第43話
「わ、私が代表ですか?」
寺島 美咲は依頼を受けた。
ある日、ルドルフに呼び止められた美咲は教官室に呼ばれた。
何かしたのだろうかと思いつつ部屋に行ったら、勇者の代表として向かってほしい場所があるとのことだ。
「そうだ。と言っても、ギルドに持って行って貰いたいものがあるので、その配達のついでだ。勇者が召喚されたと言うことはもう各地に広まりつつある。そこで、非戦闘系の固有スキルで最もランクが高いミサキに指名がかかったのだ」
「なぜ、非戦闘系が望まれるのですか?」
「非戦闘系のスキルは能力を示すのに効果があると思われるのだ。戦闘系は派手だが、今の威力では上位の冒険者に負けてしまっている。逆に非戦闘系は、その辺りの心配はせずとも良いのだ」
なるほど、と確かに思った。
確かにこれはそう言うプレゼン向きかもしれない。
「まあ本音を言うとレンやコトハが行くのが手っ取り早いのだが、上はあまり外に見せたくないのだろう」
「でも私なら大丈夫だと?」
「ああ、済まない。気を悪くさせたなら謝る。しかし、何と言ってもSSSだ。滅多なことはさせられまい………いや、悪いな。口下手なのだ、私は。私としては君の力と潜在能力をかっている。今一度頼みたい」
ルドルフは頭を下げた。
びっくりした美咲は慌てふためく。
「わわっ、あああ、頭をあげて下さい! 大丈夫です。私行きます!」
「そうか。ありがとう」
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「と言うことで出張することになったよ、琴葉ちゃん」
「いーなぁ、私も外に出たかったよ。せっかくの異世界なのに」
ちぇっ、と琴葉は口を尖らせて言った。
「まあまあ、お土産は買ってくるから、ね?」
「ししっ、なら良いよ! 私、食べ物がいい!」
琴葉もマジで拗ねていたわけではない。
それなりにわかっている、
「でもなんで私や蓮くんじゃダメなんだろ?」
ことも無かった。
「あ、もう時間だ。行ってきます、琴葉ちゃん!」
「いってらっしゃーい」
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「うわぁ馬車だ………」
美咲は人生で初めて見た馬車に感動を覚えている。
こんなの絵本の中にしかないと思ってた、と少し抜けたことを言っている。
「あれ、寺島。お前もか?」
「あ、山下くん」
山下 悟、固有スキル 【悟り】
相手の思考を読み取れる。一度使用したら数秒のインターバルが必要。尋問向きのスキルだ。
「あら、貴方達も呼ばれたの?」
綾瀬 優、固有スキル 【超鑑定】
鑑定の上位互換。調べられる項目が、鑑定の数倍になる。
「綾瀬さん」
「よお、綾瀬」
「方々に挨拶をしに行かせようとしてんだろ? これ」
「多分そうね」
確かに一箇所だとは言ってなかった。
「それじゃあ、みんな非戦闘系がどうしたこうしたって話聞いたの?」
「ええ」
「おう」
何人かいると言うのがわかって、美咲は少しホッとした。
「あ、呼ばれてる。行こうぜどうやら全員まとめて運ぶらしいぞ」
「そう、行きましょう、寺島さん」
「あ、うん」
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「馬車って思った以上に揺れるわね。この世界の人はよくもこんな乗り物で我慢してると思うわ」
「マジそれなー。バスとか車ってあんなに有難い乗りモンだったのかって思う」
「うーん、現代のエンジニアとかが転移したら車でも作れるんじゃないかなぁ。魔法とかもあるんだし」
美咲達は馬車の中で喋っていた。
ちなみに他の生徒が乗った場合、初回は高確率で酔う。
「それで、寺島は何処に行くんだ?」
「えーと、フェルナンキアって言ってたよ。冒険者ギルドの本部がある大きな街なんだって」
「ギルドかぁ。男としちゃあ憧れるな、冒険者。まずこの冒険者って響きがいい」
山下は目をキラキラさせて語り出した。
美咲はそれをおとなしく聞いていた。
しかし、終わりそうにないので綾瀬に話しかける。
「綾瀬さんは何処に行くの?」
「私はマギアーナね。ミラトニア最大の魔法学校があるらしいわ」
「山下くんは?」
「それでよ………ん? ああ、俺か? 俺はバルギドだ。国内で一番大きな武道大会が開かれてるらしい」
それぞれ国の中でも大きな施設や組織がある場所に向かっている。
何処も国内一の称号を持っている。
改めて重要な仕事だと言うことを意識した。
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そのまま馬車の旅で3日程経った頃。
「ここがフェルナンキアかぁ。大っきいなぁ」
美咲は王都にも遜色ない巨大都市を見て感想をこぼしていた。
「じゃあな、寺島。また後で」
「またね、寺島さん」
馬車は綾瀬と山下を乗せてそれぞれマギアーナとバルギドへ向かった。
「行っちゃった」
さて、いざ入ろう、とはならず美咲は外で人を待った。
「えっと、確かそろそろ来る頃だ」
目の前に馬車が現れ、止まった。
「申し訳ありません、お待たせいたしました。ミサキ殿」
「大丈夫です。行きましょうトムさん」
トムと呼ばれたこの男は簡単に言うと、美咲の護衛だ。
万が一にそなえ、ルドルフの部隊にいた人間を一人ずつ側に置くことにしたのだ。
美咲はトムを連れて、フェルナンキアの門をくぐった。