第393話
「と言うわけで、ケン君には補助要員に回ってもらいます」
教室でミレアから書類を渡された。
ファリスの言った通り、俺が補助に回るという事はミレアを通してクラスの連中に伝えられているらしい。
「で、この紙は?」
「補助と言っても詳細はわからないでしょう? ここには補助要員の仕事の詳細が記載されています」
「ふーん」
俺は書類をペラっとめくった。
それにしても、
「なんだお前ら、ムスッとして」
クラスメイト………メンツで言うと、合宿中にそこそこ俺と関わった連中が不満そうな顔で俺を見ていた。
「なんでケンが補助なんダネ?」
「た、たしかに、け、ケンくんなら戦った方がいいんじゃないかなぁ」
ボルコとドレイルがみんなを代表してそういった。
ボルコ・マック。
語尾にダネをつけるぽっちゃり系男子。
虹モヒカンとは恐れ入った。
ドレイル・シェルフィーユ。
人見知りだが、見た目は金髪でソフトクリームみたいにクルクル巻きになっている。
アクセサリーの数もバカにならない。
一体なぜそうなった。
「そうだぜ、ケンのやつの実力は折り紙つきだ。何せ隊長クラスに勝ったんだからな。な!」
茶髪に少しツンツンしたどこにでもいそうなこの男は、マイク・ジャストゥル。
このクラスでは珍しく普通な感じだ。
逆に目立つ。
フランクな喋り方は、めんどくさがってない時のクラスメイトの韋駄天を思い出す。
高橋のやつは元気だろうか。
「………」
こいつ………男が迫って来てるからわからない様に俺を盾にしようとしてるな。
ミレアの男が苦手な体質は依然治っていない。
まぁ、いくらかマシ………なのだろうか?
とりあえず、この場を収める事にする。
「落ち着け、お前ら。俺の実力を買ってくれるのは、まぁ悪くねェンだが、ここは一つ俺を補助にしてみろよ」
「「「なんでだ!?」」」
「よく考えろ。俺は自己紹介の時なんつった? お前らが散々持ち上げる俺の得意分野はなんだ? 炎魔法か? 雷魔法か? まさかの肉弾戦か? ちがう………補助系魔法だ!!(大ウソ)」
全員ハッとした。
よし、こいつら操りやすい。
「つまり!! 俺を補助につけた暁には!! 念願のオールカップも夢じゃねェって事だぜ野朗ども!!」
「「「うおおおおおおお!!!!!」」」
ミレアは小さくため息を吐いた。
やれやれとかぶりを振っている。
「全く………よくもそこまでペラペラと………」
「ケンくんらしいからいいんじゃないかなー」
俺の嘘を知っている2人はそう言って俺を遠い目で見ていた。
「で、結局補助要員って何をするダネ?」
「そうだな………お前ら、そもそも今度の魔獣演武祭のルールとか把握してるよな? 概要とか聞いてるか?」
「うむ、一通り聞いてるダネ」
魔獣演武祭。
使い魔同士のトーナメントバトルが魔獣祭で生徒同士での様々な種目での戦いが行われる魔闘祭。
その二つが組み合わさったものが、この魔獣演武祭だ。
今回は、学院一大イベントである魔法祭とも比肩する規模で行うらしい。
基本時なルールとしては、原則としてどの種目も、使い魔と生徒がペアを組んで行うという事だ。
その種目内容に関しては魔闘祭と同じく毎年ランダムでその場で発表されるらしいので、対策なんていうものは存在しない。
ブッツケ本番のガチンコバトル。
それが、今回の魔獣演武祭である。
「………ダネ」
「そうだ。俺たち補助要員は各種目での魔法具の調整、選手のコンディション管理、競技の戦略の計画など、直接的ではなく間接的に関わる。補助魔法をかけてやったりとかな」
つまり、一番大変なのだ。
「なるほど。規模が大きくなったのとは関係なく、 やる事は今年も変わらないわけだな」
こいつらは、去年もその前も経験している。
なんとなくイメージは付いているだろう。
すると、ミレアが一歩前に出た。
雰囲気を感じ取ったのか、全員一斉にミレアに注目をする。
やはり、生徒会長は伊達ではないらしい。
「敵は他クラス全て。知っての通り特科生にはハンデが課せられます。しかし、それでも私たちは学院の頂点に立つ集団の一角。今回は………………それを嫌という程知らしめて見せましょう」
「「「うおおおおおおお!!!!!」」」
珍しくやる気を表に出すミレア。
それに触発された生徒たちの士気が高まっていくのがわかる。
「では、よろしくお願いしますね。補助要員さん」
「おうよ。任せとけ」
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「では緊急職員会議を始める。これが開かれるってことは、議題は何に関するかわかるだろう?」
ファリスは教師陣に向けてこう言った。
教師たちは一斉に頷くなどの反応を見せる。
「そう、今年限定の大行事、魔獣演武祭だ」
やはりという表情を浮かべる教師陣。
すると1人、おざなりに手をあげる者がいた。
ファルグだ。
「そういうが、学院長。これに関してはこの前話し終えただろ?」
イレーヌはギロリとファルグを睨みつけた。
「口の聞き方に気をつけろ、ファルグ“先生”」
「はいはい」
やれやれと肩をすくめて見せるファルグ。
「ファルグの言う通り、この間議題に乗せたばかりだ。しかし、少々物足りんと思ってな。趣向を懲らせて見ることにした」
ニヤリと笑うファリス。
一部の勘のいい教師たちはわかりやすくため息を吐いた。
面倒なことをする気だとわかるのだろう。
「今回の魔獣演武祭。我々教師も参加する事にする」




