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第433話



 「ガリウスは優秀な子だ。武の才能があり、何よりも我がガルディウス家が得意としている炎魔法の才能が凄まじい。他の魔法も眼を見張るものがある」



 嬉しそうに息子のことを語るその声、表情、それは紛れもなく父親のそれだった。

 でも、不憫に思ったのは、そこまで息子を褒めて大切に思っている事を、他でもないあいつが気づいていない事だ。

 


 「訓練は厳しいですか?」



 「………厳しいよ。私も一度通った道だ。だからよくわかる。しかも、ガリウスにかかる期待は私の時以上だ。重圧に耐えかねているやもしれん」



 「そんな事は無いと思いますよ。あいつは愚痴を言ったり、面倒臭そうにしてはいましたけど、ただの一度も弱音は吐かなかった。耐えかねてるって事は無いです」



 こんな事を言うのは少々照れ臭いが、俺はあいつの事をよくわかっているつもりだよ。

 抱え込んでいたらすぐにわかる。



 「それに………」


 「?」



 「あいつ、イライラしながら文句を言う割には、最後の最後でほんの少し困ったように笑顔を見せるんです」



 「!!」



 親父さんは嬉しそうに笑っていたよ。

 今でも覚えている。



 「そうか………それなら良かったよ………」








 親父さんも親父さんで色々思うところが有ったのだろう。

 それからも何度か時間があるときに親父さんにガリウスの事を話してやったよ。



 だが、あいつが家を出て行く半年前、ここが決定的だったんだ。








————————









 その日は雨だった。

 俺はガルディウス領の小屋で親父さんを待っていた。

 その後でガリウスとも会う予定だったからヒヤヒヤしつつ待っていたよ。

 あいつに見つかったらなんと言われるかわからないからな。


 だが、




 「………………来ないなぁ」



 親父さんが一向に来る気配がない。

 それどころか、ガリウスも定時に来ない。

 どうしたものかと思って待っていたが、それでもまだ来ない。



 「………帰るか」



 親子共々来ないのなら何か家関連の行事があったのだろうと思った俺は帰ろうとした。

 でも、やめた。


 何というか………胸騒ぎがしたんだ。






 俺は傘もささずにがむしゃらに走ってガルディウス邸へ向かった。

 すると、向かう途中でこんな話が耳に入った。




 「ガルディウス様の騎士団で死人が出たって」



 「しかも、かなり上の階級の騎士」


 


 「っ………………」




 俺の焦りは加速した。

 まさか親父さんが死んだのではないか、と。

 はっきりしないのが酷くもどかしかった。


 そして、ついにガルディウス邸周辺にたどり着いた。

 喪服を着た騎士たちなんだろうな。

 長い行列を作って歩いていた。




 心臓の鼓動が増した。

 親父さんが今死んでしまったら、あいつはどうなるのか。

 あれだけ文句を言っていたが、ガリウスは本当に心底嫌っているわけではないだろう。

 だから、あんな状態のまま死に別れになるのは俺も嫌だった。


 だが、




 「………あ」





 列の中に、 親父さんとガリウスを見つけた。

 兄弟やお袋さんもいたから、ガルディウス家の誰かが死んだわけではなかった。

 じゃあ、誰が死んだのだろうと思って後から聞くと、副団長が亡くなっていたらしい。


 でも、不謹慎かもしれないが、正直ホッとしていたよ。

 ここにいても仕方なかったので、俺はうちに帰ろうとした。

 でも、ふと気になった俺は親父さんの様子を見た。


 見てしまったんだ。






 「っっ………………………!?」






 それはもう、いつも見るような優しい表情ではなかった。

 憎悪と憤怒のみが固まったような、そんな表情だ。

 衝撃だったよ。


 でも、仕方のない事だ。

 死んだのは長年のパートナーと言っていたし、副団長を殺した奴は、狡猾な手を使ったと聞く。

 親父さんがそいつを見つけた時はそれはもう凄まじかったらしい。

 跡形もなく切り刻み、灰も残らない程に燃やし尽くしたんだ。




 以降、親父さんと話すことは無くなった。











————————











 そこから数ヶ月。

 ガリウスも来なくなり、地元の友人と居ることが多くなった。

 それでも気にかかった俺は、ガルディウス邸へ向かった。




 そこで久々に見たガリウスは、






 「立て、ガリウス」



 「くッ………………ゥウ………」



 「強くなれ。お前にまで死なれたらかなわん」



 「ゥウ、ウウウウ………………!!」




 恨みがましい目で、あいつは親父さんを見ていた。

 親父さんの言っている事は届いていないらしい。

 とても正気でない様子だった。




 「今日はここまでだ。体を休めておけ」



 「………」



 親父さんも、変わってしまっていたよ。

 見た事は無いが、今まではこうではなかったのだろう。

 それはわかる。




 「………………くそッ、クソ親父が………!!」



 少しガリウスが心配でな。

 俺はガリウスにわかるように合図を送った。




 「………!? ウォルッッ………!? なんでお前………」





 ガリウスはキョロキョロと辺りを確認して外に出てきた。

 久々の再会だ。












 「へへへ………………まさかこんなところに来るなんてよ」


 疲れ果てていた。

 格好もボロボロだった。



 「なぁ、大丈夫か?」



 そう聞いたら、あいつは少し俯いた。

 それで、



 「………………少しキツイ………あの野郎、副団長のおっさんが死んだ途端、今までにないくらい厳しい訓練を積ませてくるんだ………いや、それだけならまだいい。団は強くないといけねェ………だがよ、家の連中、その訓練についていけていない俺様を見て………………クソッッ!!!」






 どうやら、兵の訓練全般が厳しくなっていたらしい。

 特に、ガリウスの訓練は酷かったんだ。

 ガリウスはガリウスで必死にその訓練を受けていた。

 だが、身の丈に合わない訓練はやがてガリウスをボロボロにしていった。

 




 「俺様は………………もうこれ以上耐えられねェ………あんなところにもう居たくない」





 「………………」




 俺はわかっていた。

 親父さんが、なぜこんなにも厳しい訓練でこいつを追い込んでいるのか。


 だが、それとこれは関係ない。

 あいつはもう限界だった。

 だから、





 「金がいるな」



 「?」



 「装備、知識、食料、金がいる。後数ヶ月は必要だな」



 「おい、一体何言って………………」




 ガリウスは自分から出て行ったわけではない。

 いや、出ていきたいとは思っていたが、決定的なきっかけを与えたのは紛れもない。



 俺だったんだ。






 「ガルディウス領を出るぞ、ガリウス」





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