第46話
「さ、お前の能力でそいつらを見つけ出してくれ」
「ほ、本当にやるの? 聖くんって確か何も能力がないんじゃ………」
まだ俺のチカラのことは広まってねーのか。あの兵士はちゃんと言った通り報告したんだな。
俺はルドルフがちゃんと報告したのか気がかりだったが、どうやら杞憂だったらしい。
「ああ、問題ない。早く探そうぜ」
「は、はぁ」
美咲は千里眼を発動。
再び俯瞰で街を探す。
——————あれ、さっきと違う?
当然同じ場所には居るはずもなく、連中は既に別の場所にいた。
——————ここは………出ようとしてる!?
「聖くん! 出ようとしてる! 南門!」
「んー。了解」
俺は焦らない。
その必要はないからだ。
「なんでそんなに落ち着いてるの!? 書状が!」
「わーってるよ。つーかお前そんなデカイ声出せンだな」
「!」
冷静になった美咲は声のトーンを下げた。
「………早くしないと出られちゃうよ? なんで………ひゃあ!」
俺は美咲を担いだ。
担ぐのはこれで何人目だろうか。
まぁ、それはいい。
「あー、舌噛むな以下略」
「以下略!?」
俺は南門の方角を見据える。
距離はそう遠く無い。
しかし急ぎの用だ。
上をトップスピードで一気に行く。
「そらッ!」
俺は屋上へ思いっきり飛ぶ。
「と、飛ん………うわあああああ!!!!」
【トリオブースト】を掛け、屋根を飛んで行く。
「ま、魔法だ………」
「へぇ、魔法がわかるのか。と言うことは魔法の教育を受けてンだな。やっぱ固有スキルだけじゃ心許ないってことだ」
なんせ世界の敵である魔王を倒す勇者だ。
武器は多いほうがいい。
果たして、蓮や琴葉はどこまで成長したのやら。
「ん? でも今魔王ってどいつがやってんだ?」
リンフィア以外の魔王がいるのだろうか?
それとも人間サイドがリンフィアの事を知らないだけだろうか?
「今はいいか。もう着くし」
20秒前後で南門に辿り着いた。
「早ッ!」
「急げ、どいつだ」
「えーっと………あ! あれ!」
俺は美咲が指した方を向いた。
見覚えのあるシルエットだ。
「この手紙どうするんっすか?」
「俺の親父に届けるんだよ。そうすりゃなんとかやってくれる。それで俺たちはまあ褒美でもなんでも貰えるだろう」
「なるほど!」
なんて頭の悪い会話だ。
取り巻きもそうだが特にボンボン、名前はヨルデだったな。
あいつは酷い。
「あちゃー………」
「どうしたの?」
つい口に出る。
「この前会った連中だ」
「えぇ!? 大丈夫なの?」
「いや、ただ単に話しかけたく無いだけだ」
俺はあの手のバカが嫌いだ。
石田然り、ヨルド然り、人を見下している様な奴はもう特に最悪。
しかしやらねばなるまい。
「しゃーねぇ………おい」
「あ?………うわ! あの時の金髪!」
どうやら覚えていた様だ。
「それ、こいつのだからさっさと返せ」
「なっ………! あまり調子に乗るなよ貧乏人。俺の親父が誰だかわかってんのか?」
うわー、無いわー。親の威光を利用するドラ息子。虎の威を借るなんとやら。マジで引く。ほら見てみろよ、後ろの寺島、顔引きつってるじゃん。
だが本人に言うとややこしくなりそうな気配がプンプンするので言わない。
という事で一言で済まそう。
「知らん」
「な…………!」
口を開けて驚いている。
そこまで有名人なのだろうか?
「馬鹿な! ラクルの元領主だぞ! 今はアニキが継いでいるがそれでもお前なんぞよりくらいの高い家だぞ!」
「ラクル!?………マジかよ」
つまりあのクソヤロウの弟。
アレがアレならコレもコレだ。
兄弟揃ってクソとは、血の繋がりってすごい。
「はっ! 怖気付いてももう遅い! おい、お前ら! この生意気な馬鹿をボコボコにしろ」
取り巻きたちが俺の周りを囲む。
見るからに嫌そうだ。
流石に実力差はこの前の件で思い知ったらしい。
わかってないのはこいつだけだ。
「はぁ………早くしろ。加減はしてやる」
「う、うおおおおおおお!!!!」
俺は少しだけブーストをかける。
「………………フッ」
全員の首に手刀を入れた。
俺も上手くなったもんだ。
「はい、おしまい」
「嘘………」
後ろで寺島が驚いていた。
そういえばクラスメイトに戦ってる、とは言えないが、こっちに来て力を見せたことはなかった。
「これは返してもらうぞ」
そしてついでに書状も奪っておいた。
「い、いつの間に」
「ほらよ。もう無くすなよ」
「うん、ありがとう」
そのまま放って帰ろうとした、が、
「くっそおおおおお!!!」
向かって来たので、
「るっせーな。凍ってろ」
俺は指をボンボンに向けて氷四級魔法【アイスロック】を使った。
「——————」
魔法は体の中心に付着し、そこから一気に氷結した。
ようやく静かになった。
———————————————————————————
俺たちはとりあえず人通りの少ない路地に移動した。
「よし、じゃあ俺の役目は終わったな。それじゃあ………」
まあ、暇は潰せたし、よかったということで。
「あの、聖くん」
「ん?」
「えっと、その、ごめんなさいっ!」
何がだ。
何かされたか? 俺。
訳がわからん。
「今までは、その辺の不良の人たちみたいに悪いことばっかりしてるのかなって思ってたけど、琴葉ちゃんの話を聞いた通り悪い人じゃなかった。それなのに私は勝手に想像して、勝手に嫌って、それで………」
「………………」
なんと言えば良いのか。
俺は少し悩んでこう言った。
「俺は、いわゆる不良だ。その認識は間違ってないし、悪いことをやってない訳じゃない。琴葉から聞いてんだろ? 琴葉を殴った、ゴミをボッコボコにしたって。別に悪いとは思ってないけどいいこととは思ってない」
誤解されて当然だ。
「でも、俺は悪人じゃねぇ。今の馬鹿みたいなクズな真似は死んでもやらねー」
だから、と俺は言った。
「悪役になっても悪人にはならない。それが俺の信条だ」
「………クスッ」
「ンだよ。笑ってくれんな」
「あははっ、琴葉ちゃんや獅子島くん達が仲良くする理由がわかった気がする」
明るくなった。
どこか遠慮していた感じの雰囲気が完全になくなった様に見えた。
「そうかよ。あ、お前そろそろ行かねーとまずいだろ?」
「あっ、忘れてた」
「一個だけ頼む。今日会ったのは誰にも言うな。色々ごちゃごちゃしてっから」
「ふぅん? わかった」
「じゃあな、寺島」
「うん、またね、聖くん」
美咲は路地を抜けて走って行った。
「さて、俺も帰るか」
久々にクラスメイトに会った。
そんなに悪いもんじゃ無いなと思えた1日だった。




