第406話
「そうか………つくづく飽きさせない男だな、ケンのやつは」
「それは私も思ったよ。彼は世間の持つ偏見や流れというものに足しては頗る強そうだからね。仮に彼にあそこまでの力が無かったとしても、それは変わらないだろう。そんなだから、予想外の動きをする彼は見ていて飽きないのさ」
クルーディオからすれば、ケンは会ってから何日も経ってない上に、何時間も会話したわけでもない相手だ。
だが、羽無しと知ってあそこまで普通に会話するような人物には、どうやっても興味が湧く。
そう、目の前にいる彼女のように。
「飽きないと言ったら、君はまた新しい行事をしようとしているんだって?」
「新しいと言っても、くっつけるだけだ。まぁ、今回は我々教師陣も参加予定だ。些か派手にはなるだろうがな。はっはっは」
ファリスは愉快そうに笑う。
大雑把で、色々適当な性格だと知っているクルーディオからすれば、多少ヒヤヒヤしてしまうというものだ。
「あまり無茶な行動はするものではないよ。というか程々に控えなさい。君が本気を出せば死人が出る」
「わかってるさ。一応これでも魔道王なんて呼ばれている。殊、魔法にかけては手加減も思うがままだ」
「はぁ………数百年生きていたけど、現代で君ほどの人間は本当にほぼいないんだよ?」
「だろうな。それくらいの自負はある。だが………」
ファリスは何かを思い出すように遠くを見た。
クルーディオはすぐにその意味に気がつく。
「ファリス、あれはもともと比べるようなものではないよ。ケンはどちらかと言うと、こちら側の存在だ」
「それでも、だ。私はあんな子供に得意の魔法で一切勝てないんだぞ? 流石にそれはへこむ」
まぁ、なんであろうが頂点にいる者と言うのは、どう言う形であれ誇りを持っている。
それはケンの登場により少なからず傷ついたのは致し方無いだろう。
「で、それは置いといて」
「薄情な男だな。友人を慰めようと思わんのか?」
「どういった要件かな?」
ごくありふれた言葉だが、この場では少々含みがある。
クルーディオは、薬の買取以外にも要件がある事に気付いているのだ。
「ふぅー………この国はどうなると思う?」
「ふむ、それを聞くか………」
ファリスは軽く頭を抱えながらクルーディオにこうこぼした。
「ただの戦争なら、私ら三帝でどうにか均衡状態へ持っていける。それだけ抑止になっていたからな。だが、今回は同じ抑止であったルナラージャの“四死王”、ルーテンブルクの“双戦鬼”に加え、各国が勇者………いや、異世界人を召喚している。ケンから聞いた話では、ルナラージャの異世界人の大半が少なくともダグラス以上だと言っていたんだぞ?」
「ダグラス………ああ、フェルナンキアの彼か。なるほど。それは厄介を通り越して危機と言っていいね」
「だが、この国に召喚された異世界人は、まだ弱い。以前会ったが、王女護衛のレベルでアレならば話にならんだろう。ケンだけが頼みの綱だ」
「………」
クルーディオは黙っている。
本当は分かっているのだ。
聞いては来るが、ファリスが何を考えているのか、そしてこのままではどうなるのか。
だが、クルーディオは取り繕うこともなく、はっきりと告げた。
「滅びるよ」
「!!」
「少なくとも、現在の戦力差はもはや絶望的だ。彼らは神から喚ばれた存在。その加護は全員についていると考えたら、ダグラス君とは比較にならないだろう。それに、向こうにもケン君クラスがいないとも限らない」
「………………そう、か」
片手で顔を覆い、下を向いて黙り込むファリス。
流石にショックなのだろう。
クルーディオは荷物を纏めて立ち上がった。
そのまま扉の方へ向かう。
ファリスは何も言わない。
だが、クルーディオはまだ言いたいことがあった。
「まだ希望ならあるさ」
「!」
クルーディオはノブをひねって外にでようとする。
そして、去り際にこう残したのだった。
「ケン君を信じなさい」
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「………おう、悪い悪い。待たせちまったな」
つい長話が過ぎてしまった。
まさかクルーディオが親父を知っているとは。
この世界での重要人物なのはなんとなく分かっていたが、これは俺にとってもただ事では済まされなさそうだ。
「そ、そんなには、待ってない、よ」
だが、流石に申し訳ない。
これは男として致命的だ。
「そういえば、ドレイルはどこに買い物に行こうとしてたんだ?」
「えと、その、 か、買い物というか、食べ物というか………」
なるほど、飯か。
だったら手っ取り早いな。
「ラビ、ラニア」
「ん?」
「はい?」
「腹減ってるか?」
「「うん」」
まぁ、飯時だしな。
だったら丁度いい。
「それじゃ、全員分俺が奢ってやる」
「え!! い、いいの!?」
「不快じゃないなら全然構わねーよ」
「じゃ、じゃあ、お言葉に、甘えて………」
ま、クラスメイトと親睦を深めるのは悪くない。
向こうではあまり思わなかったが、ここにきてからはそう思う。
だから、今度の行事で俺はとりあえず、クラスメイト全員から信頼を勝ち取れるようにはなりたいと思った。




