「明日………頼んだぜ」
言葉足らずな一言。
だが、この男はそれだけで全て察してくれた。
ダグラスは豪快な笑みを浮かべてこう言った。
「おうさ!! 任せておけ!! だからお前さんも、負けるなよ」
「ああ」
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確証があったのか、あるいは勘だったのか。
ともかくケンは、明日に何かが起きると思ったのだ。
そして、それは当たってしまうことになる。
暗い部屋に集まったルナラージャ特秘部隊。
国家から独立し、固有の権限を持つ転移者の中でもより優れた10人を指す。
今回は3人がここへ来ていた。
「拙者は明日、予定通り任務を遂行する。お主らも、予定通り頼むぞ」
暗闇の中、2つの影が天崎に向かって頷いた。
明日は魔獣演武祭5日目。
ついにこの日、天崎 命は動き始めるのであった。




