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第454話

 

 部屋は思った以上に広い。

 訓練場と同じくらいだろう。

 暗木メメに化けていた何者かは、ハナから俺とこれを戦わせるつもりだったことがよくわかる。



 「………………」



 残骸。

 正に、残った骸と言うわけだ。

 これ程ふさわしい言葉はないだろう。


 これには意思も理性も何もない。

 本能もないかもしれない。

 機械のように延々と破壊を繰り返す肉の塊。





 「y流英fフィルjふdんrjふwhwd」





 化物にふさわしい歪んだ口から、濁った“音”を発する化物。

 殺意とも敵意ともとれない意思のない視線がこちらへ向いている。

 破壊対象が俺へ移ったらしい。

 ボタボタと血の混じった涎を垂らしながらゆっくりとこちらを向く。

 ハンっ、と俺は鼻を鳴らした。



 「意識も身体も無くして、残ったのは破壊衝動と食欲だけか?」



 哀れとしか言いようがない。

 せめて、跡形もなく殺してやる位しか——————






 「………待てよ?」



 俺は一度止まった。

 これが暗木メメだったとして、何故こうなった?

 これは何の能力だ?


 固有スキルではない。

 理由は、単純。

 こんな能力は存在しないからだ。

 姿を変質させても、起きない事が起きてしまっているのだ。

 鑑定のバグという異常現象が。


 だったら誰がやった?

 考えられるのは1人。



 天崎 命だ。




 「だとしたら——————!?」




 ドンッッ、と言う音が鳴った瞬間、こいつは俺の背後へ回っていた。

 そして、すでに攻撃の体勢に入っている。


 なるほど、これは………………相当速いな。


 化物は間髪入れずに、右拳で直突きを放つ。

 いつもなら拳に沿うように避けて一撃与えるが、今回は横へ大きめに飛ぶ。


 すると、




 「っっぐッッ………!!」




 固有スキル【歪曲】


 万物を曲げ、空間さえもねじ曲げる能力。

 空間を極限までねじ曲げる事で、擬似ブラックホールを作れる。


 俺は今、その引力で拳に吸い寄せられていた。

 グッと踏ん張り、俺は少し観察をする。


 そうやって擬似ブラックホールを見ていると、当然化物はこっちに向かってきた。



 「操作がかなり素早い………」



 再び距離を詰められた。

 そして次の瞬間、俺は驚愕した。



 「なっ………!?」



 「g汁絵jぢをfジェイf系fjで」




 俺の動きを模倣している。

 こいつ、どうやら進化しているらしい。



 突き込む。

 化物は巨体に似合わない滑らかな動きでそれを躱しつつ蹴りを一回、回って二回。

 攻撃は下手に触れられないので、俺は二発目の直後、足を潜って背後に出る。

 だが、



 「大人しく………うお!?」



 ボッ!!と何かが飛び出したかと思った俺は、咄嗟に首を曲げてそれを躱す。

 着地と同時に連打を躱しながら、ブラックホールの射程から離脱した。

 それを予想しているように移動していた化物の攻撃をさらに予想して、身体を捻じりつつ避けてついた勢いのまま、化物の顔面に一撃蹴り込む。

 



 ………どうだ?





 しかし、




 「づづwkdkwfkくぃd」




 ピンピンとは言わないが、普通に動いている。

 かなりタフだ。

 それに、まだ強くなっている。


 長引かせるとあとは面倒くさそうだ。



 と言っている側から、化物は俺に向かって突っ込んできた。

 しかし妙だ。

 グッと体を体を縮めている。

 だが、妙に違和感を感じる。

 そう、背中だ。

 俺は、ボコボコと隆起する皮膚に、嫌な予感を覚えた。





 「aA——————あああああはははははははははAAAAAAAAAAAAAAAAhahahahahahahahahahah!!!!!!ははははハハはhahaはhあはdjqyでぇうふえいf!!!!」





 笑い声のような“音”を発すると同時に、無数の手を生やす。

 それを、連打、連打、連打。



 同時に、相当の数のブラックホールが出来ていた。

 凄まじい引力に引き寄せられる。


 ………………しかし、







 「………馬鹿が」



 擬似ブラックホール同士も反発するようで、それぞれの間には小さな隙間が開いていた。

 それでも引力を持っている事は変わらない。

 だが、その間には相反する力が作用しているのだ。

 



 それを利用する。


 どこにどう仕掛ければいいか。

 どの位置に、どの角度に、どの強さで。

 一切合切を計算し、最適解を出す。


 そして、





 「今度は、俺が詰める番だ」





 擬似ブラックホールの間をするりと抜けて、一気に化物の前に出た。

 化物は、ブラックホールを閉じて、そのまま拳を振り下ろそうとする。

 だが、行動がワンテンポ遅れている化物は、俺の行動に追いつけない。

 




 「悪いね………………ちょいとばかし、盗み見するぜ?」





 攻撃はしない。

 助けられるかもしれないなら、俺は助ける。

 悪人なら裁くし、そうじゃないなら何もしない。


 故に救うのだ。

 選ぶのは、その後でいい。




 だが、このままでは確実に救えない。

 本当ならば、変質した魂を救うには、同じ能力が必要だ。

 


 だから、裏技を使わせてもらう。

 目には目を、歯には歯を、特異点には特異点だ。

 そっちが使うなら、こっちも遠慮無く使わせてもらう。




 ——————土二級魔法【グランドランパート】×100



 100層もの土壁。

 そう易々とは破けないように補強もしている。




 「gぢぇいfじ——————!」

 



 時が来た。

 これより俺が踏み込むは、人に許されざる領域だ。

 神の知恵。

 これは元より、知識を与えるだけの力ではない。


 そう、これは知恵の神の叡智を以って、俺自身を神へと近づけるという、絶対禁断の(ワザ)なのだ。






 「『それは叡智の原点であり、永遠に赦されざる人間の原罪、神々の大いなる知恵。我はそれを求る愚かなる人の子。故に我は、再び罪を犯し、十字架を踏み壊す大罪人とならん』」








 両の目の色が金色に変わっていく。

 そして次の瞬間、俺の意識はゆっくりと溶けていった。

 広く、どこまでも深い“叡智”の海に。


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