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第418話



 7日目。



 現在の数時間前







 「………ん」



 屋上のマイベストプレイスでお昼寝中………と言っても、一限の授業中なので朝なのだが、目を覚ました俺は徐に頭を動かした。



 「んー………」



 ぽりぽりと頭をかいてぼーっとしている。

 屋外なので、少し場所を移動すると日に当たれる。

 俺は寝返りを打って日向の方へ行った。



 「ん〜〜〜………っと、やっぱ目覚めがいいや。さてと」




 俺は再び瞼を閉じる。

 言っておくが、寝ているのではない。

 少し集中しているのだ。



 「やっぱりか………」



 俺はまぶたを開く。

 


 「なーんか。妙な気配を感じるんだよなー」



 俺は、ふと怪しい魔力を感じ取っていた。

 何かに近いような気がする。

 だが、明確には思い出せない。



 しかし、俺の場合それは大きなヒントとなる。




 「俺が思い出せないとすると………やっぱり魂魔法関連だな」


 基本的に、俺は物忘れしない。

 いや、この世界に来ては特にそうだ。

 神の知恵の予備的な効果のお陰か、俺の脳は記憶容量も記憶力も格段に上がっている。

 多少時間がかかっても、思い出せないなどという異常事態は起こりえないのだ。



 「こいつは、予想より早く思い出せそうだ」



 

 予定では、何もなければ少なくとも1年程だと思っていた。

 だが、何かあったのだろう。

 何度か俺の記憶を揺さぶる出来事が起きている。


 となると、そろそろキーパーソンに会いに行って詳しく探るのにもいい頃合いだろう。

 今までは記憶に傷が付くのを恐れてなるべく慎重になっていたが、ここまでくれば、おそらく多少の無茶が聞く。




 「そんじゃま、行くか。イシュラのところに」












———————————————————————————









 「というわけだ」


 ざっと説明すると、やれやれとかぶりを振っていた。

 偶然居合わせたルイも苦笑いだ。


 「一方的だな、全く。だが、俺としても悪い話ではなさそうだ。協力するとしよう」


 「で、私と会長は具体的に何をすればいいんだ? いや、ナニをすれば………」



 「オメーはお呼びじゃねーよ変態。消えろアホ」


 「くぉおおッッ!!」



 女装癖のある副会長は、邪険にされると喜ぶらしい。

 よし、二度と近づくまい。



 「で、実際どうすればいい? 君の記憶といっても、それに関わるようなものは何も………」



 研究内容を言えばいいだろ。

 なんて事は言えない。

 言っても提示しないだろう。


 こいつが認知しているか知らないが、 現状こいつとは敵対関係にあると言っていい。

 俺は今、ファリスに頼まれてこいつに必要以上に研究に関わらせないために、優勝させないようにしようとしているのだ。


 だが、



 「なんでもいい。話せる範囲で教えてくれ」

 


 そう、少しでいいのだ。

 多分、ほんの少しでも綻びができたら、すぐに決壊する。

 多分そうなると、なんとなくわかるのだ。

 ただ、自分から探ろうとすると、何か決定的にまずいような予感もある。

 おそらく、魂魔法の影響で何かしらの制限を受けているのだろう。

 だが、今ここで俺に影響が出ないようにと力ら技で記憶をこじ開ければ、素性がバレる恐れがある。


 それはまだダメだ。



 だから外部からの刺激で記憶を揺さぶらねばならない。






 すると、唐突に答えはやってきた。





 「………君には、声が聞こえるんだよな?」


 「? ああ」


 「アレは未完成なせいか、とある対象にのみ声が聞こえるようになっている。その声の主は…………俺の妹だ」







 「————————————ぁ」







 来る。

 雪崩のように流れ込んでくる。

 これだ。

 この穴が埋まっていくような感覚。



 



 イシュラ

 妹

 魂

 世界

 記憶

 混ざる

 溶ける

 罪

 罰

 約束

 1年

 助ける

 


 助ける

 助ける



 アルシュラを、助ける。









 「ぁ、ああ!! 思い出したッ!! 思い出したぞ!!」



 俺がガタッと音を立てながら椅子から立ち上がった。

 そうだ。

 アルシュラだ。

 アルシュラ・ノゼルバーグ。

 イシュラの妹で、虚構空間・第零学区の責任者。

 俺はあいつと会ったのだ。



 「え? 早くないか? そんなに浅い記憶だったのか?」


 「いや、お前のそれがピンポイントに記憶の重要な部分を担っていたんだよ。アルシュラに記憶が一番強かっ、たっっと!?」


 俺がアルシュラと言った瞬間、イシュラは立ち上がって俺の肩を掴んだ。

 なんとも言えない表情だ。



 「アルシュラ、を知ってる、のか?」


 「ああ。ある空間にいるが、元気そうだぜ。快活そうな女だ」



 「は、はは、は………」

 


 イシュラは、崩れ落ちた。

 さっきからコロコロ表情を変えているが、今回のそれは心の底からの安堵だった。




 「よかった、まだあいつは………」


 「会長………」



 ルイは、イシュラの肩に手を置いた。

 そして、こう告げる。



 「彼に話してみませんか?」


 「「!!」」



 おいおいマジか。

 

 俺は思わずギョッとした。

 秘密は、あまりに呆気なく明かされようとしていた。



 「………ああ、その方が良さそうだ」




 それは願ってもいない展開だった。







 

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