第450話
ゲリラライブを具体的にどこで行うのかと言うと、各地に点在する俺たちのクラスの出店付近にて行う予定だ。
知った客ばかりと言うデメリットもあるが、それ以上に、今回取った場所は集客という点で大きな利点があるため、ここで行うにあたってはメリットの方が大きいのだ。
つまり、かなり多くの人目には触れられる。
「んじゃ、それぞれ指示した通りにやれ。興味を引くように、かつ中途半端で落胆させるんじゃなく、ある程度、客どもを満足させて、もう一度聴きたい、見たいと思わせろ」
「「「おお!!」」」
———————————————————————————
「ま、俺はここだろうな」
「うぅ………き、緊張するよぅ………」
俺はドレイルを連れてレストランの前に立った。
いい時間帯だ。
ちょうど混む時間で、ドレイルを見知った客がよくここを通る筈だ。
まずはこいつらに“客引き”をやってもらおう。
「見物客、野次馬ってのは伝染するモンだ。だからまずは“種火”を作る必要がある。見知った客。こいつらは種火だ」
「た、種火………………」
「まぁ見てな」
俺はアイテムボックスから魔法具に改造した特殊なギターを取り出した。
造りは複雑で、音階意外にも、流した魔力次第ではギターでは出せない音も出せる。
それでは、始めるとしよう。
「————————————!!!!」
「「「!!!」」」
鳴らす、鳴らす、鳴らす。
聴き慣れないギター音に、予想以上の人が反応する。
加速。
更に加速し、加えて音を一種類追加。
勢いというのは人の心に大きな波を生む。
まだだ。
まだ足りない。
俺は更に一種類、また一種類と加え、一つのギターに、まるで一つのバンドが出来ているような異様な光景を生み出した。
更に人だかりが増える。
よし………
ここからは動きを加え、派手なアクションを見せる。
いいぞ、盛り上がってきた。
こういう“魅せる技”というものは、本当に人を惹きつける。
同じくらいのステータスがあっても、これは経験が無ければ生み出せない動き。
自分ではできない動きというのは、人にとって興味の対象となるのだ。
そして、
「………………………っと」
一通りの演奏を終え、周囲の見物客達は俺に雨のような歓声と拍手を送ってくれた。
まぁ、客引きだがこれはこれで悪くねー気分だ。
向こうにいた頃は、ギターが弾けても披露する機会がなかったからな。
「さてと………準備はいいか? ドレイル」
「う、うん!」
問題は………無さそうだ。
それじゃあ客引き本番、始めようか。
「おい、テメーらァア!!」
「「「!!」」」
「“続き”が聴きたくねェか?」
そう呼びかけると、群衆から凄まじい歓声が弾丸のように飛んできた。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」」」
「っ………!!」
ゾクゾクと体を震わせるドレイル。
人前で歌うことのなかった彼女が初めて覚えた“武者震い” というやつであった。
「今度は歌詞つきだ。行くぜ?」
俺はドレイルと目を合わせた。
ドレイルは、心なしかワクワクした様子で、コクリとうなづいた。
「ふぅ………………」
目を閉じ、一呼吸。
そして、
「スゥ………ッ———————————————」
「「「!!!」」」
場にいた全員が、その歌声に聞き惚れた。
俺の時とは対極的な反応。
静
アップテンポな演奏で盛り上がり、騒ぎ回っていた俺の時とは違い、逆にこちらでは誰もが歌を聞き、一切の音が消えた。
だが、それでも流石に外部から音は漏れる。
故にちょっとしたズルを行なっている。
そう、音魔法のミュートエリアだ。
外部の音を消し、ドレイルの歌と俺の演奏に身が聞こえるようにしている。
そして、一曲歌終えた。
「フゥ………………あ、ありがとう、ございます、ました」
ペコリとドレイルがお辞儀をすると、一気に歓声が湧いた。
「スッッゲエエエエエエエ!!!」
「何だ今の!? めちゃくちゃ感動したんだけど!?」
「声綺麗………」
「もっと聞きたい!!」
大成功だ。
客引きはかなり上手く行ったと思われる。
「キャラじゃねーが、これもパフォーマンスだ」
俺はパチンと指を鳴らした。
すると、あらかじめ仕掛けていた魔法具が作動し、大量のビラをばら撒いた。
そして、俺は宣伝した。
「ライブ、というモノをあんた達はしってるか? まぁ、知らないよな。平たく言や、こいつレベルの歌い手や楽士が集まって演奏会を行うってことだ………場所、日時は紙にある通りだ!! もっといい演奏、歌、踊り、そういうもんが見たい連中は見なきゃ損だぜ? この機を逃せば二度と見れねェ!! 何人でも連れてこい!! 人数が増えれば増えるほど、イイモン見せて聞かせてやる!!」
「よ、よろしくお願いします!!」
さァ、どうなるか。
本番が楽しみだ。
———————————————————————————
「………」
一人の少女がビラを拾う。
それを見た少女は、故郷のことを少し思い出した。
でどころはどこかと当たるを見回す。
いた。
金髪の少年、派手な頭の少女がこれをばら撒いたらしい。
なるほど。
なるほどなるほど。
「————————————見・つ・け・た」
少女はニィっと顔を歪ませた。
二つ結びの黒髪の少女。
日本人の少女はウネウネと動く何かを手に握りしめ、ケンを見つめていた。




