第432話
俺は、ガリウスの事をまだあまり知らない。
一応過去どういう経緯でここに入ったかは聞いたが、あいつの事だ。
おそらく主観で語っているせいで、事実が見えていない。
だから、一番近くで見てきたであろうウォルスから話を聞こうと思ったのだ。
「なるほど、だから俺のところに来たわけか。ガリウスを追っ払ったのも、話をややこしくさせない為だろう?」
俺は、ガリウスに適当な理由をつけて、ここに来れないようにした。
多分、それでいいと思う。
「正直言って、あいつは親父のことを誤解していると思うんだが、どうだ?」
「………まぁ、そうかな。ああ、その通りだ。あいつは親父さんを誤解しているよ」
やっぱりか。
薄々そうだとは思っていたが………
「だが、その件に関しては俺はあいつが悪いとは思わないよ。親父さんは結果的にあいつを追い込んだ。でも、親父さんも悪いとは言えない。これはなんとも救いのない話さ」
「………………」
ウォルスは遠くを見ながらそう言った。
「一つ尋ねる」
「ん?」
「もし………お前がこの話を聞きたがっている理由が、ただの好奇心からだとするのなら………俺は一切何も話さないよ。そしてここから先、お前を友人だとは思わない」
殺気だ。
日頃のそんなに感情を表に出さないウォルスが怒っていた。
こいつにとって、ガリウスはそれほど大切な友人だということだろう。
「フ………………少なくとも、今まではダチだって思ってくれてたわけか」
「………真面目に答える気がないなら………」
「アニキってのは、弟妹の世話を焼きたがるもんだ。舎弟だろうとそれは大した違いじゃねェ。俺は、あいつを引っ張り出すために、お前からに話を聞きにきたんだ」
俺はそう答えた。
「………」
「………」
しばし睨み合う。
ウォルスはなにかを確かめているようだった。
だが、どうでもいいことだ。
これは俺の本音なのだから。
そして、
「………………うん、わかった。俺はお前を信じるよ」
滅多に笑顔を見せないウォルスがほんの少し笑った。
「へっへ………サンキュー」
「さて………………先に言っておくが、俺はそこまで口がうまくない。細かく話すとなると少し長くなるが、いいか?」
「ああ」
そして、ウォルスはガリウスの過去を語り始めた。
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俺があいつと知り合ったのは、俺たちがまだ5歳ほどだった頃かな。
俺の家とあいつの家の領地が近かったんだ。
偶然町で会って、そこから意気投合してな。
性格は全く違うのに、不思議なものだ。
その頃から、あいつは優秀だった。
野生のモンスターが現れても、 幼いながらにそれを撃退していたし、末端の兵士くらいなら凌ぐ力を持っていた。
でも、その頃俺はまだ、あいつの家の事情をよく知らなかった。
だから、これから語るのはそこからだ。
「ウォルス!! モンスター捕まえに行こうぜ!!」
この辺くらいからだろう。
これは、あいつが領地を出る一年前だ。
あいつは10歳くらいなっても変わらず自由な子供だった。
「ガリウス、少しは大人しくするのを覚えたらどうだ? ボードゲームでも何でもいいんだぞ?」
「ケッ!! 俺様は外がいいんだよ!!」
「全く………」
ただ、俺自身も必要以上にあいつを怒れなかったよ。
あいつが零していた口を聞いていたからね。
遊ぶ時くらいは、家から出たい、と。
そしてこの日、俺は初めて親父さんに会った。
比較的、あいつの領地に近い場所で遊んでいたんだ。
「遊びに行く時間などないよ、ガリウス」
「………父さん」
「訓練の時間だ。さ、帰っていなさい」
「………わかった」
厳しそうな親父さんだと思ったよ。
実際、かなり強いと有名で子供だった俺でも、カイウス・ガルディウスは知っていたからね。
それで、
「ガリウスの友達か………」
「あ………ぁ………はい」
情けないことに、初対面で会った時は相当怖く感じた。
最初はろくに挨拶もできなかったよ。
でも、
「ああ、 すまない。怖がらせる気は無かった」
実際は、すごく優しい騎士だった。
だから俺は、この人がガリウスの言うような冷酷な人だとはとても思えなかった。
だから、
「では………」
「あ、あの………!」
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俺は、ガリウスの事を話題にして親父さんと色々話をしたんだ。
やっぱり親父さんは、あいつが普段どんな風に過ごしているのか、どんな性格なのはよく知らなかったらしい。
だが、やはり話せば話すほど、悪人には思えなくなってくる。
では、ここからは親父さんとの会話の話だ。




