第395話
暗がりに1人。
男は何かをじっと見ていた。
極限まで気配を消しておりじっと機会を待つ。
「………」
その筈だったのだろう。
「ヨォ」
「!?」
男は反射的に武器を構えた。
しかし俺はその前に背後に回って武器を手で押さえつけている。
「ったく………不審者だらけだな………この街はよ?」
俺はポケットにしまっていた大量のバッジを男に見せた。
「!!」
一見統一性のないこのバッジ。
しかし、裏にドクロのマークが彫られているため、恐らく同じ一派の者なのは間違いない。
「アンタでもう15人目。なんなんだお前ら。そこそこやばいアサシンばっか取り揃えてやがるが………アンタらには一切殺気がない。一体何を探ってやがる」
「………」
喋らない、か。
「まぁいい。アンタが親玉なのはわかっている。気配の殺し方が一番うまい。気配を消しすぎてるわけでも、じーっと見続けるわけでもない。だが、アンタうま過ぎるんだよ」
「………なるほど。どうやら我々は相手を見誤ったようだな」
低い声で男はそう言った。
特に悪意も感じない。
「連れを狙ったわけじゃねェから何もしないで見逃してやる。待機地点で寝てるお仲間連れてとっとと失せな」
俺はバッジを返してそう言った。
男は何も言わずにその場から立ち去った。
随分とレベルの高い殺し屋どもだな現時点で犯人はわからないが、とりあえず俺を狙ってくれているのでありがたい。
だが、数名はうちのクラスメイトを狙っていたので、その連中は爪くらいは貰っておいたが………まぁ自業自得だ。
「とりあえずは様子見だな」
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「よう、お待たせ」
「またかししょう。もうこれで10なんかい目くらいかだぞ」
ラビが呆れたようにそう言った。
このクソガキは本当に………
最初はこいつ関連の敵かと思ったので、こいつに言われるっと少しイラっとする。
「あ、あのぅ………」
「ん?」
「………や、やっぱり大丈、夫………」
ドレイルはだんだん声が小さくなりながらそう言った。
言い出せないらしい。
「………向こうか」
今一瞬だが、目の端に向かい側の黄色い屋根の店を見ていたな。
「おい、ガキども。あの店行くぞ」
「!」
「らじゃー!」
「はーい!」
ドレイルがなんでわかったの? みたいな訝しんだ目でこっちを見ている。
怪しむなー、こいつ。
「難しく考えんな。そして遠慮もなしだぜ、クラスメイト。行きたかったらそう言ってみろ。こんなもんはわがままのうちにも入らん」
俺はニッと歯を見せて笑った。
すると、滅多に笑い顔を見せないドレイルが小さく笑みを作った。
「………うん」
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入ったのは、どうやらスイーツ店らしい。
この街は、どうやら他よりも食文化が発展しているようで、飲食店や喫茶店のメニューは多く、それなりに質もいい。
このスイーツ店に関してはなかなかのものだ。
「ここを選ぶとは、お前もお目が高いな。ちなみに入った事は?」
「ひ、人が多いから、その………今まで入れたことがなかったの」
「そか」
わかりにくいが、嬉しそうには見える。
確かに、このカップルばかりの店を躊躇うのは納得だ。
「さて、全員座れるような場所は………………ん?」
「ダネ?」
再びクラスメイトと遭遇。
ボルコが丁度いい大人数用のテーブルのところに座っていた。
まぁ、休日だしな。
こんなところにいてもおかしくない。
「よう。お前もきてた、の………か?」
軽く衝撃を受けた。
隣に座っている美人。
こいつは見覚えがない。
誰だ?
「ボルコ………お、お前彼女いたのか?」
「そうダネ」
ボルコの彼女はぺこりと頭を下げた。
マジかよ。
スゲェなオイ。
どういう経緯でこうなったのか興味出てきたわ。
「と言っても、今回はデートではないダネ。ほら」
ボルコは周囲を見渡すように促したので、周りを見てみると、見たような顔がちらほらと………
「一体なんの集まりだ?」
「うーむ、ここまできたら教えるダネ。その代わりに協力してほしいダネ」
何かを企んでいるようだ。
仕方ない。
ラビとラニアは心なしか興味ありそうだ。
あとはドレイルだが………
「どうしたい?」
「え? あ、いや、わ、私はどっちでも………………いや、やっ、やっぱりきょっ、興味ある、かなぁ………」
ドレイルは自分の意思を口に出した。
大きな進歩だ。
「ほう、珍しいダネ、ドレイルが意見を言うなんて。ま、いい。人数は多いに越したことはないダネ。プリヴィア、ケンの力は絶対に助けになるダネ。仲間に入れようダネ」
プリヴィアと呼ばれたボルコの彼女はコクリとうなづいた。
「ほれ、ちょうど4人分。座んなさいダネ」
テーブルに着くと、ボルコの隣にいた彼女がここで初めて口を開いた。
「プリヴィア・クレディアスと申します。ヒジリ・ケンさん、でよろしかったでしょうか? 先日の合宿でお見かけして、名前は存じております」
おお、こりゃ俺の苦手なタイプだな。
「不躾かもしれませんが、協力を願いたい事があるのです。もしよろしければ、お話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、そのつもりだ」
パァッ、とプリヴィアの表情が晴れた。
しかし、ハッと我に帰ったプリヴィアは咳払いをして、ごまかした。
「失礼しました………あの、まず一つお尋ねしても?」
そう聞かれたので俺はコクリと頷いた。
そしてプリヴィアはこう尋ねたのだ。
「貴方は、クルーディオという男を知っていますか?」
知らない名前だった。
そして、この男が今までの魔獣祭、今度の魔獣演武祭に大きく関わる人物だということも、俺は知らなかった。




