第446話
「あれは………手甲剣か?」
ファリスがガリウスの腕についている紅い手甲剣を見てそう言った。
俺が見た通り、やはり仕掛けがあったようだ。
最高級の特殊鉱石であるアダマンタイトを使ってかなり複雑な術式を直接書き込んだものだ。
その希少さのせいで、実物を手にする機会は今までなかったが、ここでようやくお目に描かれた。
「いい武器だ。あれならば魔法と武器を極限まで同化出来る。今のあいつの動きにぴったりだ」
「違和感は感じ取っていたが、本領を発揮すればあそこまで違うものなのか………思えば、名のある騎士の家系にも関わらず、能力に不釣り合いがあるのはおかしかったんだな」
確かに、こうも違うと変化後の凄まじさがよくわかる。
使わなかった理由は、なんとなくわかる。
乗り越えたかどうかはよくわからんが、大事なのは、今アイツが殻を破ったという事。
親友が痛めつけられるところを目のあたりにして激昂した事がきっかけになったのだろう。
もうアイツはなりふり構わない。
「こうなったら人間ってのは強ェぞ、おっさん」
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「フッッッ………!!!」
先程とは違い、無駄を削いだ一撃。
ガイウスはこれをギリギリで躱し、ガリウスの懐へ入り込もうとする。
「ハァッッッッ!!!」
炎を纏わせた刃がガリウスへと向かっていく。
だが、
「舐めんじゃねェ」
だが、ガリウスは少し後退しつつ炎魔法を近距離から射出。
ガイウスは同じものをぶつけつつ後退。
ガイウスは手甲剣を地面に突き立て減速。
その後すぐに再びガリウスへ向かっていく。
対するガリウスも同じ減速し、止まった後に地面を蹴って前に進む。
「フッッッ………ッッッッァアアアアアアアアッッッ!!!」
「ズァァアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
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「スゥー………………よし」
最低限動ける程度には回復した。
ウォルスは腕を固定させ、折れていない方の手で杖を持った。
だが、回復で魔力をかなり消耗したため、残りは僅か。
魔法を主体に戦闘を行なった場合、ウォルスのMPは保って1分。
それを超えて魔法を行使した場合、魔力欠乏で気絶、他にも複数の症状を併発、最悪の場合死亡だ。
祭りで本気で戦って死ぬなんて、頭の悪い阿呆のような真似はしたくないと思っているが、この状況では遊びと言ってても抜けない。
どちらなのかを選べと言われたら、ウォルスは命をかけるつもりだった。
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2人は、鍔迫り合いの状態で固まっていた。
本気を出せば、ガリウスを吹き飛ばすくらいの力はあるはずなのに、ガイウスはそうしようとせず、ガリウスにこんな事を尋ねていた
「なぜ………」
「アァ!?」
「なぜ今になって、それを使おうと思った?」
「………」
ガリウスは少しだけ沈黙する。
そして、
「逃げるなだの何だのごちゃごちゃいって結局俺様が一番逃げていたし、甘えていた。………………過去から逃げてェから爪を使い、そんな体たらくだからウォルスを守るどこか支えられちまっている」
ガリウスは一瞬、申し訳なさそうにまぶたを閉じた。
「今俺がこれを手に取って戦っているのも、昔みたいにアンタに教わったこの戦い方で戦うのも、全部アイツがいたからだ。だから、その理由を傷つけさせねェために、意地を捨ててでもテメェをぶっ殺す。ただ、それだけだ」
「………………そうか。だったら、本気で来なさい。“2人とも”」
「!?」
ガリウスはチラッと後ろを見た。
そう、ウォルスだ。
ガリウスは手甲剣を弾いて、ウォルスの方へ行く。
「お前………たてるのか!?」
「なんとかな。でも、もうそろそろ限界が来る。だから、ガリウス。後1分だ」
ウォルスは地面に杖を突き立てた。
地面に魔力を流していく。
「さァ、倒すぞ。ガリウスッッ!!」
「っ………………おう!!」
肩を並べ、正面にガリウスを見据えるガリウスとウォルス。
ここが正念場だ。
この1分で勝敗が決まる。
「ガリウス。時間がないから一度だけ説明する」
「?」
「もし戦っている時、ここだ、と思うところがあったら、獅子の紋章にありったけの魔力を注いでくれ」
「? ああ」
作戦という作戦はない。
いよいよ戦いが始まる。
ガリウスはグッと屈んで、足に力を込めて、そして、
ドッゴォオン!!!
地面を蹴って、全力で進んでいく。
そして、ウォルスも同時に魔法を展開。
その魔法は、
「【ミラープリズン】」
氷二級魔法。
氷で作った鏡で敵を覆い、一種類の映像を折の中の全ての鏡に反映させるというもの。
「!!」
一瞬でもいい。
混乱させる状況を作る。
「ゥウウウオオオオオオオオオアアアアア!!!」
ウォルスの推定限界時間まで、残り40秒。




