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第434話


 旅に出よう、と俺は提案した。




 うちもそこそこ有名な家系でな。

 勝手な事をやっては文句を言われるだろうと思っていたんだ。

 でも、反対はされなかった。

 一応俺も跡取り候補だったのに、だ。


 

 ただ、金や衣服などの生活物資だけは自分で調達しなければならなかった。

 俺が旅に出るって言ったら父さんはこう言ったよ。



 自立は許す。

 だが、やるなら初めから自分の力で立ってみろ、とね。




 いい父親か………………そうだな。

 いい父親だと思っていたし、今も思っているよ。


 

 ………………まぁ、それはさておきだ。

 問題はガリウスだった。

 二人分の資金集めは、少しばかり時間がかかる。

 その間はどうしてもあいつに我慢してもらわなければならなかった。





 「耐えられるか?」



 「ケッ………元々終わりが見えてるだけやる気はマシになるだろうぜ。掛かったとして最悪3ヶ月だろ? 耐えてやるさ………ま、それまでに元どおりになったら悪いが………」



 「ああ、流石に無理に連れて行かないよ。だから、数日に一回はここで集まろう。いろいろ確認が取りたい」



 「よし………いいぜ。やってやろうじゃねぇか………」









 それから、数ヶ月。

 あいつは訓練に耐え続けた。

 それでも、かなりギリギリだ。

 傍目で見れば、ついて行けてないように映るかもしれない。


 相変わらず、周囲の連中は嫌な視線を送っている。



 だからこそ、俺は絶対に早く終わらさなければと思った。

 でも、時間がかかってしまうと言う事はこう言うことも起こりうる。







 俺が資金集めをしていたある日の事だ。




 「………よォ、ウォルス」



 「!? お前ッ、なん………それ………!!」



 窶れていた。

 魔力の過剰消費だ。



 「へ………大したことはねェ………俺様ァ、強ェからよ」





 ガリウスはお前も知っているだろうが、あれで結構健気なやつでな。

 会うと決めた日にはどれだけボロボロになっていても絶対に来るんだ。



 だが、そんなガリウスでも、日を追うごとに傷は増え、精神も徐々に憔悴していった。

 

 そう、親父さんの訓練がどんどんエスカレートしていったんだよ


 ショックだった。

 ここまでボロボロでもまだ続けるのかと思った。

 理由はわかっているとは言え、これは幾ら何でも酷すぎると思った。

 




 だから俺は、急いで急いで、なんとか予定だった3ヶ月より1ヶ月半も早い期間で資金集めを終わらせた。






 「よし………これでしばらくはやっていける………」




 その日に俺は仕事を全て辞め、ガリウスのところへ向かった。

 そして、










 「この………ッッ………ッ落ちこぼれがァアッッッ!!!!」




 屋敷から聞こえる怒鳴り声。

 親父さんのものだ。




 「ぁ………………あ………」



 庭に、瀕死のガリウスが横たわっていた。




 「ガリウス!!!」


 俺は屋敷に入り込もうとした。

 それで、柵に手をかけ、登ろうとすると、警備兵達が邪魔をしようとしていたようでね。

 当時はまだてんで弱かった俺だが、どうにかそれをかいくぐってでも行こうと思ったのさ。

 だが、



 「………入れてやれ。()()の友人だ」



 「ハッ」



 親父さんが俺を通した。

 俺はガリウスに駆け寄って息を確かめた。

 辛うじて生きていたが、流石の俺も頭に血が上ってな。




 「………………なぁ………親父さん………ッッ!!! ここまでする必要あったのかッ!?」




 敬語も忘れて食いかかってしまったよ。

 で、流石にマズかったんだろうな。

 警備兵が黙っていなかった。



 「貴様………無礼な——————」



 でも、親父さんはこれも止めた。



 「構わん。お前たちは警備に戻れ。すぐに済ます」



 有無を言わさぬと言うやつだった。

 警備兵はすんなり引き下がったよ。



 「………はい」




 久々の親父さんとの会話。

 こんな形でしたくはなかった。




 「そうだ。私はこいつを教育せねばならない」


 「教育!? ただ甚振ってるだけじゃないか!!」



 「それは………………こいつが訓練についてこれないノロマだからだ」




 「ッッッッ………!!!!」






 俺は、完全にここで堪忍袋の尾が切れた。





 「さぁ退きなさい。訓練はまだ———————」



 「断る」



 「………………?」



 訝しげな顔で親父さんは俺を睨んでいた。

 だが、俺も退けなかった。



 「邪魔をしないでくれ、ウォルス君」



 「嫌だと言っているんです」



 「………警告だ。退きなさい」



 「嫌です」



 「………………ハァ………」






 ゾワリ、と。


 「っ」




 今まで感じたことのないような気配を感じた。

 殺気………だったと思う。



 「最終通告だ。退かねば………斬る」



 「………」



 足がすくむ。

 声が出ない。

 恐怖が俺を支配していた。



 だが、次の一言が、俺を一気に正気に戻した。




 「それは私の()()()()



