第375話
「………成功でしょうか?」
炎が消え、陣には煙がかかっているため、何も見えない。
しかし、中には確かに何かのシルエットが写っている。
「………あれは………」
狼だ。
白い子供の狼が陣の中央にいる。
だが、ただ狼ではない。
あれから感じる魔力は、尋常ではなかった。
「なん………だ、あの狼は………」
「見たことないなー………」
ニールとウルクは、使い魔が分からなかったらしい。
当然だ。
あれは本来の姿ではない。
「フェンリル………なのです」
エルは影からひょっこり顔を出した。
「ほぉ、やっぱりわかるのか、エル」
「です。ああいう少し外れた存在とは何かあってるみたいなのです。だからわかったのです」
外れた、か。
こいつらの場合は、モデルがモンスターやヒトではない。
まさに異形。
フェンリルも形としてみればただの狼で、エルもただの………まぁ、こんなクジラはいないのでただのとは言えないだろうが、まぁクジラだ。
だが、本措置的には双方似ている生物たちとは違っているのだ。
「ワンワン!!」
「喋れないか………」
触媒を用いた召喚での契約でも、対話ができるほどの知性を持った奴は例がない。
しかし、フェンリルだ。
喋れないなんて事があるのだろうか?
もしかしたらこれは、
「………リル?」
「「!!」」
リンフィアは、目の前の使い魔をそう呼んだ。
まるで知っているかのように。
ならば、間違いない。
これは、
「血統継承召喚か、チビ狼」
血統継承召喚。
名の通り、血の繋がりのある者からの使い魔の継承だ。
代々使い続けている触媒で、その血を継いでいる者が召喚した場合、特定の契約をした使い魔が喚ばれるのだ。
だったらこいつはおそらく喋れる。
「犬の癖に猫かぶってんじゃねーよ」
俺がそういうと、狼の無邪気な表情が一気に変わった。
「………全く、無粋な小僧よのう。せっかくこの我が犬畜生のフリなんぞしてやったというのに」
「やっぱりリルなんですか!?」
声を聞いたリンフィアは、嬉しそうにそう言った。
「久しぶりだなお嬢。見違えたぞ。強くなったではないか。わはははは!!」
リルは愉快そうにそう言った。
そして、チラリとエルの方を見る。
「それにしてもお嬢、面白そうなメンツで集まっているではないか。竜の半魔と王族とバケモノ。それに………わははは!!よもやバハムートを見ることになるとはな」
「エルも思わなかったのです」
「ま、歴史上では主と我は相入れぬようだが、我はそのような些細な事は気にせん。せいぜい仲良くしようではないか」
「はいなのです………ふふふ」
「わははは………」
なんだこの空気は。
つーかエル、お前キャラ崩壊する前にやめとけよ。
「さて………自己紹介といこうか」
フッとリルの周囲を煙のようなものが包んだ。
変化だ。
こいつもエルと同様変形するらしい。
煙が竜巻のように一気に加速して強烈な魔力と共に吹き荒れた。
そして、竜巻が一気に消える。
現れたのは、まさに神獣というに相応しい孤高の獣。
フェンリルだ。
「我が名はリル。フェンリルのリルだ。せいぜい我をうまく使え、お嬢」
「はい!」
契約が成された。
使い魔にフェンリルか。
バハムートと契約している俺がいうのもあれだが、なかなか反則級である。
「本当にフェンリルだー………かっこいい!」
「ほう、なかなかわかる王族ではないか。名をなんという?」
「ウルクだよー。本名はウルクリーナ。何で私が王族ってわかったのー?」
リルは、ウルクの持つ石を指差した。
ウルクはなるほど、と手を叩いた。
「気をつけよ。王族の証なんぞこれ見よがしに見せるものではない。狙われたくなければ、本当に使い時以外は懐に隠しておくのだな」
「そっかー。ありがとう!」
「いや、次お前だぞ?」
言われてハッとするウルク、
こいつも抜けてるなぁと、つくづく思う。
「なんだ、主ら使い魔がおらんかったのか。触媒召喚なので関係ないが、なかなかいい陣を作っておるな。素の召喚でもさぞいい使い魔が出ただろう。誰がやった?」
「俺だ」
「ほう? 主の仕業か、バケモノ」
「バケモンにバケモンて言ってもらえるとは光栄だな」
ニヤリと笑ってそう返した。
「魔族の考える術式の数段………いや、数次元上と言った方がしっくりくるな」
「そりゃどーも。何でもいいが、ちゃっちゃと終わらせねーか?」
「そうだねー。じゃ、私行くよー」
訓練の時間まで食い込ませるのはもったいない。
次はウルクだ。
何が来るのやら。
こいつが持っているのは王家の石だ。
つまり、 リンフィア同様に血統継承召喚となる可能性もある。
そうでなくとも、これほど年季のあるものなら、フェンリル程ではないが期待は出来そうだ。
にしても、てっきりチビ神の遺体を触媒にするとかいうと思ってたんだがな………あれ?
「………待てよ?」
唐突に、ある事を思い出した。
そうだ、これは結構重大な問題だ。
「………なぁ、ウルク」
「ん?」
「お前、巫女になったんなら使い魔呼べねーぞ?」




