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第413話


 2日目




 現在まで、あと5日。

 魔獣演武祭まで、残り6日。






 屋上で1人たたずむ春。


 以前、向こうの世界にいたころ、彼女は屋上でぼんやりと外を眺めるのを好んでいた。

 1人の時もあれば、ケンと2人の時もあったり、蓮や琴葉が一緒の時もあったり、さらに数人居たりすることがあった。


 クラス………いや、学校中の生徒がみんなケンを避けるせいで、ここにくる生徒はそんなに多くはない。

 だが、ここにやってくるのは、大抵ケンに偏見を持たずに接するような生徒ばかり。

 ああ、この子達は良い子達だ、と。

 一緒に居て、何度そう思っていたか。



 王宮にはケンは居なかったが、春は沢山の生徒に囲まれていた。



 今度は逆にケンだけがいるわけだが、ここでもやはり、生徒とよく一緒にいた。

 ここの生徒も、よく一緒にここでのんびりしたりしている。


 まだここに入って日が浅いが、いつかは向こうの生徒と同じように接することが出来るようになるだろう。




 ここで、春は自分を振り返っているのだ。

 ここで生徒と触れ合うことで、私は今教師をしているんだなと再確認できるし、一人で学校を見ている時も、ここで私は教師をしているんだと自身を顧みられる。





 そして、今は1人。

 ケンもおらず、生徒たちは皆授業に出ている。

 自分はというと、授業が入っていないので、本体は別の仕事をする時間だ。

 ちょっとした息抜き。

 1人というのもたまには良いものだ。







 ——————そう、そうやって景色を見るのなら。







 「………」


 いつものようなふわふわとした柔らかい雰囲気ではない。

 それは、決して生徒には見せたことがない表情だった。


 


 「はァ………」



 重いため息。

 これから自分がどうなるか、それを考えると気が思いなんて言葉では済まされないほど、春は憂鬱な気分だった。



 『うーん、やっぱりそうなっちゃうかぁ』



 「!!」



 屋上で1人——————否だ。

 相手はいる。

 姿はないが、声だけの相手が。



 『やぁ』



 春のポケットには小さな袋が入っている。

 御守りのような袋だ。

 その中央にある石から声が聞こえていた。


 『毎度おなじみ、知恵の神ことトモだよ。春先生』


 「………」


 子供は好きだ。

 しかし、耳に響くこの声は、どうしても好きになれない。

 これは、子供の見た目をしただけの他の“ナニカ”だ。


 その気持ち悪い違和感に、春はどうしても嫌悪感を覚えていた。


 「………あらぁ? 間違えたのかしらぁ? 仕事まだ終わってないのよぉ?」


 ふふふ、と笑い声が聞こえる。

 トモは答えた。


 『知ってるさ。でも君、いいのかい? ケンくんってば動き出しちゃったよ?』



 「えぇ、もちろん。でもぉ、やることは変わらないでしょ? 私は私の仕事をするだけ」



 『ふふ、わかってるなら大丈夫さ。やはり君に頼んでよかったよ、春“先生”?』


 ぐしゃり、と。

 ほんの一瞬だけ、表情が歪んだ。

 先生と呼ぶその皮肉はどうしても耐えられなかったのだ。


 『他の勇者………子供達はやってくれるかどうかわからないからね。石田くんあたりはやりそうだけど、いかんせん頭の方がね………ははは』

 


 「………こういう仕事は、絶対に生徒にさせないで」



 『それは、僕の関与することじゃないなぁ。あの王はやりかねないからね。でもまぁ、とりあえず僕からは誘わないでおいてあげるよ。いや、そもそもその気は…な———い、さ………っと、そろ———そろだね』



 声に雑音が入り始めた。

 時間の限界が来たらしい。



 『うん、彼らに———は、任せ———るつもりはな———いよ。彼らはまだ子———供だ。子供の眼に映る———のは現在()。そ———して、君ら大人の眼に映———るのは、未来()。見据えるものが違う君だ———からこそ、僕は君を選んだんだ———』



 春はぐっと拳を握りしめる。


 そうだ。

 未来を守らなくては。

 今を、今だけをがむしゃらに、全力で生きていてほしいから、私はこんなことをするのだ。


 過去を振り返って後悔し、未来を眺めて絶望する。


 そんなことをさせないために、教師というのは………大人というのは、子供の未来を耕さなければならない。



 私は、そのための覚悟を決めたはずだ。




 「うん、そうだった。たとえ嫌われても、私には………道を作る義務がある」



 拳を握りしめ、自身の目的の再確認をする。


 『だったら、何をすべきか理解してるでしょ?』




 「————————————ええ」











 今は1人。

 誰もいない屋上で、再び覚悟をした彼女は、一つの感情を握りしめて、ただジッとその時を待ち続けるのだった。



 

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