第416話
5日目。
現在まで、残り2日。
ウルクは感じ取っていた。
近寄ってくる、異世界人たちの気配を。
巫女となったせいか、なんとなくだがわかるのだ。
「………来てるね」
「お、ウルちん気づいてるんだ」
距離や人数がはっきりとわかるわけではない。
ふと “あ、来ているな” と言う感覚があるのだ。
いわゆる、虫の知らせのようなものである。
それは当然、力の源であるチビ神も感じ取っている。
彼女………神に彼やら彼女やらと言うのはおかしいが、まぁ“彼女”としよう。
彼女にとっても、ウルクにとっても、当然いい知らせではない。
彼らは、ウルクの命はもちろん、チビ神も狙っていると思われる。
チビ神の本体………つまりは遺体だが、これはウルクのもつアイテムがなければ入手不可能だったため、すぐには手を出せずにウルクのみを狙っていたわけだが、こうなった以上、 直接狙ってくるのは確実だ。
だが、すぐには襲ってこないだろう。
彼らも機を待っているからだ。
「すぐに来るかんじじゃないけど、多分お祭りの時に来るかもね」
「うーん、やっぱそうかー」
学院にも、生徒にも大きな隙ができる日だ。
見逃すわけがない。
「で、どうすんの?」
「と言うとー?」
「ミーにとってはただの仇敵の使徒だけど、ウルちんにとってはもともと仲が良かった子とかいるわけじゃん?」
そう。
ウルクは彼らと面識があった。
個人個人で差はあるが、親しくなった相手もいる。
流なんかそうだ。
だが、
「戦うよー。うん、戦う」
「へー。そっか」
「でも、殺さない。私はねー、ただルナラージャを平和で優しい国に変えたいんだー。奴隷制度を廃止して、規制ももう少しゆるーくしてさ、国のみんなに自由を知ってほしい。それは、この国に召喚されたみんなにもなんだよー」
国を変えるために、ウルクはここにいる。
今の圧政から民を、奴隷を救い、誰もが笑顔で暮らせる国を作る。
たとえ、かつての部下と刃を交えようとも、それはなさねばならない。
ウルクの決意は何よりも固かった。
「そのためにも………」
手にうっすら金色の光が灯る。
神威。
無力な少女がようやく手に入れた、願いを叶えるための戦う力。
ウルクはぐっと拳を握りしめて、それを四散させた。
「この力を使いこなさないとねー」
神威の扱いは、当然魔力の比ではない。
そもそも魔力というのは、神威を使えない人間のために神が与えた神威の下位互換の力と言える。
それを、本来使うべきでない人間が使うという事態そのものがダメなのだ。
だが、ウルクは適合している。
この時点で相当な才能だ。
「どこまで伸ばせるかはウルちん次第だよ。ミーは貸すだけ。“輪”とまではいかなくても、せめて“羽”くらいは発現させたいね」
「………羽かぁ。翼じゃなくて?」
「そこまでいくのはおススメしないよー。ミーからの忠告」
「!!」
チビ神は口の前でバッテンを作った。
ふざけたようなジェスチャーだが、その危険性はなんとなく察したウルク。
これがはっきり忠告とまで言った事はなかったのだ。
信じた方が賢明だと判断した。
「でも、間に合うかどうかはビミョーじゃない? 事が起きる日は、良くて10日前後、最悪3日後」
「だから、チビ神ちゃんに頼んでるんだよー」
「………」
チビ神はどこか躊躇うような表情だった。
そして再三の確認を取る。
「しつこいかもしれないけど、これはホントに危険なんだよ。ウルちんが死んじゃうかもしれない。そうなったらミーは力の大半をしばらく奪われて動けなくなっちゃうよ」
「ケンくんに見てもらうのはー?」
「えー、ヤダ」
チビ神は速攻拒否した。
意外に思ったウルクは思わず首をかしげる。
「だってさー、ケンちんって多分身内には頗る優しいけど、敵に対しては苛烈って言っていいくらい危ないじゃん。だから多分ウルちんが死んだ原因がミーにあるって知った瞬間、多分ミーは跡形もなく消されちゃうよ。ミーみたいな得体の知れない神はまだ身内に入れてないみたいだしね」
これで諦めるだろう。
そう思っていた。
「でも、私が殺されて向こうに渡るのはもっと嫌」
ピクリとチビ神が動く。
「でしょー?」
「………しょーがないなぁ」
図星をつかれた。
ウルクを助けるという名目で、頼もうと思ったのだろうが、こうなって仕舞えば仕方ない。
確かに、自衛するくらいは必要さだ。
チビ神は、ウルクの肩の上に乗った。
「丸2日、地獄に耐える覚悟は?」
「ある」
チビ神はやれやれと思いつつ、ゆっくりと目を閉じた。
そして、気が乗らないような声でこう言った。
「後悔しないでね」
残り2日。
始まりは既にすぐそこまで。




