第387話
この二人の攻撃は幸いなことに魔法ベースだ。
しかし、この場合狙うならミレアの方だろう。
レイの方には剣がある。
ミレアの方を狙えばその後の反撃がしやすい。
「この一撃は絶対に避けられませんッッ!!」
「一発くらい喰らっておけッッ!!」
もうすぐそこまで来ている。
広範囲、しかしさっき程高密度に魔法が散りばめられているわけではない。
「でかい穴を開ける………」
4方を囲むように迫っている。
一角だ。
一角を崩せばそこから逃げられる。
無理矢理いこうと思えば力技を使わずとも、ぶっ飛ばして抜けられる。
だが、それじゃあ完膚なきにボコボコに出来ない。
出来るならスッと、スマートに勝ちたい。
何故なら、そっちの方が楽しいからだ!
故に、巨体持ちのビリーと武器持ちのレイとサル男は狙えない。
崩すならミレア、お前だ。
解析する。
魔法に直接干渉して消す事は出来ない。
しかし、相殺なら出来る。
向こうが用意したのは時間をかけて練った特大レールガン。
相殺というのはただ同じ力をぶつけるだけじゃない。
あらゆる要素を足し引きして、全くのゼロにする。
「「うぉおおおおお!!!」」
衝突まで、およそ1秒。
「——————出来た」
俺はレイの方を見て、片手を後ろに向ける。
そして、それを発動した。
ぶわッッッッ!!!
完全な相殺。
ただぶつけてなかった事にするそれとは完全にレベルが違う。
そこには一切の衝撃が生まれない。
完全に消滅する。
消滅魔法ですら、こうはならない。
「え?」
困惑するミレアに構わず、そのままそこから逃れて、背後に回った。
「まさか最初がお前とはな」
「しまっ——————!」
その瞬間だった。
「!!」
突然横から魔法が現れる。
これは、
「テメェか………!」
流は姿を消しているので、声も無いが確かに近くにいる。
何気に一番面倒だ。
「気を抜くなよケン」
上空から迫る影。
俺はニールの剣を下から受け止めた。
「誰に言ってンだよ」
そう言って俺は背後の弾丸を弾いた。
「オメーもだんだん容赦なくなったな、リフィ」
「ケンくん相手に加減なんて出来ないので!」
「!!」
巨大な魔力を感じる。
おそらく、リルとマルフィ、レーナだ。
しかし、使い魔達の姿は見えない。
これは流の能力だ。
俺はニッと笑った。
「バカだな、流」
姿を消すなら小さいやつに限るだろう。
時々ほんの少し見えるシルエット、そこから感じる魔力、場所はだいたい割れてる。
「さてと、 そろそろ終わらせようかな」
さて、最初に始末するのは——————
ドゴォオオオオオオン!!!!
使い魔からの一斉射撃。
大きな土埃と轟音。
姿を隠すにはうってつけだった。
まずは仕掛けるもん仕掛けておこう。
では、早速だ。
一番最初は、
「土埃の中はダメだろ、え? 流」
「あ」
顎に数発。
こいつ自体は大して強くないため、一瞬で倒せた。
「お前は地力が足りてねェ」
「く、そぉ………お………」
そのまま気を失った。
主人である流の意識が途絶えたので、同時にレーナも消えていった。
「さて、お次は………む」
煙が一瞬で晴れる。
ウルクが中央で拳を振るっていた。
こいつもバカだ。
「さー、どんどん行っちゃう………あれー?」
神威がどんどん霧散していく。
そりゃそうだ。
素の攻撃力的に、さっきの威力を出すにはかなりの消費をしているはず。
契約して数日しか経っていないこいつがそこまで急激に変わるわけが無い。
「はい、終わ、り………!?」
ヴァルキリーの巨大な剣が降ってきた。
そしてその直後、サイズがどんどん小さくなっていき、ちょうどウルクと同じくらいになった。
「もー、ウルちんっては神威の使い勝手わかってなさすぎじゃん!」
「あはは、ごめんねー」
ヴァルキリーは指を二本立ててウルクに向けた。
「2分ね」
「うん?」
「残り2分、それでストック分も消えるから、それまでに倒し切ろうぜ!」
ウルクの拳に再び光が灯る。
ニッと笑って拳をぶつけてこう言った。
「りょーかい!!」
そして、
「!!」
ドンッ!! という音と共に、距離を詰めたと思うと、2人は息ぴったりに攻撃を繰り出してきた。
「「ハァアアアア!!!」」
捌く、捌く、捌く。
攻撃は全て流しているが、流石に手数が多い。
すると、
「うお!?」
「まだまだだ!!」
「ウキキィーッッッ!!」
背後からはレイとサル男。
なるほど、確かにこいつらレベルの達人なら合わせられる。
正直結構きつい。
しかしどんどん攻防を繰り返す。
レイの剣を受け流してサル男にぶつけてを止めつつ、ヴァルキリーの剣を受けながら、脚でどうにかウルクを止めている。
密集しているが故に利用できるものも利用し、戦う。
これが結構きつい。
幸いこれ以上加わることは無い。
巻き添え防止だろう。
大変だ。
だが、だんだん慣れてきた。
すると、あいつらが焦り始める。
「もう保たないよー!!」
そう、そろそろウルクが保たない筈だ。
そしてついに、
「あ」
神威が消えた。
チャンス………と思いきや。
「そう来ると思って………ニルちん交代!!」
げ。
スルッとニールとウルクが入れ替わる。
交代したか。
さらに厄介になって来るな。
だが、ここでもう1人脱落者が出ることに、まだ誰も気がついていない。
バタン!!
「!? え、嘘!? ちょっ——————」
大きな音が鳴ったと同時にヴァルキリーが消えた。
誰も何の理解できていない。
「やっと落ちたな」
ニールの背後に大きめの穴。
奥には、一回限りの電気魔法の罠。
神威を使って消耗しているウルクなら一瞬で気絶する威力だ。
さらに、
「手が空いてるぜ、猿公よォ!!」
「なっ………!!」
俺は罠に気をとられて隙を見せたサル男を蹴っ飛ばした。
威力十分。
方角バッチリ。
落下地点には、
「ようこそ落とし穴へ」
先ほど仕掛けた落とし穴。
これもウルクの落とし穴も、リル達の砲撃直後に仕掛けたものだ。
「さて、どんどんいこうか」




