第370話
「まずは戦闘訓練だ。盗賊やドラゴンを相手にしてわかった事もあるだろう。本当の戦場での戦いかた。この機会に我々騎士団から学ぶといい」
本体が帰還したとはいえ、ここにいるのは王国お抱えの騎士団。
つまり、幾多の修羅場を乗り越えてきたエリート達の集う集団だ。
単純な戦闘力で見れば、特科生の方が上かもしれないが、一対一で戦えば、負ける可能性も高い。
現に、
「ぐおぉ!!?」
ガリウスが洗礼を受けていた。
息切れが激しく、だんだん動きにキレがなくなっている。
あれではダメだ。
白兵戦において、体力はかなり重要なポイント。
無駄な消費をなくし、ギリギリになったとしても、戦いの合間に回復させるくらいの余裕は必要だ。
ガリウスは、どちらかというと魔法使いの中では接近型だ。
だから、しっかりと白兵戦の戦い方を覚えた方がいい。
「少年、君は強い。だが、拙すぎる。一撃が当たればおそらく私などひとたまりもあるまい。だがね………」
グローブをはめた騎士は嫌な位置に間合いを詰めた。
「攻撃とは、当たらなければしていないのと同じなのだよ」
ガリウスの攻撃。
大振りのストレート。
予備動作で動きを読んでいた騎士は後ろに回り込む。
そして攻撃——————
「ンなことは思い知ってる、ぜ!!!」
「な、に………!?」
逆の手から炎を噴射。
同時に上に飛び、そのまま一撃を、
「最後は惜しかった。流石にガルディウス卿のご子息だ」
「!?」
ドゴォオオオオン!!!!
あっさり流され、そのまま撃沈。
最後は惜しかったが、つなぎがお粗末だった。
「ハァっ、ハァっ………ッッだーっっ!! チクショウ!! やっぱりまだ足りねェのかよ俺様は!!」
バタバタしているガリウスに声をかけてみた。
「苦戦してるな、ガリウス」
「アニキ」
ぴょんと跳ね上がる。
「丁度いい機会だ。今のにーちゃんから一本取れるまで頑張ってみろ」
「うっす………あの、1コだけ頼みてぇ事があるンするけど………」
何となく言いたいことはわかる。
仕方ないな。
「なぁ、ニーちゃん」
「ん………君は」
「どーも、噂のヒジリ ケンだ。ちょいと手合わせ願えるかい?」
俺はアイテムボックスからグローブを取り出した。
「へぇ………それは是非とも」
グローブの騎士は中央へ向かった。
「これでいいんだろ? しっかり見とけよ?」
「あざっす!!」
俺は軽く体を動かしながら前に進んでいく。
最近ステゴロで戦ってなかったので、訛ってなければいいなとおもう。
ま、無いだろうがな。
「にーちゃん名前は?」
「セルドだ」
「じゃあ、セルド」
俺は我流なので、決まった構えは無い。
なので、基本的にボクシングの構えでスタートする。
「行くぜ」
ボッッッ!!!
残像を残し、セルドの視界から外れた。
セルドはその一瞬で完全に戦闘態勢に入った。
カッと目を見開き、俺の攻撃を待つ。
そして、
「「ふッッッ………!!!!」」
拳と脚がぶつかった。
俺とセルドはお互いにニヤリと笑う。
一瞬間合いを取って、 ラッシュ、と回避を振り返す。
拳同士、脚同士がぶつかる音、地面を蹴って進む音が、あたりに鳴り響いた。
「はっはっは!! 流石だな!!」
「いいねェ、にーちゃんッッ!!!」
魔力を込め、強化した蹴りが衝突する。
パキィィィッッ!! という高音が鳴るとともに、地面に小さく亀裂が入った。
手加減しているとはいえ、なかなかのものだ。
それに、 技術面を見ると、一個の流派の頂点に立っていると言われても疑わないレベル。
「隊長クラスかァ、にーちゃんよォ!!」
「ああ、おかげさまで、ねッッ!!」
一切の決定打は無い。
それどころか、擦りもしない。
互角に戦っている。
「うわ………誰だ隊長と互角に殴り合ってんの」
「ヒジリ君凄い………」
その場にいた誰もが目を釘付けにされていた。
高度な戦闘技術同士の格闘。
なかなか見れるものではない。
だが、
「決着つけようぜ、セルドッッ!!」
「ああ、来い………!!」
ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
攻防は徐々に加速していく。
戦闘というのは存外頭を使うものだ。
勘だけでは戦いは成り立たない。
そして、今のような高速での戦いにおいては更に頭を回転させる必要がある。
ここで問題だ。
限界まで早めて、手を増やした時、初めてにキャパオーバーするのは、
「ああ————————————参った」
当然、セルドである。
ドゴォォオン!!!
「………」
「………」
俺の蹴りはセルドの顔を避け、地面にめり込んでいた。
息を切らしたセルドがこう言う。
「バケモンだな」
「はは、光栄だ」




