第38話
「!」
大きな音が聞こえる。
どうやら冒険者が来たようだ。
漸く森も荒らされずに済む。
「これで心置きなく魔王様を探せる。早速行かねば」
今度は誰から聞こうか。
もう粗方この街からの情報は出尽くした。
しかし、目ぼしい情報はいまだに出ていない
「潮時か………くっ、我が主人は一体どこに行かれたのだ。あれからもう2年ほど経った。だと言うのに………」
思わず卓を叩いてしまう。
物に当たっている場合では無い。
「明日にはここを発とう。この国はもう見尽くした。とすると次はルナラージャか………あそこは好かん」
ルナラージャはこの国より亜人、魔族への差別意識が高い。
故に私はあの国を嫌悪する。
しかし、捜索のためだ。
止むを得まい。
「さて、ダグラス殿へ挨拶に行かねば」
彼には世話になった。
それに私の種族は知らないだろうが、魔族にも分け隔てなく接するお方だ。
人間としては珍しく嫌悪感を持たなかった相手の一人である。
おそらく私がいなくなれば多少の不都合が出るだろう。
何も言わずに去るのは不躾と言うものだ。
私は拠点としている洞穴から出てフェルナンキアへ向かう。
すると偶然人の姿が見えた。
「あれは………そうか。彼らがクエストを受けた冒険者か」
私は何の気まぐれか気になってその方向をじっと見た。
「ッ………!」
金髪の男が見える。
どうやらもう一人いるようだがそちらは見えない。
それにしても、
「なぜあれ程の男がこんなクエストを?」
視界に入った瞬間私の全神経が彼へ向いた。
思わず殺気がこもってしまうくらいに。
こんな事は今までほんの数回しかない。
そんな男がどうしてここにいるのか。
おそらくもう一人のためだろう。
「………気にはなるが、然程重要なことでもない………一人になった?」
もう一人は何処かへと走っていった。
気がかりだったので様子を見る。
「こちらを見ている………? まさか!」
ゾワッ
「………ッ!!」
この濃く重い魔力。
間違いなく自分に向けられたものだ。
殺気が感知されたらしい。
仕方がない。
私は真正面から出ることにした。
「お前か? 私を呼んだのは」
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殺気を飛ばした者の正体は《女王》だった。
「よぉ、何してんだ? アンタ。つーか呼んだのはって、アンタが殺気なんか飛ばしたからだろ」
「ついな。貴様はここにゴブリン狩りに来た冒険者か?」
貴様とはご挨拶だな。
さすが女王。
「正確には俺のパートナーが、だ。俺は手を出してねぇ。あいつに訓練させるためだからな」
「そうか、では私は消える。くれぐれも森は荒らしてくれるなよ」
なるほど。
依頼者はこいつか。
こいつ何者なんだ?
ちょっと気になる。
「ひとつだけいいか?」
「何だ。手短に済ませろ」
「アンタ魔族、いや、半魔族だろ? こんなところで何を………」
鑑定をした時、種族が半魔族だった。
予想は半分外れていたがまあ。当たりみたいなもんだ。
その時だった。
「ん?」
「くっ………これを止めるか」
女王はいきなり剣を抜いて斬りかかって来たので、白刃どりで受け止めた。
「いやいやいや、アンタいきなり何すんだ。いきなりそんなスピードで来たら危ねぇだろうが」
「正体を知られた以上、死んでもらう。悪く思うな」
「ヤダ、ねッ!」
風五級魔法の【ガスト】で弾きつつ後ろに下がる。
「そいつで戦わねーのか?」
「この大剣はしかるべき時まで使わないとここに誓ったのだ」
女王は背中に自分の身長くらいの剣を背負っていた。
しかし、それを床に置いて、腰にある剣を使っていた。
でも、どちらにしろ、
「やめとけ、アンタじゃ俺には勝てねーよ」
「………何の根拠があってそんなたわ言をほざいている」
「んー、じゃあアンタ強化なしで【カルテットブースト】と魔法武具付きのダグラスのおっさんに勝てるか?」
「ふざけた事を! 『その肉体は鋼となり、神速を得る。人の限界を越え天上に至らん。カルテットブースト』ォ!」
全身を赤いオーラが包む。
こいつもカルテットまでいってる。
世辞抜きで大したものだ。
「さーて………こいつおっさんよか強いからな。ソロくらい出すか」
【ソロブースト】を発動した。俺の全身を緑のオーラが包む。
「これで加減すればちょうどいい」
「【ソロブースト】だと? どこまで私を愚弄すれば気がすむ!」
俺は木刀を手に取り、剣を全て受ける。
「別に愚弄してるわけじゃねーよ」
動きを予想する。
癖は大体わかった。
次の攻撃は、
「ハァァァァア!」
右、左、回り込んで斜め、突きから蹴りを入れて、上、左………
体を動かす時、人はその方向へ動くことを意識する。
それによって生じた癖を読み取り、動きを特定は出来ずとも絞る事は可能だ。
絞れればあとは直感と経験で動く。
1年間、一人で修行するしかなかった俺は、もらった知恵で作ったイメージとひたすら戦っていた。
経験はそこそこにある。
「何故当たらない!?」
「どうした? 言っとくが、俺はまだソロブーストでも本気は出してない。待たしてるんでな、そろそろ行かせてもらうわ」
俺はソロブーストを本来の効力で使う。
緑色がだんだん濃くなっていく。
「寝てろ」
距離を一気に詰める。
女王はあまりのスピードに警戒度を最大に引き上げる。
その緊張が今までにない速さの剣技を繰り出したが、俺はそれを全て弾く。
首トンで行くか。
最後の一発を大きく弾き仰け反らせる。
スッと体を近づけ首元に手をやる。
手刀が首に当たる——————直前の事だった。
「………………!」
カブトの隙間から何かが見える。
これは——————刺青だ。
刺青………どこかで………! 確かリフィが言ってた。だったら髪は、くそッ、わからねぇ。
「すまん、取るぞ」
「何を………キャッ!」
俺は女王の仮面を取った。
「………やっぱりな」
仮面の下は青髪で頰に刺青の入っている女だった。
それに、あの身の丈ほどの巨大な大剣。
他の外見も完全に一致している。
つまり彼女は、
「何をする………」
「お前、リンフィアって半魔族知ってるな」
その瞬間女王の目が大きく見開いた。
「ッ………!………」