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第44話


 「ミサキ殿、逸れないようご注意を。人が多いのでなるべく離れないようお願いします」


 フェルナンキアについた美咲は、ひとまず予約を取ってあった宿に向かう。

 ちなみに国が用意しただけあってケン達が止まっている宿よりずっと高級なところだ。


 「はい」


 美咲はトムに連れられて宿に向かう。

 中心部にあるギルドの目の前にある宿だ。


 「うわ………これは」


 見る限り高級感丸出しな場所だ。

 ここに入る高校生はかなりの勇者だろう。

 まあ、勇者なのだが。


 「は、入りたくない………」


 美咲は少々引っ込み思案な性格だ。

 コミュニケーションは普通に取れるし、慣れた相手なら多少は激しいスキンシップでも平気だ。

 だが、目立とうとはしない。

 例えばクラスの発表の時手を挙げるなどの行為を率先してしないタイプだ。

 

 「どうされましたか? ミサキ殿………ああ、やっぱり未成年にこれは厳しいですね」


 トムは理解してくれてはいるが必要なことなので無理やり宿に放り込んだ。


 「うう………入り口で人がたくさん見てたよぅ」


 「すみません、ミサキ殿。ですが急ぎこれを届けねばなりません。私は部屋の鍵を取って来るので少々お待ちを」


 トムが受付に向かい、高級宿のど真ん中でぽつんと残された美咲。


 「心細い………うう、取り敢えず座ろう」


 今更だが緊張してきた美咲。

 よく考えれば今から会うのは国中に散らばるギルドを纏める人。

 冒険者だけでなく商人もだ。


 「お待たせしました、ミサキ殿………ってあれ? 顔色が優れぬようですが」


 「いや、緊張しているだけです。早く行きましょう、トムさん。こういうのはパパッと終わらせた方が帰って緊張せずに済みます」


 「はぁ、なるほど。では行きましょうか」


 






 ———————————————————————————








 「また女だぞ。最近多くねぇか?」


 「本当だ。おかしいな、女の新人って月に2人くらいだよな。まだ一週間も経ってねぇぜ?」


 「今や女も戦う時代になってるんじゃないか?」


 「はっはっは、そいつァ怖ェな!」


 誰が言ってるのかわからないが間違いなく自分の事だろうと思った美咲。


 「め、目立ってる。いや、女性の冒険者さん沢山いるのになんでですかトムさん」


 「おそらく新規登録する冒険者と間違われているのでしょう。確かここで新規登録する人自体少ないらしいですよ。性別関係なく。なんででしょうね」


 と、トムは言うが、これは簡単な話だ。

 ただ単に、ここの冒険者志望の女性が既にみんな冒険者になってしまっているという事だ。

 地方にもギルドはあるのだからわざわざここで登録する人がいないというのがアンサーである。



 とかなんとか考えているうちに受付にたどり着いた。



 「ようこそ、冒険者ギルド、フェルナンキア総本部へ。本日はどのようなご用件でしょうか」


 「自分は王都から来た勇者の護衛であります。ギルドマスターに御目通り願えないでしょうか」


 「勇者………確かに連絡は受けております。では書状の提示をお願いします」


 「ミサキ殿、書状を」


 「え? 私トムさんに渡しましたよ?」


 


 まさか、と2人は思った。



 「まさか、紛失されたのですか?」


 受付嬢はそう尋ねた。


 「ど、どうやらその様です」


 「………申し訳ございませんがそれではお通しできかねます」








———————————————————————————







 「ど、どうしましょう。ミサキ殿」


 「いいい、いや、マズイですよ! 首斬られちゃいますって!」


 2人ともパニクっている。

 あれは王が直接書いた書状だ。

 それを無くしたとなるとタダじゃ済まないだろう。


 「あ、そうだ! 私のスキルで探せば!」


 「その手がありました!」



 美咲の固有スキル。

 それは、【千里眼】だ。


 見たいものを思い浮かべて、それを俯瞰できるという能力。


 「ふぬぬ………」


 念じる。

 書状の形を。


 形が頭に浮かび上がる。


 


 「見える………」


 フェルナンキアが見える。


 「もっと近く………」


 上空からの景色から徐々に高度が下がっていく。

 街の一区画に範囲が狭まる。


 「もっと………」


 そこからさらに狭まり、ついに書状が見える。


 「………入り口近くの裏路地! どうしましょう! 人が持っています!」


 「マズい! 急ぎましょう!」






 美咲は現場に急行する。

 人混みをかき分け、どんどん進む。


 さっきまでと違い、無理やり進む。

 急がなければ、大変な目にあうと言う恐怖が美咲を急がせた。


 「あともう少し、あともう少し、あと………あ、れ?」


 そして美咲は気がつく。


 「トムさんと逸れた!」


 人混みをかき分けるうちに逸れてしまったのだ。


 「………でも、先に行かないと!」





 美咲は現場にたどり着く。

 幸いまだ人はいた。


 「はぁ、はぁ、よかった………」


 美咲はホッとする。

 

 「おい、なんだこれ?」


 「手紙? やたら装飾が派手だな。なぁ、これ使えんじゃね?」


 「これは王族の書状だな」


 「マジっすか!? なんでそんなもんがここに」


 「!」


 美咲は思わず後ずさる。

 そう、彼らは美咲の嫌いな、いわゆる不良だった。

 そして彼らはあのボンボンとその愉快な仲間たちである。



 「あわわわ………」


 そのまま後ずさっていると、



 ペキッ



 と、何かを踏んでしまった。


 「ひえええええ!!!」


 さらに絶叫。

 となると当然、


 「あ? 何見てんだよ」


 「おっ、よく見たら可愛いじゃん」


 「おおっ! 確かに」


 こうなる。


 「あああ、あの、あの、そっ、その書状、かかっ、返してはくれませんか?」


 声が震えている。

 よほど恐ろしいのだろう。


 「ああ、いいぞ。ただし、」


 ボンボンはいやらしい笑みを浮かべ、


 「お前が相手をしてくれたらなァ」


 「ヒッ………」


 美咲は全速力で逃げ出した。

 不良が怖い美咲が話しかけただけでも奇跡なのだ。

 脅されたら逃げ出して当然である。





 「うっ……うっ」


 泣きながら美咲は走った。

 ひたすら地面だけを見て走った。

 そんなことをすれば、ぶつかってしまう。


 「あうっ!」


 「あ?」


 予想通りぶつかって弾き飛ばされた美咲。


 「す、すみま……せ………ん?」


 「おー、大丈夫か………………ん?お前——————」


 美咲がぶつかったのはあの男。


 「寺島か?」


 「ひ、聖くん」


 フェルナンキアで嬉しくない再会を遂げた。

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