第426話
「うおおお………アニキの使い魔の鯨ってバハムートだったンスか!?」
待機中のガリウスは俺にそう言って来た。
「おう。かなり強ぇぞ。神獣バハムートと呼ばれるだけあって、他の使い魔とは桁が違う」
実際、あいつはダグラス以上の強さを持っている。
本気を出せば、三帝クラスに届くかもしれん。
「アニキってスゲェ人だとは思ってたけど、これは予想以上にスゲェっス」
「はは。まぁ、運もあるけどな。あいつの場合は直接契約だ。実際あいつ喋れるだろ?」
「ああ、そういやそうっスね」
エルは強い。
だから、今回の魔獣演武祭では出場させるか迷っていたが、事情が事情だ。
出し惜しみはなし。
初回からドンドン活躍させるつもりだ。
そして、今がその活躍する時だ。
「ん?………………なっ!? あ、アニキ!! あれって………」
「ああ。あいつら徒党を組んでやがる」
「はぁ!? ンだよそれ!! 汚ねェ真似しやがって!!」
「いや、これでいい。予定通りだ」
「!?」
思った以上に早い展開だ。
だが想定の範囲内。
それに、嬉しい誤算もある。
連中はかなり数が減ってから徒党を組んだらしい。
残り三組脱落すれば試合終了。
だからここからは、この作戦でいく。
「気張れよ、ミレア。お前ならわかる。これは………“籠城”だ」
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「「「籠城?」」」
みんな口を揃えて、ミレアにそう聞き返した。
「ええ、籠城です。この状況、短期で攻めれば敗北することは明瞭です。しかし、エルちゃんがいればそうせずともいいのです。ここから3騎撃墜すれば、それで試合終了。うまくいけば、全員生存しているので高得点が狙えます」
「なるほど………この子は“動く城”というわけだな?」
アルフィーナがそう尋ねると、ミレアはコクリと頷いた。
「では、今から作戦を伝えます。既に敵が向かって来ているので簡潔に伝えます。まずは——————」
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『さぁ、残すところあと3騎でこの旗戦も終了だ。勝利の女神は一体どのチーム微笑むか!? いざ、決戦の時!!』
観覧している生徒たちは大いに盛り上がっていた。
ここが終点だ。
ここ局面を乗り越えれば、この試合は決着する。
そして、局面が動いた。
「いくぞ貴様らッッ!! 特科一組を狙え!!!」
「「「うおおおおおおお!!!!!」」」
武器を構えて、魔力を練り、次々に進軍して来た。
だが、ミレアたちは気圧されない。
「ここが正念場です!! さぁ、勝ちましょうッッ!!!」
「「応ッッ!!」」
「………」
エルは、始まる前に、直接ケンから言われたことを思い出していた。
『いいかエル。お前の仕事は逃げることだ。だが、ただ逃げるだけじゃねェ。敵の間合いを図り、そのギリギリを攻めろ。お前は今から“戦い動く城”だ』
攻撃を躱す。
そして、味方に攻撃をさせる。
それが勝つために必要なことなのだ。
「行けッッッ!! バハムートを崩せェェェェーーーーッッッ!!!!」
ゴォオオオオオオオオオッッッッ!!!
「「「!!!」」」
前方から迫る広範囲に及ぶ魔法攻撃。
エルは巨体だ。
通り抜ける隙間はない。
「おいおいおい、これはマズイダネ………」
「うっそぉ………」
「くっ、これでは………」
今のエルでは、自分が通れるだけの隙間は流石に作れない。
小さいが、威力が大きい多数の攻撃に対して、広げた弱い攻撃では打ち負けてしまう。
ならば、
『みなさん、合図をしたらエルを信じて軽く上に飛んでくださいなのです』
そう言われて、ミレアたちは戸惑ったが、何か方法があるならそれしかないと思い、全員従うことにした。
「………………!! 今です!!」
「皆さんッッ!!」
全員、騎馬も旗役も上に1メートルほど飛んだ。
魔法はすぐそこまで迫っている。
そう、これ一つ一つ個人の持つ魔法だ。
それを広範囲のもので消し去るほど凄まじいものを使えば、上に乗っている連中はタダで済むまい。
再び言うが、こいつは強い。
数人分なら容易く消し去れる。
小さい穴ならば簡単に開けられるという事。
ならば、小さくなればいいだけの話である。
ヒュルッ、と風を切るような音が鳴った刹那、バハムートは消え、中心から空色の髪の少女が姿を見せた。
そして、
「ッッッッ………………ッッッッァアアああああッッ!!!!」
細く、最低限のサイズに大きさを絞った強力なブレスが、ミレアたちが通れるだけの穴を広げる。
「「「!?」」」
全員が唖然としている隙に、弾幕は全て通り過ぎていった。
エルは体を翻し、再びバハムートに戻る。
そして、真っ先に動いたのは、ミレアだった。
「隙ありッッ!!!」
ミレアの放ったレールガンが、一人の旗を弾いて遠くに飛ばした。
「!? しまッッ——————!!!」
カランッ、と旗が落ちる音がした。
これで残るは2騎。
「チィッッ!!! 怯むなァアア!! 攻撃を続けろ!!」
再び攻撃が放たれる。
しかし、今度はちゃんと合わせたわけではないので、てんでバラバラだった。
エルはそれを軽々と躱していく。
「うわ………」
「この巨体で何という機動力………!!」
『こっちも攻撃するのです!! あのハゲのおじさんなんかいい狙い目なのです!!』
ハゲのおじさん。
もちろん、アズトーンである。
「確かに、回復魔法使いなら火力で押し通せるかもしれません………皆さん、アズトーン先生を狙って下さい!!」
ミレアたちの攻撃が一斉にアズトーンに向かう。
向こうでドタバタしているアズトーンはかなり滑稽だった。
「勝てる!! 相手が教師だろうと徒党組んだ特科特等だろうと勝てるぞ!!」
「押し切ります!!」
魔獣演武祭初戦
旗戦。
その決着が、たった今つこうとしていた。




