第459話
ついにライブ開始まで1時間となった。
ステージに出る連中はすでに待機中。
外に出ているのは俺1人だった。
向こうにはユサ達がいるので、諸々のサポートは俺の代わりに行ってくれるだろう。
俺はというと、臨時スタッフへの業務連絡を行なっていた。
人数の空いている出店から最低限の人数を遣して、移動販売をする予定だ。
ちなみに、この間出店は閉める事にした。
こっちに全力を注ぐ。
多分想定以上に人は増えるだろう。
だから余った生徒には、裏方を任せるつもりだ。
「販売スタッフ共、準備は良いか?」
「いいけど、この魔法具本当に売れるのか?」
マックが訝し気な顔でそう言った。
手に取っているのは簡易魔法具。
俺で無くても作れたので、クラスの連中に可能な限り作って貰っていた。
この1ヶ月ずっと作って貰った。
1人1日10個。
技術科よりの生徒は2組になるので、こっちにいないのは痛かったが、基本技術は授業で学ぶのでただの球体くらいならあいつら軽々作ってくれる。
そして、プラス俺は1日500個。
バイクすら作った俺からすれば、このちっちゃな球体を500個作るのはもはや造作もない。
まぁ、素材は苦労した。
ラビのダンジョンから取れた鉱石の大半を使い切ってしまったくらいだ。
余った分は鋳造するのでいくらかは帰ってくるだろうが、正直トホホだ。
金は全額寄付? ふざけんな と、言いたかった。
ただ、作るのは本当に簡単だった。
大量生産も、リンフィアの銃弾を作る時にコツを得たし、エンチャントもかなり上達した。
歩く生産ラインと呼んでくれていいよ。
「そりゃ売るしかねェだろ。そのための販売スタッフだ」
「でもなぁ………実演販売つっても、そんな興味引ける芝居出来ないぞ?」
「芝居なんざしなくていいさ。期待してるぜ、リアクション芸人」
「誰がリアクション芸人だ」
そう、こいつは素のリアクションが面白いので、サクラにはうってつけだ。
「いいか、指定したエリアで売れよ。街にいる俺の知り合いで影響力のありそうな連中にもサクラやって貰ってっから。ある程度広がってから逆側に行け」
「うっへぇ………ホントに徹底してんなぁ。二曲目の合間に、だったよな。了解」
「よし。マックだけじゃねーからな。お前らも頼んだぜ」
「「「おう!!」」」
頼もしい事だ。
俺は返事の代わりにニッと笑って、控室に戻った。
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「あー、あー!! ききき、緊張するよぅ!! しっ、心臓破れる!!」
控室に戻ると、ドレイルが大声でネガティブを撒き散らしていた。
「なーに緊張してんだオメーは。とっておきなんだからシャキッとしろ」
「ででで、もっ!!!」
「仕方ねぇ………もう一食奢ってやろ」
「頑張ります!!」
やれやれ。
3日に一遍は奢らされている気がする。
確かあと2回たまっていたと思う。
せめてその甲斐はあったと思いたい。
「アニキ!! 俺様のロックどうっスか!?」
ガリウスにも参加して貰っている。
こいつは、複数名の男子生徒とのロックバンドだ。
まぁ、覚えがいい。
というか全員だな。
やはり才能に恵まれた連中が多かった。
ちなみに、ウォルスもドラムで参加するが、これがまた相当上手い。
「おう、見たぜさっき。めちゃめちゃイカす演奏する様になったじゃねーか」
「へへっ、そうっスか!!」
すっかり気の迷いもなくなり、打ち込めているお陰だろう。
解決できて本当によかった。
そうやって全員に声を掛けていくと、何かに気づいたミレアが俺を呼んだ。
「ケン君」
「ん?………………そうか、もう時間か」
「はい、そろそろ時間です」
いよいよ始まる。
長い練習を経て、今日に至るわけだが、めちゃくちゃ頑張って貰ったと思う。
多少の無茶もさせてしまった。
だから、俺も誠意を見せる必要がある。
………うん、今言おう。今しかねぇンだ。
俺は改まってみんなの方を向いた。
少し驚いた様な顔で俺を見ている。
いつも見せない様な真面目な顔をしているからだろう。
「………この場で言う話でもねーが、一ついいか? みんな呼んでくれ」
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「悪ィな。わざわざ呼んじまって」
「気にするなダネ。それで、どうしたのダネ? 全員呼ぶなんてただ事じゃないダネ」
