第425話
『生徒会長対決も気になるが、ここで注目馬を見ていきましょう!! まずは優勝候補の特科一組!!』
アナウンサーの注意がドレイルに向いた。
するとそこには、敵チームを超スピードで圧倒しているドレイルの騎馬があった。
数チームが同時に狙ってくる。
ドレイルはグッと力を溜め、使い魔達の機を待った。
間合いに入るまで堪えて、堪えて、そして、
「ハァァアッッ!!!」
ヒュオッッッン!!!
残像を残しながら、一体、二体となぎ倒す。
機動力に特化したドレイルの騎馬は、瞬く間に背後に回り、旗持ちを蹴落としていく。
これで既に撃退したチーム数は、10を超えていた。
「ふぅ………」
バタバタと倒れる敵を見据えると、すぐに周囲を警戒した。
だが、まだ結構な数がいる。
「わわわ、ま、まだいっぱい………」
すると、
「でェァアア!!!」
「!!」
上空から飛んでくる騎馬。
レッドとブラスターライオットのブラートは横に炎を向けてくるっと攻撃を回避した。
「躱すとは………流石は特別科一組だ!! それではいざ勝————————————」
「セァアア!!」
ドレイルのダガーの峰が旗役の腹部に突き刺さる。
旗役は、体をくの字に曲げて悶絶した。
「ご………ぉ、ァッ………………しょう、めん、からで、す………ら………」
バタンと旗を落とし、気を失った。
まさに圧倒的だった。
『強い!! 強いぞ特科一組!!』
注目が、ドレイルに集まっている。
しかし、ドレイルや他の場所で戦っているボルコの注意は完全に別の場所を向いていた。
そう、ミレアだ。
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「ねー、ミレア。まだ戦わないの? もうすでに半分は終わってるよ」
「ところどころ強いのがいるな。戦闘科のレイ、ニールなんか特に凄まじい………ルールだから私は攻撃できんが、体くらい動かしたいのだが」
シャルティールとアルフィーナはミレアを急かした。
だが、ミレアは何かを待つかのように動かないでいる。
「………ダメです。アルフィーナには申し訳ありませんが、これはおそらく戦闘用に組み合わされたチームではありません。憶測ですが、あなた達の役割は攻撃の撃墜及び旗の守護のみだと思われます。こちらから仕掛ける事はないでしょう」
「だが、このまま最後の15になって終了するまで戦わんと言うのか?」
「ええ」
「!!」
15騎。
騎馬が15騎になった瞬間、試合終了なのだ。
「でも、安心して下さい」
「?」
「私の予想が正しければ、退屈はしません。目一杯働いて貰うでしょうから。ふふ」
ミレアはそう言った。
すると、アルフィーナは首を傾げてこう言った。
「………ミレア嬢、少し丸くなったか?」
「丸っ!? 私は太ってませんよ!!!」
「や、そうではない。うん、やはりそうだ。君、棘が無くなったよ」
アルフィーナはシャルティールを見ると、ウンウンと頷いていた。
「最近急に優しくなったよ、ミレア。男子とも多少は………本当に少しだけど、会話するようになったしね。ま、僕にはそのきっかけはわかるよ………………ズバリ、恋だ」
「………?」
キョトンとするミレア。
おー!、と少し顔を赤くして反応するアルフィーナ。
武人のような性格だが、やはり女子である。
「………」
「………………………あれ? 自覚なし?」
「………何のことかわからないのですが?」
あちゃーと同じポーズをとるシャルティールとアルフィーナ。
こいつはこれだからとか、流石あのミレアだ、などいろいろ言っていた。
「それよりも、今は注意を向けるべき事があるでしょう? もう少し周りを警戒しなさい」
「承知した」
「はーい」
それぞれ持ち場で警戒するように言った。
3人もと違う方へ向く。
警戒。
しなければならない。
彼女は生徒会長。
生徒の模範となるべく行動するべき立場だ。
故に、シャルティール等にああ言った手前、 警戒をとくわけにはいかない。
しかし、しかしだ。
ミレアの心中はそれどころではなかった。
(え? え? 何!? バレたのですか!? ででで、 でも、いや、落ち着きましょう。私は男性が苦手。その私がそんなはず………でも自覚はしちゃってるし………うわあああああああああああああ!!!!!!!)
タラタラと汗を垂らしているのを見ていたのは、エルの頭の上に乗っている最後の馬役の使い魔だけだった。
結局、油断しきっている。
だから、これは幸運だった。
「!!! ミレア、奥の方からたくさん来たよ!!」
「っ………来ましたか………アルフィーナ、イシュラ会長を見張って下さい!!」
「心得た」
ミレアとシャルティールは奥を眺めた。
14騎程の騎馬がこちらへ向かっている。
大型は4騎ほどいた。
「会長!! そっちはどうダネ?」
「うわわわ………あんなにたくさん………み、みんな強そう………」
ボルコとドレイルも合流していた。
気づかぬうちに、旗戦は佳境に入っていたのだ。
そう、ここには教師も来ている。
「機が訪れたようだな、ミレア」
奥の大群には、イレーヌも含まれていたのだ。
「イレーヌ先生………………!」
特科一組のチームメンバーは、特に教師陣の中でもイレーヌを警戒した。
さらに、悪いニュースが飛び込んでくる。
「あ、あの………みみ、ミレアちゃん」
それを告げようとするドレイル。
「はい?」
「実はさっき………」
しかし、その内容をミレアに言ったのは、ドレイルではなく、目の前で立ちはだかっているイレーヌだった。
「!? イシュラが動いた!!」
「「「!!」」」
全員身構えた。
ドレイルも言うのをやめ、警戒をする。
だが、
「いや、これは………」
アルフィーナはイシュラをじっと見ていた。
しかし、動いたイシュラは、こちらではなく、向こうへ行っている。
それも、一切の警戒なしに無造作に、だ。
「彼は何を………」
「特科一組!!!」
「!」
イレーヌが叫んだ。
「貴様らは強い!! 今期の第三学年は出来がいいが、貴様らは中でもかなりの物だ。ハンデも関係ない。ハンデを負ってもそこまで戦える騎馬だとは恐れ入った。お陰で想定よりもずっと早く決着がつこうとしている。しかし、 それももう終わりだ」
「随分と自信がおありですね」
「ふ、もうわかっているだろう? この状態が何を表しているかということなのか」
「っ………」
ミレアは歯を食いしばった。
気づかなかったメンバーも、ここで全員間違いなく気がついた。
そう、敵は手を組んだのだ。
「イレーヌ先生………本当に徹底してらっしゃる………」
そして、イレーヌは高らかにこう宣言した。
「最早一対一で我々に勝機はない!! だが、貴様らが全滅すれば順位が変わる!! 行くぞ貴様ら!! 準備はいいかッッ!!」
かなりマズイ状況だ。
敵には教師陣、ニール、レイ、特科二組など、錚々たるメンバーが集まっている。
グッと手を握り、歯をくいしばるミレア。
しかし、ミレアはフッと笑みを作った。
「………………ですが、予想はしていました。ですよね、エルちゃん」
『はい、なの、ですッッ!!!』
バハムートの本領が、今ここで発揮されようとしている。
勝者は誰の手に。




