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第39話


 「知ってるよな」


 「………」


 俺は女に尋ねる。

 しかし、黙ったままで何も言わない。


 「おい、どうなんだ」


 「………………ぜ」


 微かに声が聞こえた。

 

 「………なぜ、貴様がその名を知っている………!」


 目が血走っている。

 女王は俺がリフィに何かしたと思ったのだろう。


 「おい、なんか誤解してないか? 俺はただ………」



 「あの方に何をしたアアアアアアアア!!!」


 大剣を手に取り一気に飛び出す。


 頭からツノが生え、右の目が青色に変化し、半身が黒く染まった。

 背中には翼が生えており、目には逆の五芒星が刻まれている。

 

 すると、女王の魔力が一気に跳ね上がった。


 「チッ、あの眼………【覚醒半魔】か! しかも黒竜の」


 覚醒半魔。

 それは人と魔族との間に生まれた半魔族のみが持ちうる特殊な力。

 普段せめぎ合っている魔族と人間の血を、特殊な道具を用いて特殊な反応を起こし、魔力を変質させる事で、ステータス上昇、魔法威力上昇など様々な効果が得られる。

 なお、リミットが設けられており、人によって違うが、それを超えると、強制解除され、能力が著しく下がる。


 

 「ガアアアアアア!!!」


 大剣を使っているとは思えない一振り、その衝撃で、周辺の木が次々と木屑と化していった。


 「これだから話を聞かねー奴は嫌われんだよ!」


 しかし、女王は所構わず次々破壊行動を起こす。


 「落ち着け! 森が壊れるぞ!」


 「アアアアアアアア!!」


 剣を交えてわかる。

 よほどリンフィアのことが大事らしい。

 この重さでそれはひしひしと伝わってくる。

 だがこのままではそのリンフィアまで巻き込みかねない。


 「太刀筋がデタラメなくせに隙がない。戦りずれー………うおっ!」


 至近距離からのブレス。

 燃え盛る炎は一帯を焼き払った。


 「ちくしょう! 森を荒らすなって自分で依頼したくせに!」


 法則や癖が無茶苦茶だ。

 毎回毎回変化して捉えづらい。

 それに加えてブレスと来た。


 「うわっと!」


 時たま危ないのも入ってくる。

 

 「あの武器、クラスはSSSか。なんて化け物持ってやがんだあの女。そりゃあこの辺でこんなに噂になるだけはある。うーむ、ソロでギリだな。これ以上森を荒らす訳にはいかねーし、仕方ねぇ。デュオまで出すか」


 俺は、強化四級魔法【デュオブースト】を発動。


 「フッ!」


 大剣を受け止める。


 「グウウウウ!!」


 押し合いに持ち込んで時間を稼ぎ、対処法を練る。

 

 「………なるほど、キーは大剣(それ)だな。悪いが、飛ばす、」


 手に思いっきり力を込め、魔力を集中させる。


 「ぜ!」


 柄を思いっきり押し出すと、女王の手からすっぽ抜けた。

 あとは魔力が抜けきるまで相手をする。


 「アアアアアアアア!!」


 素手で向かってくる女王。


 「ハッ、いいぜ。来いよ」


 女王は連打を浴びせにくるが、俺はそれを捌きつつ、攻撃を見極める。


 「つっても癖じゃ捉えらンねーからな。勘で行くっきゃねーよな」


 「危ねぇな。そんなんじゃあたんねーよ」


 女を殴る趣味はない。だから、


 「よっ」


 腕を取り、逆方向へ捻りながら体を落としつつ、足を引っ掛けて転がす。


 「オーケー、そのままだ」


 床で押さえつけて、腕を釣り上げて拘束する。

 

 「中和させてもらう」


 俺は首に手を当てて魔力を流し込む。

 俺は言うまでもなく人間だ。

 その人間の魔力を流し込むと、こいつの持つ人間の血を媒体として動いている魔力が大きくなる。

 これにより、魔族と人間の血のバランスが崩壊し、元に戻る。


 「………収まった」


 この方法は極めて特殊で、かなり精密な魔力操作を必要とし、相手を無力化できないと使うことは不可能。







———————————————————————————








 「話を聞く気になったか? なって無くても勝手に話すぞ」

 

 「………」


 無視を貫いている。


 「あいつは今その辺でゴブリン退治をしてる」


 「!」


 「俺が言ったパートナーってのはあいつのことだ。俺は何もしていない」


 「本当か! 本当に生きてるのか!」


 やっとまともに口を利いてくれた。


 「ああ、ピンピンしてる」







 俺は女王にありのままを話した。


 「こんな感じだ。後は自分で聞け」


 「嘘だ………奴隷………?」


 どうやらリンフィアが奴隷にされていたことにショックを受けている様だ。


 「アンタそんなに強いのに、なんで守りきらなかったんだ。ボロボロだったんだぞ」


 「………」


 その表情は後悔と自責の念が込められていた。


 「まあ、それは俺が言うことじゃねーな。とにかくさっさとアイツのところに——————」



 魔力が揺らいでいる。

 今までの戦闘で魔力の感知が疎かになっていた。

 そのせいでどんどん減っていくリンフィアの魔力に気がつけなかった。




 「………リフィ………!」




 大きな魔力の近くにだんだんと小さくなっている魔力があった。

 大きい魔力は明らかにゴブリンではない。




 俺は女王を放ってリンフィアの方へ向かう。


 「おい!? 待て!」






———————————————————————————






 一刻も早く駆けつけるべく本気で走った。

 そこで目にしたのは、


 「……あ、う…………」


 ボロボロになったリンフィアと、集団のゴブリンロード。


 これはモンスターバブルと呼ばれる現象。

 ごく稀にモンスターの発生源で起こる大量発生の名称。

 周期や条件はない。

 確率は万に一つだ。

 しかし、それは起こり、リンフィアはそれの餌食になった。


 「ゴアアアア!!!!」


 集団のゴブリンロードは雄叫びをあげている。

 しかし、そんなものは眼中になかった。



 「リ、フィ」



 傷が、深い。

 どんどん弱っている。

 こいつらが。

 こいつらが、こいつらが、こいつらが、こいつらが、こいつらが。



 俺は思い出してしまう。


 過去の光景を。


 傷ついた、親友、家族。



 死



 それらが俺の脳を巡って、


 喚いて、


 叫んで、


 かき乱した。

 

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