第463話
まるで別人のように堂々と歌うドレイル。
緊張はとうに消え、それどころか楽しそうに歌っている様子がありありと伝わってくる。
“本番に強い”の典型的なタイプなのだろう。
思い出せば、初日の旗戦でも緊張せずに全力を出せていた。
やはり持ち味を全て出せるというのは大きい。
淀のない全力の歌声は、ミレアには悪いが少しばかりレベルが違った。
まぁ、“型”が違うというのもある。
ドレイルの場合は、ミレアよりも歌声そのものを目出たせる形式の方があっているというのが大きい。
逆にミレアの場合は楽器もそこそこ目立たせたものがあっているのだ。
故にこの形式。
不純物はなく、ひたすらにドレイルを、ドレイルだけを見て、歌を聞いてもらえるようにした。
「「「——————」」」
それは思った以上に効果的で、皆が圧倒されつつも、完全に魅入っていた。
不要な音は聴きたくないとばかりに、物音一つ立てず、会話も無くただひたすらに聴いていた。
こうなることを予想していたので、この時ばかりは移動販売も無しにしている。
魔法具の方はと言うと完全に売り切れて、みなそれをつけてライブを楽しんでいた
もっと、もっといける。
まだ足りない。
心の奥底から歌に意識を向けられるような、包み込むように、もっと………!!
まるで会話をしているように饒舌な歌。
私の歌を聴けと言われているようだった。
もっと滑らかに………もっとはっきりと………もっと透き通った声で!!
音の調和、共生。
今まではそう言った複数の音が混ざり合う事によって起きる化学反応を武器にしていた。
だが、ドレイルの時だけは違う。
武器はその歌声だけ。
しかし、何よりも大きく、誰よりも深く心へと迫る強力な武器だった。
調和でも強制でもない。
言うならば、“支配”だった。
聴いて。聴いて。聴いて!!
私の歌声を、もっと!!
初日のあれは実戦ではないとはいえ、あの時とは比較にならない人が変わっている。
遠慮がちないつもの性格が嘘みたいだ。
いや、もしかしたらこちらが本当のドレイルかもしれない。
曲を聴けば聴くほどそう思えてくる。
包むのではなく呑み込む。
周囲のすべての音をお構い無しに、ひたすら主張する。
それでも消えない凛とした強かな美しさに、人は心打たれるのだろう。
曲の終盤に差し掛かり、Cメロの頭に入った。
特有の切なさの入った歌声とそれに合わせた表情が観客にも伝染する。
まだ聞いていたい、終わって欲しくないという意思が伝わってくる。
ゆったりと揺蕩うように。
抑えて抑えて抑えて抑えて、ひたすらに静かに、堪えるように歌う。
そしてついに、ラストのサビ。
曲のクライマックスを迎える——————
「————————————ッッ!!!」
「「「!!?」」」
曲の最後の盛り上がり。
先程との差によって生まれる大きな波が、観客たちの心を大きく揺らす。
感情を支配されるような感覚を、厭うどころか嬉々として受け入れる。
これが音の力であり、異様さであるのだ。
そしてついに、曲が終わる。
「………………」
拍手はない。
いや、皆忘れていたのだ。
誰もが余韻に浸り、音を鳴らそうとしない。
暫くして、ドレイルが一歩前に出た。
そのままゆっくりと、観客たちに向かってお辞儀をする。
そこで漸く、大きな拍手と歓声が起こった。
「「「わああああああああああ!!!!!」」」
流石に、今までで一番の歓声と拍手の雨。
ドレイルもまだ途切れていないらしく、堂々と応じていった。
そのうちユサとユアが出てきて、進行を再開した。
『素晴らしい歌声でした!! これは本当に素晴らしい!! 私も聴いていて感動してしまいました!!』
『これは流石に物臭な私でもしょーさんを送りたくなるわー』
『なんとあの怠け者の姉がそう言うほどなので間違いないでしょう!!』
冗談めかして言っているが、結構本気で驚いているユサ。
素直に人を褒めるとは思っていなかったらしい。
少し放心しそうになったユサは頭を振って気合いを入れ直した。
確かにここは正念場と言っても過言ではない。
何故なら、ついのこの時が来たからだ。
『では、いよいよ………残すは一曲です。これでライブは終了。これをしんみり終わらすのは勿体無いと思いませんか?』
ユサはパチンと指を鳴らす。
次の瞬間、
「「「!?」」」
様々な演出とともに、今まで出ていた生徒全員がステージに立った。
『最後は当然!! 盛り上がる曲だァッッ!!!』
「「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」」
————————————歓声と共に、前奏を鳴らす。
楽器は、俺の1人オーケストラと、ガリウスたちのバンドを組み合わせた。
歌はガリウス、俺、ミレア、ユア、ドレイルで回していく。
Aメロ、Bメロをソロ、もしくはデュオで歌い、サビを全員入り混ぜた合唱スタイルで歌った。
そこは無茶苦茶にならないように相当工夫したので、かなり出来は良かったと思う。
盛り上がりも中々だ。
派手な曲に、魔法と照明を余さず使った派手な演出。
まさに最後にふさわしい一曲だった。
ライブが終わる。
いろいろ苦労はしたが、間違いなく断言できる。
このライブ、最高に楽しかった、と。




