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第409話


 休み時間。

 春は、クラスの生徒たちに囲まれて質問ぜめに遭っていた。



 「先生どこから来たんですか?」


 「えーっとぉ、王都から来たよぉ」


 「ここの教師になれるくらいの回復魔法をどうやって覚えたんですか?」


 「うーん、それはちょっとナイショかなぁ」


 「何でそんなゆったりした喋り方なんですか!」


 「何でだろう………生まれつきこうだからかなぁ」





 みんな年齢は何歳だ、とか彼氏はいるのか、そんなありふれた疑問を聞いたり、回復魔法のことを聞いたりなど、質問は様々だった。

 対する春は、いつものようにゆったりとのんびり適当そうに答える。

 だが、こう見えてちゃんと質問には答えているのだ。

 なので、みんなどんどん質問をする。



 しかし、肝心の話題に関しては、誰も聞く様子はない。

 おそらくその当事者である俺が聞くのもあれなので、何も言わない。

 すると、


 「はいはーい! ケンくんとはどんな関係ですか!?」


 流石にシャルティール。

 みんなが出来ないことを平然とやってのける。

 まあ、憧れはしないが。


 と言うか、俺と春はただの生徒と教師だ。

 期待しているような返事は返ってこない。

 普通なら。



 「えっとねぇ、ただならない関係かなぁ」


 「ちょっと春先生? 何言ってやがンだ?」


 きゃあきゃあと騒ぎ立てる女子ども。

 所詮、向こうもこちらも関係なく、女の趣味というものは一緒らしい。

 俺はやれやれとかぶりを振った。


 そうだ。

 こいつはこのように茶目っ気があるのだ。



 「うふふ、冗談だよぉ。聖くんは相変わらず短気だなぁ」


 「うるせぇ」


 こういうやりとりも久しぶりだ。

 


 「私と聖くんは、以前いた場所で普通に生徒と教師の関係だったの。そう、普通に。ねぇ、聖くん」


 「含みのある言い方をすんじゃねーよ。ったく………お前も相変わらずだな、春」


 「そういう聖くんも、相変わらず教師を呼び捨てにしたり、タメ口だったり………あ、そうだ。聞いたよぉ。こっちでもサボってるって。ダメだよぉ、聖くん」


 わざとらしく怒ったようなことをいうが、こいつがサボりに関して言及したことはほぼない。

 というか、俺がサボっているとき、例えば屋上にお菓子なんか持って来たりすることもあった。

 それでいいのか、春よ。



 「あ、もう時間だぁ。それじゃあ、明日あたりに授業しに来るので、よろしくお願いします」


 今日は挨拶だけらしい。

 授業が始まる前に、戻ろうとしていた。


 だが、帰る前にチラチラと俺を見ているのに気がついた。


 合図とかではない。

 が、似たようなものだ。




 「………しゃーないな」







 






———————————————————————————











 「あ、やっぱり来たぁ」


 春は屋上にいた………のではなく、その扉の前にいた。

 理由は察してるが、一応聞いてみる。


 「何してんだよ」


 「鍵を忘れちゃってぇ………ごめんねぇ。すぐに取りに行くから」


 やっぱりか。


 「待て」


 「?」


 俺は以前ファリスから貰ったマスターキーを使って屋上の鍵を開けた。



 「マスターキーだ」


 「あらぁ、こっちでも鍵作ったのぉ?」


 こっちでもと言うのは、春は俺が向こうの学校でこっそり型を取っていろんな部屋の鍵を作ったことを知っているのだ。

 無論、今回は違う。


 「貰いもんだ」


 屋上へ出た。

 やはり、屋上は落ち着く。

 俺たちは、端の方へ行ってなんとなく座った。



 「ふぅ」



 こいつ、何食わぬ顔で座っているが、俺が来なかったらどうするつもりだったのだろうか?


 まぁ、こいつの考えは何となくわかる。

 顔や仕草に思考が現れやすいタイプだ。


 それでも、だ。



 「わかりにくいアピールすんなよな」



 流石にあれは分かりづらい。

 露骨な合図を避けてくれていたのだろうが、もう少しやりようはあった筈だ。



 「うふふ、ごめんねぇ。でも、来てくれるだろうなとは思っていたわよぉ」


 「そーかい」


 久々の再会だ。

 少し長話になりそうではある。

 という事で、俺はアイテムボックスから飲み物を取り出して春に渡した。

 


 「うふふ、人間変わらないって言うけど、そうみたいねぇ。安心したぁ。今も不良なのに、やっぱり気が回るもん」



 「だろ? もうちょい感謝しやがれ」


 「そんな素直じゃないところも相変わらず………でも、やっぱり向こうにいたころとは少し変わったねぇ」


 変わった。

 確かに、そうかもしれない。

 多分、俺はここまでいろんな人と関わるような人間ではなかった。

 避けてはいない。

 でも、人と関わる機会はあまりなかったし、そもそも避けられていた。



 「へへっ、俺も随分人間らしくなれたっつーことかねぇ………」



 しみじみとそう思った。


 「………」



 そういえば、よくよく考えたら春は何故こんなところいるのだろうか。

 面倒見のいい春が簡単にあいつらから離れるようなことはないと思うのだが。


 「なぁ、なんだってこんなとこに来たんだよ。あいつらは放ったらかしといていいのか?」


 「良くはないよぉ。ケンくんもわかってるでしょ?」


 春は2人きりの時は、苗字ではなくケンと呼ぶ。

 彼女なりの線引きのようなものだ。

 この世界では、だいたいみんな名前で読んでいるので、あまり気しなくていいと思うが。


 「でもね、」


 「?」


 「私と君“も”教師と生徒。私は、ケンくんも守らないといけないの。余計なお世話かもしれないけど、それは本当よ」



 ………そうか。


 「そんじゃ、しょうがねーな」


 「ふふ、そうだよぉ」



 俺たちは顔を見合わせてクスリと笑った。

 こいつは会ってからずっとそうだった。

 入学当初、教師には一切心を開かなかった俺にしつこく話しかけ、諦めた俺が折れたのだった。


 それだけ教師として信念を持っていたのだろう。


 変わらない。

 そう、変わらないのだ。


 ——————隠し事が下手な事も。




 「()()()本当、か………」



 俺は、春に聞こえないようにそう呟くのだった。

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