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第40話


 「………ん?」


 「どうしたの七峰さん?」


 「あ、いいや、なんでもないよ」


 虫の知らせと言うものがある。

 何の根拠も無いのに良く無い事が起きると言うアレだ。

 琴葉が感じたのはまさにそれ。

 そしてそれを感じるのは大抵ケンが暴走した時だった。


 「ケンちゃん………」


 一度や二度では無い。

 もう何回も暴れてしまった。

 トリガーは自分の大事なものが何かによってボロボロになった時。

 ケンの怒りはそれに向く。

 いつだったか忘れたが琴葉に危害を加えた奴ら全員にトラウマ植え付けて病院送りにしたこともあった。


 こんな風に大体、ケンは“敵”を壊す。


 二度と同じ真似が出来ないように。


 そしてまたケンは今までと同じように敵を破壊した。


 





———————————————————————————







 「また俺は、暴れたのか………」


 一帯は既に森の原型を留めていなかった。

 草も木もゴブリンロード達も消しとばしていた。


 リンフィアは治療を終えて容態は安定している。

 少々危なかったがこいつなりにゴブリンロード達に抵抗していたようだ。

 今までのリンフィアならば絶対死んでいた。

 ちょっとでも修行をしていて良かったと本当に思う。


 ここまでの大ごとは今までに一度もない。

 力を得ている分暴走時に招く被害は今までの比では無い。


 後悔?

 それは——————



 「さてと、女王を待つか」



 全くなかった。

 こういう奴に何をしようが何とも思わない。

 別にいいこととは思わないが悪いことだとはまるで考えてない。


 何故そう思うのか。

 俺はこうやって暴れた後、気分が一気に冷めるのだ。

 どこまでも冷静になる。

 これは多分変な事なのだろう。

 でも、蓮や琴葉は何も言わなかった。


 悲しそうな目で俺を見ているだけだった。

 恐れるのではなく、怯えるのではなく、ただただ悲しそうに。


 そして、リンフィアも。










 「リフィ、もう大丈夫か?」


 「はい、すみません。ご心配をおかけしました。10体目を倒した直後にモンスターバブルに呑まれちゃって………助けてくれてありがとうございました。えへへ、いっつも危ない時に来てくれるからヒーローみたいです」


 そんないいものじゃ無い。

 俺は………


 「どうかしましたか?」


 「………何も。ヒーローか。じゃあ次はちゃんと守んねーとな」


 「次はもう自衛しますよ。ふっふっふ、私も成長してケンくんくらい強くなってみせます」


 「はは、期待してる」





 少し遅れて女王が到着した。

 思ったより遅かったのは俺の魔力が感知を邪魔していたのだろう。


 「これは………貴様か?」


 女王は周りの凄惨な光景に戦慄の表情を浮かべる。


 「ああ、ちょいとばかし暴れちまった。森はこの通り台無しだ。許せ」


 「いや、それはもう構わん。ところで………」


 「わかってるよ。ほら、そこだ」


 俺はリンフィアの方を指差した。



 「あ!」


 リンフィアは大きな声を上げた。

 嬉しそうだ。


 女王はリンフィアにゆっくりと近づいていった。


 「ああ………本当に生きてらした………」


 目の前まで来ると膝をついて涙を流した。

 

 「こんなところにいたんですか。心配したけど、良かったぁ………生きてて。久しぶりですね、ニール」


 ニール。

 それが女王の名前だ。

 まさか噂の女王がリンフィアの探している人物とは思っていなかった。

 しかし、俺はさらに信じられない事実を知ることになる。


 「ああ、よかった………本当に良かった………! お元気そうで何よりです………魔王様!」


 


 え?





 「………は? え、ちょ、え?」


 混乱している。

 魔王?

 魔王ってあの魔王?


 「バレちゃいましたね。黙っててごめんなさい、ケンくん」


 リンフィアはぺこりと頭を下げる。

 嘘をついている様には見えない。


 「本当に、魔王………なのか?」



 「はい。私は第15代目魔王。リンフィア・ベル・イヴィリアです」



 以前の話で魔族の中でも位の高い一族の生まれだとは聞いていた。

 高いどころでは無い。

 魔族で最も位の高い一族だ。


 「と言っても、この通り父の様な力を持たない名前だけの魔王ですけど。あ、今度はちゃんとビックリしてますね」

 

 「流石にな。いやぁ、お前が魔王か。そうか、つくづく追い出されて良かったわ」


 「え?」


 「ああ、こっちの話」


 流石に勇者だって言ったら警戒されるかもだからな。







 これまでのことを改めてリンフィアの口からニールに伝えた。

 俺への敵意はもう完全に消え失せていた。


 「女王………ニールだったか?」


 「気安く呼ぶな、と言いたいところだが、貴様は………」


 「もうニール、貴様はダメですよ。ケンくんは私の命の恩人なんですよ?」


 「はい、かしこまりました。では、ケンで良いか?」


 「ああ、構わねーよ」


 貴様よりはずっとマシだ。


 「ケン、今まで魔王様の………」


 「あ、魔王も禁止。もう追い出されちゃったし。前みたいに名前で呼んでください」


 自虐を交えつつ再びニールに言った。

 と言うかそれ以上話の腰を折ってやるなよ。


 「………今までリンフィア様の護衛をしてもらい感謝する」


 「護衛というのは気になるが、まあ礼を言われる様なことじゃねーよ。リフィを旅に誘ったのはむしろ俺………」


 「待て!」


 いきなり大声で話しを遮られた。


 「今なんと言った」


 「は? 旅に誘ったのは………」


 「違あああああう!!」


 あまりの迫力に思わず仰け反る。


 「おお………いや、じゃあ、どこだよ」


 「リフィだと?」


 「あ?」


 「我が主人をその様に呼ぶとは羨ま………不届きものがあああああ!!!」


 「いや漏れてるぞ、心の声が」


 「やめて、ニール。ケンくんがつけてくれたその愛称気に入ってるんですから、文句言っちゃダメです」


 「!!!」


 あ、崩れ落ちた。



 ニール。


 女王と呼ばれた女。

 その実、リンフィアのことが大好きで仕方のない、言うならば魔王(デビル)・コンプレックス。デビコンとでも言っておこう。

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