第397話
「おいおい、何言ってんだ?」
「このお兄さんどう見てもただの一般人っしょ?」
「………」
男は何も言わない。
だが、こいつなのは間違いない。
そろそろ尻尾を出してもらおう。
「アンタ、ものスゲェ回りくどいな。少なくともこの段階ではアンタ絶対気づかせないつもりだろ?」
「あの、一体何を………」
「!」
カチンときた。
芝居を打った事ではない。
尻尾を出さないことでもない。
こいつ、おちょくってやがる。
「ハァ………」
俺はため息をついた。
このやり取りでこいつがいかに面倒かわかった。
だったら、
「いっぺん死ね」
ビュォオオッッッ!!!
「「!?」」
俺は手首を軽く返すようにして、お手製クナイを4つ放った。
一瞬漏れた殺気に、ようやくグルーとミアは気がついたらしい。
魔法で作ったクナイなので、顔の前で寸止めする。
「なんてな。お、化けの皮が剥げて来たな」
「おいおい、このにいちゃんマジで………」
「すごい殺気………」
ほんの一瞬だったが、2人はその殺気に一瞬で警戒した。
流石エリート校の戦闘専門のクラスなだけはある。
こいつら上等クラスでもない世間ではかなりの使いでだ。
「………君、一体何者だ?」
「ただの不良生徒だ。で、 アンタは?」
男はアイテムボックスから取り出したフード付きローブを羽織った。
その瞬間、プリヴィアがあっ!と声を出した。
「やれやれ、噂が広がっているようだ。私もそろそろ衣替えかな?」
「おい、まさか………」
プリヴィアの手がワナワナと震えている。
そう、見つけたのだ。
この男こそ、
「はっ、はい。彼が、クルーディオ・フーガです!!」
「「「!!!」」」
驚きのあまり全員立ち上がる。
そんな中、ラビとラニアは頭上にハテナを浮かべたままケーキをを食べていた。
「「?」」
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場所を移して、マギアーナ郊外まで行った。
どうやら、クエストは外で行われるらしい。
「すまないね。私はつい癖で受諾者を試すのだよ。強さや、その人の人格といったものを見る。強くとも、悪人であれば報酬を渡す気にならないのでね」
「んで、お眼鏡に適ったのかい?」
「ふむ………」
クルーディオは全員をじっと観察した。
そして、
「まぁ、合格だ。人格に関してははっきりとは言えないが、悪人の気配はない。強さに関しては、君が水準を遥かに上回っているようだしね」
「へぇ………」
こいつ、やはり只者ではない。
俺が見せたクナイは、魔法としてはかなり下級のものだ。
その時の俺の動きや魔力の使い方なんかを見たのだろう。
「では?」
「うん、これから君たちに依頼をしよう」
みんなの表情が明るくなった。
いよいよか、というのが表情に出ている。
こうなったらその報酬とやらが気になるものだが、まぁそれは後でもいいだろう。
「今回の依頼。それは、妖精探しさ」
「!! 妖精って、あの妖精か?」
「そうとも。最近周辺に逸れ妖精を見たという情報を得たものでね。ここにいるのも危険だから逃がしてあげたいんだ。ついでに鱗粉を少々貰うつもりだが」
妖精族。
エルフ、ドワーフ、ウンディーネ等の生物としては人間や亜人より上位の生命だ。
クルーディオが探しているのは、小妖精の一種であるピクシーだ。
「あ、そっかぁ………」
何かに気がついたみたいに1人頷くドレイル。
「何がだ?」
「そのぉ、あの人、さっきからなにか、甘い匂いしたから………多分ピクシーの鱗粉の匂いも混じってたかなって………」
「へぇ………」
それにしても、こいつもやっぱり亜人なんだな。
改めてそう思う。
「期限は3日。彼らは生来とても臆病な子たちだから、目撃情報のあったあの山からは離れていないはずだ」
クルーディオが指をさしたのは、特にモンスターが多い山だ。
これは少し気をつけて登らないといけなさそうだな。
「君はこの集団のリーダーかい?」
「うんや、リーダーはあいつ」
俺がそう言ったら、プリヴィアはクルーディオの前に立って挨拶をした。
「プリヴィアと申します」
「君がリーダーか。それでは、これを渡しておこう」
クルーディオは、おしゃれな鳥かごのようなものを取り出した。
「妖精の隠れ家というアイテムさ。中の空間をいじっているから、ピクシー1人くらいなら中で暮らせるようになっている。その中にピクシーに入ってもらいなさい」
「はい」
プリヴィアはアイテムボックスの中に妖精の隠れ家を仕舞った。
「さぁ、期限は3日。それまでに帰らなければ依頼未達成とみなし、この街を去るつもりだ。行きなさい若人たち。私はここで待っていよう」
クルーディオはそう言って、近くの樹の下に座った。
「お任せ下さい。必ずピクシーを連れて帰ります!」
プリヴィアは代表してそう言った。
「急ぎましょう、皆さん。あの山にはモンスターが多い。ピクシーが捕食される前に向かわなければ」
こうして、俺たちは依頼を開始した。
相手は妖精だ。
これはかなり骨が折れそうだ。




