第440話
「次、特別魔法科一組ガリウス・ウォルスペア。配置につけ」
大半のクラスが出発している。
残るは教師チームとガリウス達だけだった。
指示に従って、ガリウスとウォルスはスタート地点でレッドの上に乗っかる。
「気合入れろよ、レッド」
「ガルルルル………」
レッドは大きな唸り声で応えた。
やる気十分だ。
「アイザック、行けるか?」
「………」
ウォルスのソウルギャザー、アイザックもコクリと頷いた。
グッと体を伸ばして準備運動をするガリウスとウォルス。
おそらく、妨害はかなり激しいだろう。
「スタートダッシュだけど、久々にあれやるか?」
「なるほど………………確かに、あれはうってつけかもしれないな。それでいこう」
「“強化版”でいいな?」
「もちろん」
この2人、ガルディウス領を出て行って、ガリウスがファリスからスカウトがかかるまでの期間に冒険者をやっていた時期があった。
その時に考えた技が今やろうとしている技だ。
しかし、いかんせん隙が大きいため、奇襲用でしか使えなかった。
この間の対ドラゴン戦の際は奇襲をかける暇がなかったので使えなかったが、今回はたっぷり時間がある。
十分ためて撃てるだろう。
それに、強化版と言ったが、これはケンによって更に効率化され、より強いものが打てるようになっている。
「カウントを開始する。10,9,8,………」
カウントが始まった。
いよいよ始まる。
「アイザック、位置調整だ。合図を頼む」
ソウルギャザーの特有は視覚共有だけではない。
そもそもウォルスがアイザックを選んだのは、そのサポート性能からだ。
感覚共有により、魔力調整をサポートをかなり細かいレベルまで行うようにすることも可能。
「60%で行くか?」
調整可能とは言え、これはなかなかに危険な技だ。だから、打つときは決まって加減しているが、
「あぁ!? ンなみみっちぃ真似できっかよ………当然、全開だ!」
ギャザーを使い、完璧に魔力を調整しなければ最大効率にはならない。
故に、今まで威力を抑えていたが、今はもうその必要はない。
「特科の意地っつーモンを見せてやるぜ。な、レッド」
このスタートダッシュはその例の技を出すタイミングとレッドが最初に地面を蹴るタイミングが合わさって初めて成功する。
レッドは魔力強化した脚をググッと今まで縮めていた。
合図はあった。
あとはガリウスに合わせるのみである。
そしてついに、
「3,2,1,………………始めッッ!!」
「行ッッッくぞォォオオアアアアッッッッ!!!」
炎二級魔法【ブラストフラワー】
空中を移動する時の加速や、後方からの防御に使う魔法。
フラワーと言うのは、発動時の炎の形が花咲いたように見えることからつけられたのだ。
だが、今回は花は咲かない。
ガリウスのこの魔法を絞り、ウォルスが放ったファイアウェーブにより形を調整破壊力ではなく推進力を上げる。
そして、向きをアイザックが調整し、レッドがそれに合わせて地面を思いっきり蹴る。
先に結果だけ述べる。
加速は成功だ。
だが、
ッギュンッッッッッッ!!!!
その加速はあまりにも、
「「ッッ————————————!?!?」」
早すぎた。
予想を遥かに上回るスピードだ。
それに面をくらう2人。
「はっっやいな!!」
「うはははははは!!マジかこれ!!」
だが、気は抜けないのだ。
「コースアウトだけは防ぐぞッッ!!」
この加速が成功しても、コースを飛び出せば失格。
故に、
「アイザックッッ!!」
レッドの着地に合わせて、その足が傷つかないようコーティング、同時に次の一歩の位置調整を行い、
「右30、直進、左60、右15、直進、直進………」
コースアウトを防ぐ。
この微調整の失敗はできない。
しかし、ウォルスは魔力操作の精密度はクラストップの実力を誇る。
加えてクレバーな思考は、こう言った作業にはお誂え向きだった。
すると、
「うわっ、なんだ!?」
「なにがッッ、お!?」
「はぁ!?」
一気に追いつき始め、どんどん他のチームをごぼう抜きしていった。
そしてついに、
「ふぅ………一山超えたね。我ながらうまくいったと思う」
「おう!! つーか………一気に順位半分まで来てね?」
「ああ、らしいな」
いきなり最初の加速で全体の半分まで来れたのだ。
これはだいぶ大きい。
だが、これはあくまでもレースであり戦いだ。
「——————」
「! ガリウス、後ろだ!!」
背後から迫る槍。
ガリウスは装備した爪で槍をガードする。
「ふィー………っぶねェ」
いち早く察知したアイザックの通知で攻撃の回避に成功した。
「なっ!? こいつら何でっ」
驚いた敵が隙を見せる。
「ウォルス」
「了解」
ウォルスは武器を狙って風魔法を放った。
一瞬で我に帰った敵は、それを先端に集中させたあ魔力で分散させる。
が、既にレッドは間合いを詰め、ガリウスは相手が爪を跳ね除けた間に攻撃を開始していた。
「ちょっ………!?」
見事なまでの連携。
呼吸、合致。
寸分の狂いもなく、タイミングは正確に、相棒の意思を汲み取る。
「ガリウス」
「任せろ」
槍を跳ね除ける。
だが、敵も馬鹿ではない。
向こう側のパートナーが攻撃した瞬間を狙って攻撃していた。
しかし、ガリウスはなにもしない。
もう終わっているからだ。
「相変わらずいい仕事してんな、オメーは」
「そりゃどうも」
ガリウスが合図したのは槍を持った敵への攻撃ではなく、もう片方の攻撃の阻害だった。
隠れて放った土魔法が攻撃を遮り、ガリウス達はそのまま敵を置き去りにした。
レースは序盤。
2人は確かに手応えを感じていた。




