第410話
「む、接触したみたいだね」
知恵の神ことトモは、いつものようにケンの様子を覗いていた。
「春先生もケンくんもいい顔してるねー。感動の再会ってわけだ」
など言うトモだが、どうも人間らしい感傷めいたような口調ではなく、どこか皮肉めいた口調で、彼らを見ながらそう言っている様子だった。
「ちょっと悪いけど、これが丁度いいんだよね」
くるくると宙で周りながらそんなことを言うトモ。
だが、いつものように笑顔ではない。
「彼の計画も始まった事だし、本格的に動かないとだね」
計画、とトモは言う。
知恵の神が遂行する計画とは、なかなかとんでもないもののように聞こえる。
「さてと………」
トモは、チラッと春にも視線を投げた。
「学校での一クラスを転移させた事は今までで何度もあったけど、教師に特別な加護を与えたのは本当に久しぶりだなぁ」
加護とは、神が人に与える力の総称だ。
固有スキル、巫女化による神威の貸与などもその例だ。
特異点ばかりはこれを外れるが、大体これに属している。
今回春に与えたのは、医療技術の知恵と情報。
回復魔法の精密さの向上させたり、レパートリーを増やしたりした。
彼女の固有スキルにぴったりだ。
「しっかりと働いくれるかな? 春先生」
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「うおっ」
「む………」
例のごとく授業をサボっていると、廊下でイシュラと出会った。
流石にぼーっとしすぎたか。
とはいえ少しまずいな。
イシュラは第二生徒会長。
ただでさえサボり中は避けている生徒会の会長だ。
たまにはいいかなと思って第2棟に来たことが仇になったか。
「生徒会活動か? いやー大変だな。頑張れよ。それじゃ!!」
がっしり。
イシュラは無言で俺の肩を掴んだ。
デスヨネー。
「待つんだ」
「わーったわーった。サボッテスミマセンデシタ。はい、終わり!!」
俺は投げやりに謝って帰ろうとした。
すると、
「ああ、違う違う。その事じゃない」
「ん?」
と、引き止める。
表情を見てみるが、どうやら嘘ではないらしい。
俺はとりあえず肩から手を退けてもらって、イシュラの方を向いた。
「すまない、どうも勘違いさせたらしい。呼び止めたのは、話がしたいからだよ」
「でも、お前も仕事があるんじゃないのか?」
「まだ時間があるから大丈夫だ。どうしても聞いてほしい」
なんだなんだ。
またクラブか?
それとも、魂魔法の件か?
「先日赴任したウキタ・ハルという女性教師なんだが、知り合いというのは本当?」
「? ああ。前にいた学校の担任教師だ」
「そうか。だったら、君も注意をしておいてくれないか? ああいや、気にかけるというか、見張っておくと言うか………」
歯切れが悪いな。
何か人に聞かれたくないようなことでもあるのだろうか。
………あ。
俺はポンと手を叩く。
「好きなのか?」
「そうじゃない」
「冗談だ。気にすんな。どうせあいつがあの音の元にいるのでも見たんだろ?」
この学院では、たまに大きな高い音が鳴り響くことがある。
波紋共鳴と思われれいるそれは、実は魂魔法の実験の副産物らしい。
「なかなかの勘の良さだ。そう、それだ。俺としてはまだ誰にも勘付かれたくないから、怪しげな動きを見せたら俺に報告して欲しい」
「そういうことか。わかった」
「ありがとう。助かる」
イシュラは小さく頭を下げた。
さて、話はそれだけっぽいし、俺もそろそろいい感じの時間だ。
よし、帰ろう。
と、思っていたら、
「待て」
「デスヨネー」
俺はおとなしく小言を聞いておいた。
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ようやく説教が終わった。
よくそんな長く説教しようと思うな、とか思ったりする。
「へいへい。次から気ィつけるよ」
「君は本当に反省してるのかわからないな………」
まぁ、解放した理由はおそらく諦めたからであろう。
さて、帰ろうか。
くるっと回れ右をする。
もうそろそろ授業も終わることだし、丁度いい。
と思っていると、
「そういえば、そろそろ魔獣演武祭が始まるね」
「ん? ああ、そだな」
「あれもまた特殊な行事でね。魔獣祭もそうだったが、行事というよりはそう言う期間だと思っていい」
そういえば、この前魔獣演武祭は一週間かけて行うと聞いた。
なるほど。
一日や数日限りでないのは、こうなる前からか。
「大目玉の大会では、俺と君が当たる事もあるだろう。その時は是非よろしく頼む」
「あー………うん」
「?」
すまん。
俺出ねーわ。
補助だし。
「………ああでも、そうか」
あまり意識してなかったが、リンフィアやラビ、ニールとうちのクラスメイトが戦うこともあるという事だ。




