第462話
たった一言で表せば………なんて事が出来ないほどに、様々な要素が絡み合い、美しく調和した2人の踊りは、まるで自分も踊ってるような錯覚と高揚感を観客に与えた。
踊りだけではない、曲も観客たちを夢中にさせた。
いや、どちらかと言うと、曲をベースに踊りと構成を考えた節もあるので、歌声を聴くことにより、さらに深くその世界観に浸かれたことだろう。
この曲………こちらはまぁ既存曲なのだが、誰も知らないから問題ないだろう。
ダンスを考えている途中でふと思ったが、やはり作曲家作詞家と言うのは天才だと思う。
俺は言うのだから間違いないだろう、うん。
「ユサユア姉妹…………特にユアだけど、ちゃんとすればなかなかのもんだなぁ」
マックが観客に混ざってしみじみとそう言った。
手もちの魔法具が半分ほど売れたので、移動中なのだが、思わず魅入っていたらしい。
舞う——————
この表現は本当に相応しいとおもう、
それは翼が本当に生えているようにも思えるその踊り。
美しく、下品ではない派手さを持つドレスと、魔法による演出。
それは調和というよりは共生だった。
合わせるのではなく、それぞれがそれぞれの色を強く主張しながら、それでいて反発せず、不思議と違和感を覚えさせないような、そういう“作品”となった
「「………………」」
曲が終わり、客にはわからないようゆっくりと息を整える。
そして再び巻き起こる爆音のような喝采と歓声の声。
こう言ったものが好きなユサはもちろん、面倒くさがりのユアも悪くはないと思っていた。
「それじゃあ皆さん改めて司会をすることになったユサ・マストロフと!」
「この活発少女の姉のユア・マストロフでーす。基本喋るのそっちなんでよろしくー」
と、無気力にいうユア。
ユサはぐぬぬと叱りたいのを抑えてそのまま司会を行う。
少しばかりトークなんてさせてみたが、やはり結構ちゃんとこなすし、笑いもとっていた。
流石うちの陽キャ代表。
俺は裏で拍手を送った。
「………てな訳で、次いってみましょうか!! 早速ですが皆さんロックという音楽を知っているでしょうか!? まぁわからないですよね!」
元気よく言うユサ。
向こうだったら間違いなく笑われるセリフだとは言わないでおこう。
「今までのものとはまた一味違う一曲となってます!! 心の臓から震え上がる熱い演奏をどうかお聞きください。それではどうぞ!!」
ユサユアが外へはけていった。
ゆっくりと照明が消えていく。
今度はガリウスの希望でド派手な演出となっていた。
実は、ガリウス達は既にステージ上にいるが、展開術式で迷彩を施しているため、観客には見えていない。
さぁ、始まりだ。
3日目の借金をここで頑張って返せよ、ガリウス。
豪ッッッ!! と渦巻きながら火柱が上がる。
5つの火柱は螺旋状にゆっくりと回りながら中央へと迫っていく。
回転の速度を徐々に増していき、中央に位置する頃には、コマのように激しく回っていた。
すると微かに聞こえてくる楽器の音。
ゆっくりと、荒々しさを秘めた音が回転の速度と共に大きくなっていく。
すると、ドンッッ!! と言う音とともに、楽器は一旦止まる。
中央に巨大な火柱が立ち、その周囲を青い火柱が囲っていた。
そして、ギターによる甲高い音で火柱が消え、ガリウス達の姿が露わになった。
目配せをしたり、確認を取る様子はない。
今までのやつ奴同様、すぅっと息を吸い、それでいて呼吸を揃える。
ウォルスがスティックでカウントを取った。
さぁ、幕開けだ。
「ッッ————————————!!!!」
「「「っっっ………!!!」」」
大きな楽器の音は、心臓へ直接響く。
最初は驚くこの音も、後々大きな影響を及ぼす。
これはただの騒音ではない。
音と感情にまみれた、燃え盛るように熱い“騒音”である。
ドッドッドッドッ!! と言う音が、もはや楽器の影響を受けてなっている音なのか、自分の心臓の音か区別がつかなくなっている時、みな自然と交わっているだろう。
これが、これこそが一体感というものだったと思い知らされる。
熱い、熱い、熱い………………!!!
歌ってるやつも、演奏してるやつも、聞いているやつも、音という鼓動を共有し、一つになる感覚。
ライブの一体感ときたらそれはもう凄まじかった。
特に、強く激しい音を出すガリウスのロックは男性客はもちろん女性客もどんどんこの感覚の虜にしていった。
ラスト、最後の最後でクライマックスを迎えるとき、歌詞も音色も最骨頂へ向かう。
もっと、溜めて溜めて溜めて溜めて!!
激しくギターを鳴らすガリウス。
そして、ラスト。
ズドンと激しい、雷のような音色と共に、会場のボルテージはマックスになった。
「「「!!!!!」」」
駆け抜ける。
そして、暴れ倒す。
ガリウスの目の前には異様な光景が広がっただろう。
これだ。
“ノリ”が自然にできている。
初見の曲に誰も口ずさむ事は出来ないが、体はテンポに合わせて動いていた。
そしてついに、曲が終わる。
「「「うおおおおおおおおおおッッ!!!!」」」
勢いそのまま、歓声が聞こえてくる。
盛り上がりという観点から見れば、今日一番盛り上がったかもしれない。
熱気で汗まみれになったガリウスは、満面の笑みでこの光景を見ているのであった。
少ししてユアとユサがステージ中央に戻ってきた。
ユアの方は、熱気に嫌気がさしているようだ。
「あっづ………!!」
「いやァ、熱い演奏だった!! 4曲目、如何だったでしょうか!! おっと、この様子だと皆さんお喜びいただけたみたいですね!!」
元気のいい司会の言葉に手を振って反応する観客たち。
「さぁさぁどんどん行こうか!! 次の曲は——————」
次々に進めていく。
いろんなジャンルをやったが、どれもこれも好評だったようで、結構食いつきは良かった。
特にガリウスのロックは男性客に、ユサ、ユアのダンスと歌は女性客に大人気だったらしい。
そしていよいよ、ラストに差し掛かってきた。
だが、ここで一つ、箸休め程度のオマケで間をもたす事にした。
「さぁさぁ残すところ後2曲!! それではまず、会場をクールダウンといきましょう。束の間の氷の舞をどうぞご覧あれ!!」
氷魔法によるミニアニメーションみたいなのを5分間見せた。
結構いい感じだったので、ウケは良かった。
さぁ、いよいよ残り2曲。
その一曲は、純粋に歌をメインとした構成。
今まで楽器、ダンス、演奏、がメインだったりしたので、ここらで楽器を見えなくして、1人の生徒だけに注目してもらう事にした。
「それではいよいよ最後の2曲………それは、まるで神の祝福を受けたような美しく、透き通った声。歌声というものが持つ、心に訴えかける大きな力を感じ取ってください。それでは………どうぞ」
雰囲気を出すために、静かに言ってもらった。
こいつに特殊な演出はない。
なので突然フッと現れた亜人の娘に皆一瞬驚いている様子だ。
だが、ドレイルの身に纏う厳かな雰囲気を目のあたりにして、声を出せる奴はいなかった。
あの変な髪型をなくし、ちゃんとしたメイクを少しするだけで、こうも印象が違う。
その凛とした表情に、既に心を奪われた者も少なくないだろう。
そして、ゆっくりと開かれた口から放たれたその歌声は————————————
「 」
一瞬で全ての観客達の心を掻っ攫った。




