第379話
現在、絶賛反省会中である。
「何を間違えたか、わかってるか?」
俺はガリウスにそう言った。
「………アニキが遠距離攻撃に変えた時に、レッドが兄貴の方に向かったこと、ですよね」
そう。
あれがミスだ。
遠距離を使えないこいつらは、遠距離で反撃ができない。
だが、接近戦は得意だ。
つまり、あの状況ならレッドはガリウスの方に行って、こちの遠距離に対処しつつ、2対1でエルと戦うとかすれば手傷くらいは負わせられたはずだ。
「なってねェ」
「う………」
「いいか、そいつのミスはお前のミスでもある。せめてこっちに来いって言うか、合図くらい出せ」
その程度のコミュニケーションは取れる。
普通の使い魔も、主人限定なら会話ができないでも意思の疎通くらいはできる。
原因は、対応できなかったレッドにもあるが。さっきの状況でこいつが結論を予感して指示ができていれば、と言うのもあるのだ。
「そこは見直しておけ」
「うっす」
ペアでの戦闘は、ソロよりもずっと難しい。
相手がいる分相手のことも把握して戦わなければならない。
そこは課題点だ。
「ま、お前もレッドも個人技に関してはなかなかのレベルだ。エルの攻撃を返してた時はかなりの上達が見えたぜ。やったじゃねーか」
「そうっスか!? いやー、俺様が言うのもあれっスけど、やっぱ上達してたっスよね!」
「ああ。形が出来てきてる。もう魔法なしでもその辺の素人相手なら秒殺できるだろ」
「………素人っすか?」
「ああ、素人相手ならだ。魔法抜きでのお前の技術はまだまだだ。熟練の冒険者ならもっとキレのいい動きをする。ま、始めたばっかなんだからそれはしゃーないがな」
シュンとするガリウス。
だが、俺が言ったのはあくまで技術だ。
無駄な動きは多いが、それでも勘と動体視力であの攻撃をああも綺麗に捌いた。
こいつは間違いなくこのやり方が正解だ。
ただ、褒めて伸びるタイプのこいつでも、調子付かせすぎるにはマズイのではっきりとは言わない。
「心配すんなガリウス」
「?」
「お前の才能は折り紙付きだ。それは全然認めている。ぶっちゃけ成長速度ならずば抜けて早い。せっかちなお前はそう感じてないようだが、最初のころと比べるとかなり変わってる。それだけは自覚しとけ」
「!! あざっス!!」
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訓練後、リンフィア達と合流した。
「よ、リルとマルフィはどうだった?」
「リルは見た目に反した無茶苦茶な強さで、驚かれました。マルフィの方も、大きなドラゴンだったのでみんな驚いてましたよ」
「つーことはリルはちっこいまま訓練したのか。賢明な判断だな。フェンリルなんて有名な奴がいたらそりゃあもう大変だ」
リルは狼種のモンスターの一種としてみんなに言うことにしたらしい。
だが、狼と言えど子供なので、エル同様女子ウケがいい。
ちなみに、リルはメスなので、群がる女子がうっとおしいらしい。
「全く………我をこのように扱うなぞ無礼極まりない愚民どもだ。のう、ケンよ」
………誰?
目の前には、指定の運動服を着た白髪の女がいた。
ぱっと見大人っぽい顔つきだが、小さな顔と大きな眼が何となく幼さを残している。
髪は横に跳ねていて犬耳のようになっている。
やはり知らない女だ。
「ポカンとするでないわ!! この戯け!!」
ん? と思った。
聞いたことのある声だ。
この声は………
「あ、お前リルか!? へー、人間体に成れるのか。エルと同じだな」
「何?」
そして、予想通りエルも人間体で現れる。
「参上なのです!」
ポーズをとるエル。
目立つからやめとけ。
「ほう? 主のような小娘にも変身能力があるとは、小さくともバハムートと言うわけか」
「リルお姉ちゃんには何となく負けるのはやです」
「わはははは!! 吠えるでないわ。まぁ、よかろう。せいぜい頑張ることだ」
「頑張るのです!」
こいつら、この感じで通すのだろうか。
すると、いつのまにか集合場所に全員揃っていたらしく、副団長が出てきて話し始めた。
「本日の訓練はこれにて終了だ。明日からは使い魔の訓練と戦闘訓練を増やしていくつもりだ。というのも、先刻学院長のファリス殿より通信が入った。知らせがある」
生徒達がざわつき始めた。
一体何何だろうか。
「魔獣祭と、魔闘祭を中止するとの連絡だ」
「「「!?」」」
一気に騒がしくなった。
それもそのはず、学院が始まって以来欠かさず行われていた行事を急に中止したのだ。
学院出身の騎士も少なからず動揺していた。
「静まれ、続きがある」
副団長がそういうと、全員シンとなった。
しかし、直後にまた騒ぐことになる。
「よって、今年限りの代替行事 “魔獣演武祭” を開催する」
「「「おおおおおおおおお!!!!」」」
なんか凄そうな名前になってる。
2つの行事をくっつけたのだろう。
大規模なものになりそうだ。
生徒達もさっきまでの沈んだ顔が嘘みたいに歓喜している。
「これにより、明日以降の訓練は、使い魔とのペアでの戦闘訓練を中心に行う。どのみち、使い魔の居る者にはそうやって訓練させる予定だったが、しかし、今度の行事も意識して訓練を行え」
「「「はいッッ!!」」」
オホンと、副団長は咳払いをした。
そして、今度は別の事を話し始める。
「では、“今後の”訓練後の予定について話す」
副団長はニヤニヤとしている。
なんか意地の悪そうな顔だ。
「この場にいる者の中には、貴族、王族の出身者も多いことだろう。かく言う私もそうだ。故に、自給自足には慣れていないだろう?」
副団長はさらにニヤリと笑う。
そして、何人かの生徒がギクリと………しなかった。
そう、逆にだ。
ほとんどの生徒がうっ………みたいな顔をしている。
貴族王族なんてのは、冒険者のような泥臭い生活とは無縁そうだしな。
「そこで、こんなことを考えた………今からお前達がこの合宿で暮らす家、家具は自分たちでどうにかしろ! もちろん、飯も自給自足だ!! 以上!!」
本日1番のブーイングが、副団長に降り注いだ。




