第408話
「いったい誰だろうな………」
俺はついそんな事を口に出していた。
「ケンくんの知り合いなんだよねー? 心当たりはー?」
「さぁな。もし考えて答えが出ると面白くねーから何も考えてない」
「へー」
それにしても、なかなか入ってくる気配がない。
一体何をもたついているのだろうか。
「いたっ!!」
扉からゴンッ!! という音がなった。
頭をぶつけたらしい。
どうやらドジな人物らしい。
おっと、これ以上考えるのよしておこう。
「っと、そうだった。荷物は置いておいていいスよ」
ファルグは適当な敬語でそう言った。
何かを置いているらしい。
資料だろうか。
どのみち、こいつは要領が悪い人物だった。
「ドジっ子だー」
ウルクは何の気なしにそう言った。
「………」
それにしても、何だこの………モヤモヤは。
さっきの一瞬。
聞き逃しはしなかったが、些か声が小さかったのだが、微かに聞き覚えがある。
が、あえてまだ意識をぼかしておくことにしたのだ。
「お、来た」
そしてついに、扉が開いた。
入って聞きたのは、女性だった。
ロングヘアで暗めの茶髪の女性だ。
おっとりとした雰囲気、穏やかな顔立ちで、学校では美人と評判だった。
そうそう、確かに俺はよく知って——————
「………………………は?」
間抜けな声が、自分から発せられた気づくのに時間がかかった。
それほどに、衝撃だった。
ある程度なら驚かないつもりだったが、これは流石に驚いてしまう。
当然だ。
流石にこいつは予想外だろう。
「ウキタ・ハルです。よろしくねぇ」
「春ゥゥ!?」
俺は思わず立ち上がっていた。
そして、 俺に気づいた春は、こちらに向かって手を振った。
「あ、聖くんだぁ。元気してる? うふふふ」
「な………おま、え、は!?」
意味がわからない。
いや、落ち着け………それっぽくないが、こいつは一応教師だ。
ボケーっとしてるドジっ子だが、それでも一端の教師だ。
「うーん 失礼な事考えられてるかなぁ?」
「彼女は回復魔法において、国内最高の使い手だ」
魔法だと………?
とは流石に口には出さない。
出さないが、驚いていることに変わりはない。
こいつが満足に使えるのは、固有スキルの【復元】
言ってしまえば、なんでも“直す”し、なんでも“治す”スキルだ。
これだけ聞くと、とんでもない反則スキルだが、その分制限も多い。
例えば、一日数回しか使えない、や、HPが一桁になった相手には使えない、などだ。
辛うじて生きていても、既に死に体の相手には無効である。
大小関わりなく決まった回数のみである。
ほかの能力といえば、回復魔法や回復・修復系スキルの使用時にその効果が上がったりなどが挙げられる。
そう、考えられるとしたらそこだ。
つまり、そこまで認められるには、
「トモのやつ………まさかとは思うが何かしやがったか?」
《その子、なーんかにおうよー》
頭の中に、直接声が響いてきた。
こんな意図も簡単に念話を送ってくるのは、
『チビ神、そりゃどう言う事だ?』
《神威を与えられたわけじゃないっぽいけど………んー、ミーの見立てでは固有スキルにおまけをつけられちゃってるねー》
オマケ………
そうだ、あいつの権能は知恵だ。
つまり、回復術の知識を与える事は不可能ではない。
《うーん、でもこれ………》
『いや、間違いねーだろ。あいつだぜ?』
間違いない。
あいつ、人の担任使って遊んでやがる。
いや、この場合は良しとするべきか。
確かあいつ、攫われそうになったっつってたしな。
《んー、遊びで加護つけるのは、アイツっぽいよねー》
『確か1人だけに出来るんだったよな?』
《そだよー。ま、しない神も居るんだけどね》
と言う事は、回復術限定でそれを扱う知恵と情報を与えられているという事か。
なるほど。
確かに、それなら納得だ。
「というわけでお前ら、これから回復魔法の授業は彼女がするから、ちゃんと受けろよ」
俺とガリウスに注目が集まる。
確かに、ちゃんと受けないのは俺とこいつくらいだしな。
「あの、今まで担当だったアズトーン先生はどうなさるのですか」
「2組に移るらしい。特科の、だ」
「「「ゲ」」」
なるほど。
敵サイドに行くわけか。
「さて、俺は仕事に戻る。ハルセンセを困らせなさんなよ。それじゃ、後は頼みます」
「はぁい」
そう言ってファルグは何処へと去っていった。
タバコを持っていたので、おそよの行き先はわかるがな。
「………」
それにしても、相変わらずボーッとしてるな。
多分、俺が今まで会った中で一番ふわふわしてる人物だ。
そして、今まで会った教師の中で、俺が一番心を開いた人物でもある。
そんな彼女が、勇者たちの元ではなく、わざわざここまでやって来た理由知るのは、まだ先のことであった。