ボルコはそう言ったが、大したことではない。
ただ一つ、隠し事をバラすだけだった。
いや………大事か大事じゃないかはここで決まるのか。
「俺は、お前らに話さねーといけない事がある。だから、聞いてくれるか?」
俺がそういうと、クラスの連中は快く頷いてくれた。
今まではあまり思わなかったことが、頭によぎった。
ああ、俺はつくづく、人に恵まれてる。
仲間も友人もいたが、それでも俺は本当に人には恵まれていなかった。
だが、この世界に来て色んな連中と関わっていく中で、俺は人の良さを知れた気がしたのだ。
だから、こいつらを信用する。
いや、もうとっくにしていた。
「まず、アルフィーナとシャル。ワリィな。あれで全部じゃねェンだ。ここで話すから許せ」
「話すなら問題無いよ。ねー」
「うむ。決心は大事だ。先に話そうとしてくれただけでも喜ばしい」
2人はあっさりとそう言ってくれた。
ありがたい。
「じゃあ、話す………………俺は、お前らに隠していた事があった。俺の正体と、力だ」
「「「っ………!!」」」
「「………………」」
みんなの表情が強張る中、ミレアとウルクだけ、何も表情を変えなかった。
「もう、だんだんわかってきただろ? 最近いろいろ雑だったし」
「「「あ………」」」
思い当たる節はあったらしい。
全員だ。
「そうだ。俺はかなり力を隠している。実際の俺は………………この国の三帝より遥かに強い」
「「「——————!!」」」
皆絶句した。
しかし反論しなかったのは、多分何処かで納得しているからだろう。
「俺の正体、それは——————異世界の勇者、そう言ったらわかるだろ?」
俺はとうとう正体を明かした。
もう何もいうまい。
どんな反応をされても俺は何も——————
「す………スゲェ!!! マジっすかアニキ!?」
「え?」
「成る程、どうりでこの高貴なる僕より優秀な訳か………ふ」
「あわわわわ!! ゆ、勇者様だったんだぁ………! すごいなぁ、すごいなぁ」
「ガリウス、ローゾル、ドレイル………」
「やれやれ、本当に君ってばどうでもいい事にこだわるね。あ、今度勇者にイケメンいたら紹介してねー」
「では私も勇者に強者がいれば紹介してもらおうか」
「シャル、アルフィーナ………」
「ケン、いろいろ説教した割には気にしすぎだぞ。あのシャルティールに言われるほどだ」
「そうダネ。意外とチキンダネ」
「そうだぜ、ケン。俺達はあの特別科なんだぜ?」
「そだなーハゲ」
「ハゲてねーよっ!!」
「ワッハッハっ!! そうか!! だからそんなに強いんだな!? なるほどな!!」
「ウォルス、ボルコ、マック、ユア、ユサ………」
「いいじゃん別になんでも」
「そうそう」
「別に俺ら気にしねーよ」
「他ならぬ仲間の事だし」
「お前ら………」
誰一人として、俺を責める奴は居なかった。
後ろを振り向くと、ミレアとウルクは優しく微笑んでいた。
「いいね、仲間って。これが仲間だよー。ケンくん」
「ここには、あなたを虐げる人も後ろ指を指す人もいません。貴方は、もっと眩しい場所にいるんですよ、ケン君」
「ウルク………ミレア………………は………はは、ははははは!! あっはっはっはっはっは!!!」
なんと下らない。
なぜ緊張する必要があった。
情けない。
飛んだチキン野郎だ、ヒジリケン。
「お前ら」
俺は多分初めて心のそこからの笑みを見せた。
「ありがとう」
フッと笑ったウルクは俺にこう言った。
「当然です。だって………」
「「「仲間!!」」」
「なんですから」
「………ああ!!」
暖かかった。
ここは居心地がいい。
ここに来て、本当によかった。
「あれしないか、あれ!!! ライブメンバーでやる予定だったやつだ!!」
ユサがそういうと、ライブメンバーが全員にそれを教えて円になった。
円陣だ。
「時間もないですし、ケン君。一言だけお願いします」
ミレアがそう俺に振ってきた。
まぁ、言う事は………いや、言いたいことは一つだ。
「………これは、ライブだけでやる訳じゃない。これから先全部のことで、この円陣で気合を入れる。じゃあいくぞ」
スゥッ、と息を吸って俺はこう言った。
「突き進むぞッッッッ!!! テメェらァアアッッッッ!!!」
「「「ッッゥ応ォォォォオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!」」」




