第423話
『圧倒的!! これは圧倒的だ!!』
ケンたちのクラスの騎馬が、人場で悠々と立っている。
誰一人旗を落としておらず、残るクラスは4つのみ。
そして、 どのクラスも1騎以上倒れてしまっていた。
「まさかこれ程までに考えられた騎馬だったとは………」
上に乗っているミレアですら驚いている。
無理もない。
ケンが各学科と二組対策に考え抜いて作った騎馬だ。
まぁ、考えた時間は圧倒的に少なかったが。
「チッ………ケンの奴の考えた騎馬か。厄介な………」
「ヒジリケン………やはり只者ではないな」
と言っているレイやニールの騎馬もかなり圧倒的だった。
ただし、馬は少々お粗末だが。
『三年特科一組!! 15秒という短時間の間に考えたとは
思えない安定した騎馬!!』
位置が位置なので、もうケンの出番は無い。
それでも、最初の作戦が、想像以上の効果を発揮していた。
し過ぎていたのだ。
『しかしッッ!! それもここまでか!?』
結果的にそれはクラスメイトの連中が予想だにしなかった事態を引き起こすことになっていたのだ。
教師軍。
騎馬はイレーヌ。
他は囮だったらしく、全滅しているが、いかんせんこの騎馬が最も戦闘力が高い騎馬であった。
「行くぞ貴様らッッ!! 特科一組を狙え!!!」
これは、教師が考えるにはどうかと思う作戦だ。
しかし、作戦としては、単純且つかなり合理的とも言える作戦だった。
『特科一組対連合軍!! これは一体どうなるんだ!?』
そう、あまりに強すぎる特科一組は、全クラスに狙われてしまうのだった。
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初戦の旗戦は、組み合わせが重要である。
騎馬戦………とは少々違う。
馬と言ってもモンスター混合なので、形はどうでもいい。
騎馬戦のように組まなくてもいいのだ。
要は、旗役が旗を落とさなければそれでいいのである。
だが、自由度が高いというのはそれだけ選択肢が増える。
その中で、これだけ短時間で組まなければならない。
相当なハンデだ。
ラビのいるクラスなんて、ラビが仕切れば相当有利になるだろう。
第1学年の上等クラスは、間違いなく数分の余裕はあるはずだ。
対してこちらは15秒。
おそらく、適当に組むだけで使い切ってしまう。
だから、俺はそのハンデを潰した。
最適の組み合わせを時間内に作り、それを指示。
位置は一番上以外は自由にさせているが、恐らく俺の思っているとおりになるだろう。
そう考える様に組んだからな。
ともあれ、開始まで残り3秒。
いよいよ初戦が始まる。
『第一種目————————————試合開始!!』
放り出される俺たちの騎馬。
十分な作戦は伝えられていない。
だが、あいつらは国内一のエリートの中でも頂点に位置するクラスだ。
その組み合わせの意味くらい察するはず。
だから、多分もうわかっている。
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『あーっと!! これはマズイ!! 優勝候補が行きなり囲まれたぞ!!』
なお、アナウンサーは実況も行うらしい。
第二学年の技術科。
特等クラスだ。
開始早々囲まれたのは、ボルコの率いる騎馬だった。
大きな馬が1頭。その上にボルコと煙のような姿の使い魔と真っ黒い人型の使い魔が座っていた。
ボルコが背負っている人形も、一応使い魔だ。
「囲め!! 特科だろうとこの人数ならいける!!」
向こう側の騎馬は思った以上にしっかりしていた。
どうやら、慣れたもの同士で騎馬を組んだらしい。
「ふむ………3騎………一クラス分ダネ。多分あの感じからしてパワー重視………ふふふ………ハハハハハ!!」
「っ!?」
不敵に笑うボルコを見て不審がる二年生。
だが、すぐに切り替えて攻撃に移った。
「何を企んでいるかは知らないけど………勝たせてもらいますよ、先輩!!」
騎馬は少々重たい動きで近寄って来た。
するとボルコは、
「ハハハ————————————阿呆が」
「っ………………!!」
フッと笑うのを止め、臨戦態勢に入る。
騎馬もそれに合わせて何かを準備し始めた。
「勝つ? そんなにガタガタの騎馬でダネ? ………………寝言は寝て言えよ」
ドンッッ!!
