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第448話


 魔獣演武祭。

 第二種目。


 その最終ステージは、マギアーナに来ていた屈強な騎士たちとの模擬戦だった。

 殺傷は無しだが、どの戦いも激しい戦いだった。


 中でも白熱したのは、ガリウス・ウォルスペア対騎士長ガイウス・ガルディウスのカードだった。



 名のある騎士の一族の親子対決だったというのもあるが、その一族の当主であるガイウスについていったガリウス達の戦い振りに皆が感動していた。



 今から振り返って語り直すとしたらかなり長くなるだろう。


 よって、結果から言おう。

 







 この勝負は、ガリウスとウォルスの敗北だった。










———————————————————————————












 煙が晴れて立っていたのは、ガイウスだった。

 口からは少し血が滲んでおり、片腕に相当のダメージを負っている。





 「全く………………殺しは無しだというルールの筈なのだがな………………まぁ、私も言えたことではないか」





 ガイウスは、倒れたガリウス達のところへ行く。

 ウォルスは完全に気を失っており、魔力がギリギリ残っていたガリウスだけは辛うじて意識を保っている。




 「く………………そ………」



 「残念だが勝負は勝負。大人気ないが、最後は少々本気を出したよ」



 「やっ、ぱ………手ェ………抜いて、やが………ったの、か………クソ、が………」



 「誇っていい。国の要たる騎士団の一騎士団長にここまで迫ったのだからな。しかし、この勝負は私の勝ちだよ、ガリウス」




 「………………」





 ガリウスはもうしゃべる気力も無い。

 それでもその目はまだ衰えることのない闘志を宿していた。





 「だが、()()()お前達の勝ちだ」



 「!?」



 「我々団長や副団長クラスとの戦闘の場合、一定の時間試合を続けられれば、その時点で試合は勝利となる。お前達はその時間を超えて私と戦った。ポイントは入るだろう」



 ガリウスは釈然としなかった。

 だが、これでケンに少しは申し訳が立つと思い、少しホッとした。


 しかし、それでも点数は完全では無い。

 せめて一点でも多く点を取るために、いかなければならないという意志がガリウスの中を駆け巡っていた。




 「………!? ガリウス、まだ動くな!! その状態で動けば魔力欠乏症になるぞ!!」



 「あ、に………キ………ケンの………あに、きに………好き、勝手………………した、わ、び………しね………ェ、と………………」



 


 ガイウスの忠告を振り切ってまで向かおうとするガリウス。

 その時だった。






 「リタイアだ、ガリウス」









———————————————————————————









 決着がついた瞬間、俺は全速力で会場へ向かった。

 あの傷と残存魔力ではリタイアが確実だ。

 向かわなければ。




 到着すると、ガリウスとウォルスが倒れていた。

 ガリウスの方は、まだ意識があり、ゴールに向かおうとしていた。


 仕方ないやつだ。

 だから、俺はこう言った。

 




 「リタイアだ、ガリウス」





 ガイウスは声の聞こえた方へバッと振り返った。

 ガリウスも大きく目を見開いていた。




 「その状態じゃ、どの道休憩がいる。回復アイテム禁止のこの競技じゃ、間に合わねーよ」




 俺は丁度、ボクシングのタオルのようなものだ。

 補助係が無理だと判断した場合、係の生徒が入って、リタイアを告げに行くというルールだ。



 「あ、にき………アニキ………俺、俺様は………!」



 俺はガッと肩を掴んで、ガリウスにこう言った。





 「よくやったガリウス。よく勝ってくれた。過去に打ち勝つなんて中々出来ねェんだぞ? 誇っていい。やっぱりお前は、俺の自慢の舎弟だ………………だから、今は休め」




 「あ………………ぁ………」




 ガリウスはパタンと倒れて気を失った。

 まずは手当てだ。

 映像を映さないように、使い魔達を退避させる。

 

 情報漏洩は避けるべきだろう。

 ガイウスは、俺の正体を知っているので大丈夫だ。

 周囲を確認し、俺はは早速ガリウスとウォルスに回復魔法で治療を執り行った。



 すると、




 「これがヒジリケン………大騎士長殿が言っていたのは本当だったか………」




 背後に立っているガイウスが感心するようにそう言った。



 「アンタも騎士だったな。ガルディウス家。炎魔法と格闘系の戦闘術を主体とした戦法を代々受け継ぐ一族。その戦闘能力の高い一族の中でも、特別高い能力を持った天才騎士。それがアンタ、ガイウス・ガルディウス………だったっけか?」



 「君に天才などと言われると、いささか皮肉めいて聞こえるね」



 「気にすんな一般からみりゃアンタは天才だよ。俺が突出して特殊な例ってだけだ………………なァ、おっさん」



 俺がそう呼びかけると、ガイウスは真っすぐに俺を見た。



 

 「アンタの話は、ウォルスから聞いた。アンタも不器用な男だな。だから嫌われるんだよ」



 「そうか、知っているのか………それは恥ずかしいところを知られてしまったな」



 ガイウスは罰が悪そうにそう言う。

 俺はそんなガイウスに一つ質問をぶつけてみた。



 「………………アンタ、わざとウォルスにガリウスを連れ出させたんだろ?」



 「………………まいったな、バレているのか」



 「ウォルスにもな。それと多分………ガリウスにも」



 ガイウスはそれを聴くと一瞬大きく目を見開いて、申し訳なさそうに笑った。




 「………私はただ、これ以上失いたく無いだけだった。だが、そのお節介が、ガリウスに大きな傷をつけてしまった………はは………あいつの言う通りだよ。私はただ、失うのが恐ろしいだけの小心者だ」




 「………アイツは本心からはそうは思ってねぇと思うぜ?」



 「え?」



 「素直じゃ無いから、悪言を口にするし、悪態をつく。でも、根っこではそう思っていないから、あんなモンを腕につけてたんじゃねーのか?」





 「あ………………」





 ガイウスはストンと何かが落ちたように肩を落とした。




 「ほら、寝てる今がチャンスだ。アンタ、騎士である前にこいつの親父だろ? さァ」




 俺は一歩横に引いて、ガイウスにガリウスの前を譲った。

 ガイウスは膝をついて、ガリウスの顔をじっと見る。


 その表情は、戦っている時のものとは別人かと言うほどに違っていた。


 それは、これ以上ないくらい、父親の顔だったのだ。





 「………………すまなかった………すまなかったなぁ………私の弱さのせいで、お前を苦しめてしまった………すまない………ガリウス………」




 俯いて、我が子の穏やかな顔を見て必死に謝る父親。

 その横顔はきっと、ガイウスの知っているガリウスの顔より、ずっと逞しかった事だろう。

 そして、ガイウスはこう言った。





 「本当に、強くなったな………ガリウス………」





 戦ってようやく向き合った親と子。

 彼らは、親子に戻ることは出来たのだろうか。


 俺にはわからない。

 だが、小さく笑みを浮かべる彼の友の顔を見て、そうだといいなと、俺は思った。








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