 「—————————」



 熱い。

 顔が、腕が、体が、胸が、燃えるように、焼けるように熱い。

 湧き上がる憤怒。

 それらは既に、俺の喉元で、噴火する時を待っていたのだった。




 「だから、そこを退けと——————」












 「俺のッッ………俺の親友にッッ………指一本触れンじゃねェェェェェえええええええええええエエエエッッッ!!!!!!!!」














 初めは自分でもわからなかった。

 だがそれは、俺が真の底から吐き出した純粋な感情の塊のような言葉だった。




 「………」

 



 「うぉ………ル、ス………」



 「!!」


 ギリギリでガリウスは意識を取り戻した。


 「お、わった………の、か………………?」


 「っ………ああ………!!」

 



 それを聞くと、あいつは力なく笑った。

 それで、ゆっくりと立ち上がった。



 「………」


 「ガリウ………」



 手を前に出して止められたんだ。

 ここから先は自分で言うと主張していた。



 「お………れ、さま、は………………こ、こを………出る」




 「………」




 「へ、へへ………おち、こぼれ………が、きえ、て………うれ、し………い、か、よ………?」




 親父さんは何も言わない。

 そのままあいつは気を失った。




 「………」



 俺はあいつを抱えて親父さんに何も言わず、出て行こうとした。

 そうしたら、



 「待て」



 と、親父さんは俺たちを引き止めた。

 正直、かなり俺は酷い顔で睨みつけながら振り返ったと思う。

 

 だが、次の瞬間に見た親父さんの顔と、渡されたものに俺は………




 「持って行きなさい」




 親父さんは、どこか悲しそうで、ホッとした表情で赤い獅子が描かれた二対のブレスレットを渡された。





 その日を最後に、俺たちがガルディウス領に足を踏み入れる事は無かった。














———————————————————————————













 「それから、旅をしていて復活したガリウスが暴れまわっているところを、学院長に目をつけられたと言うわけだ。ちなみに俺は一般の試験で途中編入という形で入って、なんとかここにいるわけだ。これが、俺の知っているガリウスの話だよ」



 「………」

 



 全く以って不器用な男だと俺は思った。

 一時の怒りに身を任せ行った行為を、突き通すしかなくなった哀れな男と、そのせいで家族との縁を失った悲しい少年だ。



 「お前はどちらも悪くないと言ったな?」



 「親父さんは自分で道を選べなかったんだ。俺はそう思う」



 「そうか。俺はそうは思わねぇ」



 「!!」



 そして俺は続ける。



 「あのおっさんは、副団長とやらのように死んでほしくなくてあいつを鍛えようとした。そして、結果的にガリウスを追い込んだ」



 「それは仕方ないことだろう」


 「いいや違うね。あのおっさんがやったのはエゴの押し付けだ」



 「っ………………!!! お前に何がわかるッッ!!」




 怒りでいっぱいの表情で俺を睨みつけた。

 それは分からなくもない。

 でも、俺は知っている。


 エゴの押し付けというものを、自分の理想の為に他人を、自分の子を犠牲にする親を、俺はよく知っている。

 だから俺はこう言った。






 「俺はもっと汚く醜いものを知っている」






 「………!!」




 毒気を抜かれたような表情をしたウォルスは、ストンとその場に座った。

 


 「けどよ、結局ここであれこれ言っても、決めるのはアイツだ」


 「………」



 そう、どこまで言っても俺は部外者だし、どこまで言ってもこいつとあの親子は他人なのだ。



 「信じて待ってやれ。それが親友ってもんだ」



 「ああ………」






 ウォルス・カーネラス。

 一見物静かで冷静な男だ。

 だが、



 「お前、なかなかアツイ男じゃねーか。ケケケ」



 「………茶化さないでくれよ、ケン」



 さぁ、お前の過去はわかった。

 明日の試合、どう過ごすかはお前次第だぞ、ガリウス。

 だが、これだけは言いたい。



 乗り越えろ。

 お前ならできる。

 俺なんかじゃ出来なかった事だ。

 でも、お前なら出来るのだと、俺は信じている。

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