ボルコが遙か上空へ打ち上がる。
旗役が馬から離れたので、後輩たちは唖然とそれを見ていた。
しかし、それが作戦だとは気づいていない。
「バルーク、行くダネ」
騎馬の一体、ボルコの使い魔の飛空馬。
ペガサスのように空を舞う馬だ。
ボルコは、使い魔に戦闘をさせるのではなく、支援に徹させたのだ。
ちなみに、乗馬中の飛行は一定の高さ以上で反則を取られる。
だが、今回は対して高さは必要ない。
「行くダネ?」
その瞬間、
ゴォオオオ!!! という音とともにあたりが煙に包まれた。
ボルコのシルエットがぼやける。
『なんと!! 目眩しか!? しかしそれはあまりにも安易だ!! 技術科特科一組?一体どうする!?』
空かさず実況が入った。
「目眩しですか………でもこの距離からなら関係………な、い?」
後輩は、気がついた。
シルエットがおかしい。
そう、旗を持っていないのだ。
「!!! マズイ!! 見失った………!!」
バタン、という音が聞こえる。
霞んでよく見えないが、人が倒れているのがわかる。
「誰かやられたぞ!!」
「全員注意しろ!!」
「後ろダネ」
「なっ!!」
後輩は慌てて振り向きつつ、武器を振り回した。
しかし、斬ったのはただの煙。
そこには何もいなかった。
「まさか幻かァあ………ッ、ぎ!!!」
後輩の一人が倒される。
馬が少し崩れた。
旗役の少年が慌てた声を出す。
「!!? 何が起きた!?」
「攻撃だ!! 攻撃を受けたぞ!!」
「そんな………!! 見受けたぞ!!」
馬に乗ったシルエットが、騎馬へ向かっていた。
チャンスと思った旗役は、ここぞとばかりに武器を振り回した。
だが、
「!?」
手応えなし。
更に、
「消えっっ!? っぅわぁ!?」
突然自分の馬が揺らいだので、驚く旗役。
目の前を見ると、馬がいた。
どうやら馬の方は幻覚ではなかったらしい。
「クッソォおおお………」
リーダーの生徒が悔しそうに恨みを吐露する。
そして、絶妙なこのタイミングで、声が聞こえた。
「こんがらがるダネ?」
「!!」
どこからともなく聞こえる声。
残った騎馬と旗役たちはギクリと体を震わせた。
「この煙………いや、幻覚ダネ。それが見せる幻影、それに混ざる本物の馬、俺、空飛ぶ馬、俺の幻覚、お前らの倒れていた幻覚、空飛ぶ馬の幻覚。全てが混ざって君は混乱するダネ」
これは、ケンが考えた対技術科及び医学科の騎馬だ。
気配の察知に慣れていないこの科目の生徒なら騙せると思って立てたのだ。
「混乱する君らは、混乱のあまり大事なことを忘れている」
「何を——————」
リーダーは気がつく。
自分達は折角作った有利な状況を捨てていたのだ。
「正直囲まれれば勝ち目は薄いダネが、これなら………わかるダネ?」
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霧が晴れる。
立っていたのは、一つの騎馬だった。
ボルコは余裕の表情で旗を掲げる。
「幻影による闇討ちに特化したチーム。なかなかだったダネ」
『な、なんということだ!! まさか、たった一騎で二年とはいえ特等クラスを一クラス分全滅させたぞ!! これはまさかの展開だ!!』
初戦。
開始早々特科はその圧倒的な実力を周囲に見せ始めていた。




