第405話
これは、クルーディオとの別れ際の会話だ。
「では、私はそろそろ仲間にこれを届けるとするよ。いつまでも籠の中という訳にもいかないしね」
「そだな。こっちも待たせちまってるし」
せっかく仲良くなったのだから、もう少し会話をしたいという気持ちはある。
だが、妖精界にはいずれ足を運ぶつもりだ。
その場では会えないかもしれないが、何かの縁で会えるかもしれない。
「それでは、せめて今生の別れにならないように祈っておこう。まぁ、方法ならあるにはあるがね」
「?」
クルーディオは俺を指差してこう言った。
「君は、特異点だろう?」
「………なんだ、わかるのか」
「これでも元は神だ。神威の気配くらい掴める………用心はしなさい。それは人の手には余る」
「当然だ。もう隠しても意味なさそうだからいうが、これでも知恵の神の特異点だ。あいつの知恵をもらった以上、それを扱う知恵は得ている。危険性なら誰よりも自覚しているつもりだ………そうか、なるほどな」
たしかに、可能だろう。
トモなら出来ないこともない筈だ。
「知恵の神のならば、私を捕捉できるだろう」
「そうか。んじゃ、また会えるな」
「ああ」
スッと手を出した。
クルーディオもそれに応じる。
「じゃあな」
「また会おう」
俺はクルーディオと最後に拳を合わせた。
そして振り返って、ラビ達の方へ向かおうとした時、
「ちょっと待て」
と、クルーディオは呼び止めた。
締まらないなー。
「なんだよ」
「君は、知恵の神の特異点と言ったな?」
「ああ」
「………」
クルーディオは真剣な顔で黙り込む。
そして、その表情を崩さないまま、俺の目をまっすぐ見てこう言った。
「ならば、ギルヴァーシューの予言は守りなさい」
「!!!」
ギルヴァーシュー。
ギルヴァーシュー・メイグス。
親父の名が、何故今………
「ついに来たのか………多くを救ってきた彼だからこそ、ここまでしたのだろうな」
………………………………は?
多くを救った?
おおくをすくった??
オオクヲスクッタ??????
混乱した。
誰かを救うなんて言葉が、奴にできるのか?
否。
出来ない。
出来ていい筈がない。
たった3人の家族すら救えなかったクズに他人が救える訳がないのだ。
だとしたら、俺はなんのために——————
「………ン、………ケン君!!」
「!!」
つい親父の事になると頭がいっぱいいっぱいになってしまう。
俺は少し深呼吸をして落ち着いた。
「………悪ィ、続けてくれ」
「そうか………ケン君、彼が残した予言は本物だ。ぶっきら棒な男だがこういうところはきちんとしている。だから、これで一つ確定だ」
そして、クルーディオはこう言った。
「先程は曖昧になったが、これで間違いなく、君は私と再会することになる」
「!!」
人間界じゃ終わらないわけか………
「そのためにも、君にはこの人間界の問題をどうにかして貰わなければならない。いいかい? 必ず成し遂げなさい。今は協力できないが、いつかきっと君の力になる。だから、今は頑張ってくれ」
………そうだ。
親父はどうでもいい。
俺は、自分が守りたいものを守るために、この予言をどうにかする。
方法は俺が決めるがな。
こうして、思いがけない告白を受けて、今回のクエストは終わりを告げた。
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「………こんにちは、ジョゼ殿」
クルーディオは、学院への専用の出入り口である“家”の前にいた。
出迎えに、ファリスの秘書であるジョゼが来ている。
「ようこそいらっしゃいました、クルーディオ様。さぁ、参りましょう」
「ええ」
クルーディオは、追放されてからは薬師をしている。
王だった頃に得た薬の知識を活かして、ごく一部の人間に薬を売っている。
ファリスも顧客の1人という訳だ。
「今回はやけに依頼が多いが、何かあったのかい?」
「この度開催される行事が、少々例年と異なったもので、必要なものが多いと仰っておりました。詳細はファリス様からお尋ねになられて下さい」
「そうする」
この廊下は結構長い。
ジョゼとクルーディオはこれ以上特に言葉を交わすことなくファリスの部屋へと向かった。
そして数分後。ようやく学院の真下まで来た。
そこから直通の階段を登り、奥にあった扉を開いた。
「やぁ、ファリス」
「来たな。好きな場所に掛けろ」
この2人は友人関係にある。
ファリスも変わり者というか、羽無しを嫌ってはいない。
だからこんなところの亜人や反魔族も受け入れるような学院を作るわけなのだが。
「まさか君が抱えているとはね」
「何をだ?」
「勇者さ。ヒジリケン。いつもやっている迷い込んだ小妖精を逃すクエストで偶然入ってきてね。まさか一日で捕まえて帰ってくる者がいるとは。あ、そうだ。では、いつも通りこのピクシーも頼む」
「承った」
ファリスは、妖精の隠れ家を受け取った。
仲間というのは、ファリスのことである。
しかし、ここまでの重要人物同士での友人関係。
普通ではないのは、当然の話だった。




