第412話
思っているよりは簡単そうだった。
何を深刻そうにしているんだろうか。
「いま、思ったより簡単そうだとか思ったか?」
「思った」
ファリスは俺の顔を見てそう言ったので、どうやら表情に出ていたらしい。
いかんいかん。
「でも、どのみちそんなに深刻な問題というわけでもねーだろ」
「………」
ファリスは一瞬黙った。
そしてこう言う。
「………………確かにお前さえ出場できれば問題はないだろう。お前が行事に出ないというのは所詮ただの口約束だ。だがな………」
「無理なんだろ?」
俺は被せてそう言った。
「ふ、流石にわかるか」
そう、それはもう今更出来ない。
俺はどうあってもこれには参加できないのだ。
「この件は既に一部が関わっている。例えばミレアとかな。そして、おそらくそれはイシュラも知っているんだろう。そこでいきなり俺を出すとなったら、流石に何もいえないだろうな」
後は、俺の件は知っているが、魂魔法の事を知らない教師へ情報が漏れるのを防ぐために、と言ったところだろう。
「そう、それが問題だ」
「どの道だろ? 俺がサポートすれば、同等のクラスの特科なら………」
「普通ならな」
ファリスは少し強調してそう言った。
何かある。
「お前は1組と2組の大きな違いはわかるか?」
「いや、2組をそんなによく知らんからな。わかんねーよ」
「そうだろうな。だから簡単なんて軽々しく言うんだよ。お前らと2組は対等ではない。使い魔が絡むとそうなってしまうんだよ」
使い魔………そもそも特別魔法科と言うのは、あらゆる魔法的な分野で高度な技術を持つ者で構成されたクラス。
そう、決まりはない。
だが、クラスを分けるのはファリス。
あまりにバラバラなら、授業が進まないだろう。だから、何か統一された何かで固まっている筈だ。
「何か、特別科の中でも区別があるわけだな」
「その通りだ」
ただ、2組を知らないので、何がどう違うのかよくわからん。
「言うならば、特殊性の違いだよ」
「特殊性………?」
「そうだ。2組は1組よりも特殊な授業をしていた。例えば、魔法の会得よりも無詠唱を重要視したりとかな」
そう言う違いか。
なるほど。
「察するに、2組の方が使い魔選びに拘ってるって訳だな」
「そう言う事だ」
「そうか………」
だから、簡単じゃないと言ったのだ。
対等ではなく、不利。
そして俺も出られない。
状況は悪いように聞こえる。
だが、
「舐めンなよ、ファリス」
俺はドン、と自分の胸に拳を叩きつけてこう言った。
「その程度のハンデ、すぐにひっくり返してやる。それに、アンタも出るんだ。ただ黙ってるわけでもないんだろ?」
そう、今回は教師も出るのだ。
「俺はあくまでも保険ってわけか」
「ああ。無論負けるつもりはない。だが、油断ならんガキだ。だから、こちらも相応の保険は必要というわけさ。それに、負けた場合、進ませるだけでは済まないからな」
そういえば、本当はそうなるのを無理やりこいつが捻じ曲げたのだった。
ならば、向こうもさらなる条件をつけているに違いない。
「負けた場合、魂魔法の研究の全権があいつに渡る」
「!!」
マジかよ。
思ったよりデカイ条件だ。
そうなったら、もっとマズイ。
あれは危険な魔法擬きだ。
いくら優秀でも、普通の人間が扱っていいい領域ではない。
特に、子供なんて以ての外だ。
「是が非でも勝つぞ、ファリス」
「当然だ。アレは私の研究だからな。お前をここに呼んだ理由の中でも、あれの研究を手伝わせる事は特に大きいものだ」
それは初耳だな。
だが、それなら俺も好都合だ。
「で、勝つために何か具体的にする予定は?」
「無論ある。少し痛手だが、これならば全クラス今までよりもずっとやる気が出るだろう」
ファリスはニヤリと笑ってそれを俺に言った。
これが事の始まり。
数時間後に発表されたそれ——————1位のクラスの願いを叶える事——————は、目論見通り、あらゆる学年と学科の生徒のモチベーションを上げた。




