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第430話


 

 「ねぇ、これでいいの?」



 「あぁ? あー………いや、もう少し塩味を利かせろ。マイドラットの殻があるから砕いて入れろ。いい感じになる」



 「はーい」



 「こっちはどうだ? 結構自信があるぜ」



 「ほぅ? そんじゃ………ぅうッ、プ………!? なんだこりゃ!? クッッソ苦ェぞ!!」



 「なに!? そんな筈………ぅゲッ!? カッ、ぺッッッッ!! 馬鹿な!? そんなマズイ筈が………捨てる!!」



 「!? 馬鹿野郎!! まだ直せるだろうが!! あそこの調味料一式持ってこい!!」








 初日の午後。

 俺は出店の料理を手伝っていた。

 想像以上に出来が悪いのは、人数合わせで入った生徒だ。


 ちなみに半数以上。


 元々貴族王族が多いクラスだ。

 家事一般はかなりお粗末だと見える。




 「テメェら!! ドレイルを見習いやがれ!! こいつ変な髪型してるが結構スゲェんだぞ!?」



 「へ………へへ」



 なお、変な髪と言った事は気にしないらしい。

 意外とハートの大きい女だ。


 「シェフー」


 「シェフ言うな!! ………で、どうした?」



 「ウルクがいないよ」



 「………………!?」



 店員の群れから、ウルクが消えていた。



 「〜〜〜〜!!!! ンの野郎………!!」


 あいつには特にこの魔獣演武祭の重要性を伝えている。

 しかし、ご覧の状況である。

 流石に何か事情はあるのだろうが、一言くらい言えというもの。



 そんな感じで、俺が青筋を立ててイライラしていると、




 「ハァ………何をしているのかと思えば………仕方ありません。私も手伝いましょう」




 「お、お前は!」













———————————————————————————















 「………………チビ神ちゃん、気づいてるー?」


 ウルクは、校舎の屋上で寝そべったままそう尋ねた。


 「どっちの事? ここの地下にあるブツの事かそれとも………」



 「ついにたどり着いちゃったミコトちゃんの事だよー」


 「ミコト………ああ! 次代の特異点! 確かにマジで来ちゃったね。ミーとしてもこりゃマズイ展開かな?」



 軽口は相変わらずだが、いつもより少しかたい感じがする。

 チビ神は特異点がどれほどの力を持っているのかよく理解しているのだ。



 「それどころか、異世界人のみんなも何人かこの学院の周辺を包囲しちゃってるよー」


 「んー、参ったなぁ。でも、あの子達の目的は今回に限ってウルちんじゃなさそうっぽい」


 「あー、もしかしてその地下にある“ブツ”ってやつを狙ってるのかなー?」


 「多分ね。全く………懐かしいものをこーんな風に扱ってくれちゃって」


 




 チリッッ





 「!!」



 ウルクはビクリと身体を震わせた。

 確認できたかも怪しい程僅かな一瞬、小さな神は確かに怒りを見せた。



 「ま、無くしたものをあーだこーだいう趣味はミーにはないけどねー。だだ………………あれが向こうに渡るのはちょっぴりマズいかな?」


 「要はそれを守りつつ、私も殺されないようにしなきゃいけないんでしょー? むぅ、なかなか大変だなー」



 「心配しなくてもウルちんが殺される事はないんじゃない? ケンちんがいるじゃん」



 「そーかもねー………………………うん、よし!」




 ウルクはぴょんと立ち上がった。



 「今はとりあえず、何もしない! ミコトちゃんはしばらく動く気配はないし、私もそれまではちゃんと祭りに参加するよー」



 「ま、いいんじゃない?」



 「とりあえず、サボっちゃってる仕事を片付けよっかなー」



 「………ケンちんに謝っといたほうがいいかもねー」



 チビ神はやれやれとかぶりを振って、ウルクの肩に乗った。

 とりあえずは様子見。

 動くべきは今ではない。

 そう判断した彼女たちは、日常へと帰ってその時を待つことにしたのだった。












———————————————————————————

 













 「へぇ、お前結構料理出来るんだな」



 「これでも家事一般は一通りこなせます。貴方ほどではないにしろ、料理も出来るつもりです」



 確かに、ミレアの手際は良かった。

 俺が毎朝飯を作ってやる必要は無かったのではないだろうか。



 「む、その組み合わせはやめとけ。魚との相性が悪いからな」



 と、そんな感じで料理をしていると、



 「あのミレアが………信じられん」


 「会長めっっっっっっさ男嫌いだったのに」


 「すごい変わり様ね………」



 クラスメイトはしみじみとそう言った。

 他クラスのやつよりずっとミレアを知っている彼らにとって、それは異様な光景だっただろう。




 「なるほど。あ、あそこの調味料を取っていただいていいですか?」


 「ん」



 俺はミレアに調味料の入った瓶を渡した。

 



 「ありがとうございま——————」





 よそ見をしていたミレアはガッツリと俺の手ごと掴んだ。

 すると、




 「——————!!! ひゃあ!?」



 ん?



 ミレアがいかにも女の子っぽい声を上げた。

 俺は落下する瓶をキャッチしつつ、軽く驚いていた。



 「………………どした?」




 「いえ………………失礼しました」



 「………」



 俺は首に手を当てた。

 まだ急に触るのには慣れていないのだろう。

 少し外れるとするか。








————————










 「………」

 

 ミレアは妙な表情をしている。

 怒っているようなわけではなさそうだが、不機嫌なネコのような顔をしている。



 「………びっくりしました………もう、シャルティールがあんな事言ったから………………はっ!!」



 いかんいかんと気合いを入れるために頰をグリグリとこする。




 そんなこんなで、とりあえず大きな動きはないまま、初日が終わっていった。

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