第439話
「ローゾルお兄ちゃん!! そろそろ試合なのです!」
バタバタと手を振るエル。
店内が一瞬でほんわかした空気に包まれた。
ローゾルも顔を緩めている。
が、ハッとしたローゾルは顔をプルプルと振った。
「って、いかんな。この僕としたことが………オホン。ああ、聞いていたよ。放送は街から学院までどこにようとも聞こえるらしいからね。それにしても………そうか、試合………………確か試合には………」
「ガリウスお兄ちゃんとウォルスお兄ちゃんが出るのです」
ローゾルは頷いて反応する。
「そう言っていたね。ふぅむ………なるほど………少しばかり私情がとは言っていたがやはりコンビならばあの2人だろうな。こと戦闘に於いては、あの2人の連携はピカイチだからね。この高貴なる僕でも舌を巻くほどだよ」
「おー、それはすごいのです。それじゃあ、ガルディウス騎士団長って人にも勝てるです?」
「ガルディウス騎士団長か………確か我が父上も彼の事を語っていた事があったね。炎魔法の豪快で圧倒的な超火力と手甲剣の成す流麗な技の数々………やっかいな的になりそ………待てよ? 私情ということは、まさか彼らは騎士団長に挑むとでも言うつもりかい?」
「です!」
エルはぴーんと手を上に伸ばす。
「はぁ………………まぁ、ケンの采配だ。勝てない勝負はさせまい。ガルディウス親子対決。興味がないわけではないがね。爪対手甲。似た武器ながら違いは出るが………」
「ガリウスお兄ちゃんは手甲剣使わないのですか?」
「ああ、見たことないね。そう言えばそれも妙な話だ。何かしら事情があるのだろうね」
「むぅ………どんな事情か気になるのです」
エルは難しい顔をしてそう言った。
「そうだね。でももし、それをなんらかの理由で封じているのなら………………フッ、そうだったら、万が一もあるかもしれないね」
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話題に上がっていたガリウスとウォルス。
2人は今、集合場所のベンチに腰掛けて、説明の開始を待っていた。
「………なぁ、ガリウス」
「あん? ンだよ?」
「いい機会だ。いや、少し遅すぎたかも知れないが、お前へと預かっていたものがある」
「へぇ、なんだよそれ? お、まさかアニキが何かくれてんのか?」
ガリウスはそうやって軽口を叩いているが、薄々どんなものなのか気がついている。
ウォルスはそれをガリウスに渡した。
「………はぁ………そんなこったろうとは思ってたぜ。うちの家紋の入ったブレスレット………何年前だっけか? 親父にもらったんだろ?」
「………悪いな。ずっと渡せず仕舞いだった。いや、渡したくなかったのかも知れないな」
「ぷっ………クックック………そうか」
ガリウスは思わず表情を緩ませてそう言った。
嬉しそうな表情だ。
「俺の親友に指一本触れんなとか言ってたもんな。お前」
「なッッッ!! お前聞いてッ………!?」
ガリウスはブレスレットを腕につけた。
サイズは不思議なことにぴったりだった。
「ヘッ、やな親父だぜ。俺様がこれくらいの年齢になってつけるってわかってたってか?」
「ガリウス………」
ガリウスはフッと立ち上がってウォルスの目の前に立った。
「今まで気ィ遣わせて悪かったな、ウォルス」
「………吹っ切れたか?」
「いンや? 俺様はまだあの家の連中は嫌いだし、それは多分変わンねぇ。だからよ、」
ガリウスは家紋をじっと見てこう言った。
「これをつけて、俺様はあの親父をボッコボコにしてやるって決めたんだ」
ガリウスはウォルスに向かって右腕を出した。
「信じてぜ、親友」
「………全く、恥ずかしげもなくそんな事言うんじゃない」
「ケッ、そいつはお互い様だ」
ウォルスはガリウス右腕に自分の右腕を組ませた。
この2人なりの気合入れだ。
「ルールを説明する!! 参加者は集まってくれ!!」
ガリウスとウォルスは顔を見合わせて頷いた。
「行こうぜ」
「ああ」
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「それではルールを説明する」
通知した通り、これはレースだ。
着順によってポイントが決まる。
使い魔に乗ってレースに参加しても良い。
ただし、スタート地点のコースより大きな使い魔は無し。
飛行は禁止。
コースアウト、ショートカットは失格。
妨害、戦闘はありだ。
そして、最終ステージだが、それぞれのチーム数と同じ数のトンネルを作っている。
右が最も手強く、左が最も弱い。
特別ポイントもそれに比例する。
以上が、このレースのルールだ。
「今回のハンデはスタート時間だ!! ハンデが重いチームは重ければ重いほど後に出発してもらう。それでは、第一学年下等クラスから準備をしろ!! レースは5分後からだ!!」
いざ、幕が上がる。




