第438話
3日目。
魔獣演武祭も半分近くになってきた。
現在の順位は1位特科一組、2位特科二組、3位が3チームおり、教師チーム、特等戦闘科一組、特等技術科一組だ。
まだ1種目だけの結果なので、これから十分にひっくり返る可能性がある。
なので、今日の第二種目はかなり大きい。
一度参加した人間は、連続で再参加出来ないので、ミレア、アルフィール、シャルティール、ドレイル、ボルコは参加できない。
まぁ、今日の参加者はとりあえず2人は確定。
ここから先はその時に考えるつもりだ。
とりあえず、今は今度出すとっておきの調整をしておかねば。
俺はそのための準備をしに、初日の場所取りでなんとか勝ち取った土地に立ち寄っていた。
「よし、この術式でいいだろう。にしてもやっぱり古代魔法なだけあって結構面倒な………」
「け、ケンくん!!」
慌てて俺を呼びにきたのはなんとドレイルだった。
それにしても珍しい。
柄にもなく大声を出している。
「ハァ、ハァ………あ、ああ、あのね!」
いや、呑気なことを考えていられる様子ではないようだ。
ゴキブリでも出たのかと思ったが違うらしい。
「どうした?」
「お、お客さんが………お客さんが!!」
「客がどうした?」
「ぜぜ、ぜ、全然いないの!!」
「………何?」
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俺は店に向かった。
確かに客が少ない。
いや、それどころではない。
ほとんどいないと言っていい。
「おいおいこいつは………」
原因は間違いない。
この2日間沈黙していたあいつだ。
「ははは………春の奴、なかなかやるじゃねーか」
向かい側に出来た出店。
それは春を主体にあいつが考えて作った出店だ。
「ハプニングレストランか」
外国なんかにあるドッキリと食事を楽しむレストランだ。
使い魔を中心に組んだ構成のドッキリが客のツボに入ったらしい。
「あいつめ………長々と用意してやがったな? だが………」
まだだ。
完全にひっくり返った訳ではない。
「ドレイル。秘密兵器の準備だ。あのレシピを全員に教えておけ、今日の夕方までに、だ。幸い今は客が少ない。可能な限り他のも叩き込んどけ」
「? わ、わかった」
そう、午後だ。
午後が肝心だ。
こちらの強みはリピーターだ。
もう一度来たいと思えるように味にこだわっている。
なので、ドッキリに飽きた連中が流れ込んで、それを噂に流してからが勝負。
「あ、えと、け、ケンくんは?」
ここは重要なところだ。
だがおそらく、そろそろ時間だ。
俺はここにはいられないだろう。
「俺か? 俺はだな——————」
そしてついに、その時がやってきた。
『第二種目の発表と諸連絡を行う。各生徒及び教員は直ちに行動をやめ、放送を聞け』
「第二種目………!!」
「来た来た来た来た!!」
アナウンサーはついに第二種目を告げた。
『第二種目は………レースだ!!』
「レースか!!」
なかなか悪くない。
ガリウスのレッドはクラスでもトップスピードを誇る。
加えてウォルスの使い魔のサポート向けだ。
結構いいんじゃないだろうか。
『先日チーム入りしなかった教師たちが夜通しで作ったレース場を、更に寝ずにいる教師たちの妨害を避けて進むレースである!! 不眠不休で襲い掛かる妨害がそれはそれは恐ろしいだろう!!』
なんというブラック学院だ。
かわいそうに。
まぁ、せいぜい働いてくれ。
『そしてなんと、これは本日急遽取り決められた新ルール。なんと! 王都からやって来た騎士団が最終ステージにして参戦するとのことだ!!』
「「!!」」
俺は思わずドレイルと顔を見合わせた。
「あわ、わわわ………………!!」
「こいつは熱い展開だな………オイ………」
『最終ステージの分かれ道にてここの警備にやって来た騎士から選出された者と戦うとのことだ。騎士の強さに応じて、レースとは別にポイントを獲得できる。そしてなんと………………最難関ステージにはあのカイウス・ガルディウス騎士団長が参戦するぞ!! これは見逃せないッッ!!』
なるほど………これならあいつらを止める必要はなさそうだな………………
『各クラス2名の選手を選出し、本日11時までに会場に集合だ!! 細かいルールは現地にて説明を行う以上ッッッ!!』
こうして、放送は終わった。
「………………スゲェ展開になってきたな」
「う、うん。それでその………あ、あの2人、を………出すん、だよね?」
「うん?」
ドレイルは正面を指差した。
するとそこには………
「ガリウス、ウォルス………」
2人が立っていた。
やる気は十分らしい。
「お前ら………」
「へへ、なぁアニキ。俺のことこいつから聞いたンスよね。なんつーか………面倒かけてすんません」
ガリウスはペコッと頭を下げた。
「まだ、全部納得してはねーンスけど、そいつは向こうで、親父ぶん殴ってから考える事にするッスよ」
「ああ、悪いなドレイル。勝手に色々決めてしまって。申し訳ない」
ウォルスはドレイルにそう言った。
「あ、う、ううん。だ、大丈夫。わた、私、はこの前出たからど、どのみち出れないし………そっ、それにみんなも、2人組の競技なら、2人がいいって、思ってるよ! うん、たぶん! だから、その………頑張って、ね」
ドレイルらしい激励だった。
ガリウスとウォルスは頼もしい笑みを浮かべている。
ここから向かうなら、そろそろ時間だ。
俺は最後に、2人にこう言った。
「勝てよ、お前ら。モヤモヤしてるもん断ち切ってこい。もちろん負けたら文句は言う。だから勝て。親父をぶっ飛ばしてこい」
俺はガリウスとウォルスに拳を向ける。
そして、ゴンッッッ!! と拳をぶつけた。
「「おうッッ!!」」




