第453話
ウルクは、あの件以来少々警戒心を強めていた。
誰かは知らないが、ルナラージャ側の人間は監視をしている。
早急に解決すべき問題だ。
だが、すぐに見つけられる気はしないし、もしかしたらわからない可能性もある。
どうなるかはわからないウルクは、とりあえず護衛をつけることにした。
まずはこの2人。
「姫………あれだけ無茶はしないようにと………」
「まぁいいじゃない。無事で何よりです、姫」
「うん、無事だよー」
バルトとレト。
ウルクを護衛していた騎士だ。
「いやー、どうなっちゃうんだろうねー、私」
「はぁ………あのですね、姫。この辺りにいる高レベルの連中から見たら、俺たちはそこまで強くないんです。俺が手を挺しても守り切れるとは………」
「ねぇ、バルト。怒るのもいいけど、ちゃんと警戒してよ。話によれば、その身を挺するが一切通じないくらい、ボクたちより強い可能性だってずっと高いんだから」
ウルクは、ケンから敵の強さを聞いているのだ。
ケンの話によると、敵は少なくともSランクの冒険者以上の力は持っているらしい。
ウルクは、その事を2人に言ったのだ。
「俺もわかっている。だから、お二人に頼らざるを得ないんだ」
そう、こんな時のために、と護衛を2人追加で呼んでいた。
顔見しりになった事が幸運だったと言えるだろう。
「俺ってば一応ギルドのトップマスターなんだけどなぁ。なぁローレス」
「アタシに言うんじゃないよ。そもそもアンタが受けるって言ってただろうが
銀冠の2人、ダグラスとローレスだった。
「王女サマ。うちの主人が無礼な事を言ったら遠慮無く言って下さいな。もうボッコボコにするからね」
「嬢ちゃんマジで頼むぞ………あ」
はい、一発。
タメ口をモロに聞かれ頭頂部に肘鉄を食うダグラス。
「何をタメ口利いてんだいアンタ」
「うぉおぉぉぉぉ………………割れるぞこりゃぁあ………」
「大丈夫ですよー、ローレスさん。むしろ気軽に話してほしいです。私もその方が気楽ですしー。意地でも敬語を外さないのはこの2人だけで十分だもんねー」
ウルクはジトーっとした目でバルトとレトを睨んだ。
「言ってるじゃないですか、姫。ボクが敬語じゃないのはバルトのせいですって」
「これだけは譲れません。俺たちは姫に忠誠を誓った騎士です。故に、それを忘れぬためにも敬語だけは外せません。軽くなっているだけマシだと思ってください。ダグラス殿とローレス殿は、差し支えなければ、普通に話されて欲しいです」
「はぁ………それじゃ遠慮無く」
仕方ないと言いながら、ローレスも敬語を取った。
「ウルク姫、アタシらはこれからアンタの守護をする。いついかなる時でも、望みと有れば供をするつもりさ。存分に頼りなよ」
「はーい」
ウルクはピッと手を挙げた。
心強い護衛だ。
しかし、それでも完全とは言えない。
その事を、誰よりもダグラスが知っていた。
あの合宿の時に、遠くで感じたユノ………由知の異様な魔力を思い出していたのだ。
異様。
異様といえば、知り合いにも1人。
——————お前さんも何処かで誰かと戦ってんのか? なぁ、坊主
———————————————————————————
トンネルを抜けると、妙な場所に出た。
「………」
歪んだ部屋にいた。
荒れ果てた景観より、こちらの異様さが嫌でも目に入る。
壁や床がグネグネに曲がっている。
家具も、飾りも………………死体も。
不愉快で、悪趣味な部屋だ。
「これ………誰の死体だ?」
俺は床に打ち捨てられている変形した白骨死体を調べてみた。
どうやら、これは固有スキルの様だ。
ものを無理矢理ねじ曲げる能力………“歪曲”か。
「………!」
血だ。
骨の近くに血が落ちていた。
「まだ新しい………戦っていたのか? 死体の骨の損傷部からして、背中を殴られた後に歪曲された感じだ………それもかなり強い力で。ハンマーじゃないな………かと言って、魔法じゃ無さそうだ。魔力跡がない。新しい血があるくらいだから、魔法を使ったなら魔力を感じるはず。だったら………素手? いや、でもこれじゃ手がデカすぎ………!!」
「——————………————————————」
何かが聞こえる。
一つ奥の部屋からだ。
「………これやった奴か………」
少し、気を引き締めた。
残虐というよりは、無計画な感じだ。
何も考えてないような感じがした。
万が一どうにもならない奴なら………殺すしかない。
「………」
俺はノブに手をひっかけ、奥の部屋へと入った。
廊下だ。
造り的に防音性の高い部屋だったのか、今度は音がはっきり聞こえる。
俺は廊下を進んだ。
所々に妙な跡が付いている。
暴れ回っているようだ。
俺はさらに進んだ。
音がどんどん大きくなる。
この音は………このベチャベチャとした不快な音は、
「………!! 咀嚼音か!」
嫌な想像だ。
固有スキルを持っている以上あれは人間の手で行われている。
それでもし、この大きな咀嚼音がそいつのものだとしたら、そいつが暴走状態だとしたら、まともに飯を食っているとは思えない。
それにこの音。
間違いなく無機物じゃ無く………肉を喰っている。
「くっっっっソが!!」
俺は荒々しくドアを開けた。
そしてハッと目を見開く。
「………………え?」
巨大な何かだった。
紫色の巨大な人形の何か。
所々に顔や手が生えている。
見覚えのある顔。
あれは………
「本物の………………暗鬼メメか?」
その名前に反応したのか、化物が振り返った。
「うdyうぃfjすrjlくぉdふfyぢづwq」
もはやそれは言語ではない。
そしてこいつは、もはや人とは言えない生物だった。




