第365話
「どうしてこうなった………」
「大丈夫なのです? ご主人様」
「大丈夫じゃない」
頭の上のエルがヒレで頭を叩きながら心配していた。
とりあえず、心配しているのならとりあえずヒレを落ち着かせようか。
結構痛い。
「おい、なにをしている。さっさと行くぞ」
そう言ったのは、レイだった
現在、俺達はダンジョンに潜っている。
結局合宿は継続となり、近くの山に移動する事になったのだ。
ここは、偶然その山にあった新ダンジョン。
かなり強力な魔力溜まりがあったため、広さには期待できる。
そこそこ楽しみだ。
しかし、
「貴様………なにを見ている」
この通りである。
なにが気に食わないのかこの様に尖っている。
「ツンケンすんなって。ミレアに言うぞ」
「やったら殺すぞ?」
解せぬ。
明らかにペアミスである。
そして、出会ってすぐのニールそっくり。
ああ憎たらしい。
それに加え、
「ちょっとぉ、ミーを無視するとはいい度胸じゃんか! 聞いてるのケンちん!」
「ケンちん言うなつってンだろーが!!」
「なにおー? いいかねケンちん、仮にもミーは神だよ神。ホントマジで無礼過ぎるっしょ」
「やかましい!!」
チビ神をデコピンで弾く。
肩に乗って耳の真横でピーチクパーチク言われると、耳がキンキンするのだ。
「つかなンだよこの珍パーティ!? お前ら両方とも互いにほぼ面識ないだろーが!!」
「いいじゃん別に。話したい事は同じなんだし」
「そうだ。不本意ながらそこの小人と尋ねたい事は同じだ」
そう、このグダグダパーティを誘ってきたのはレイとこのチビ神の方からである。
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これは、つい先刻のことである。
「合宿なのです!」
と、張り切っているエルは、女子生徒に揉みくちゃにされていた。
「なにこの子超可愛い」
「使い魔、もっと、ゴツゴツ、普通。でも、この子、可愛い!」
「エルちゃん大丈夫?」
「リンフィアお姉ちゃん、大丈夫なのです。スーパー使い魔はこんなところでへこたぅうぎゅ………」
今度は顔をこねくり回されている。
可哀想だとは思いつつ、わからなくもないとも思っているリンフィア。
既に一度やっている身として、やめろとは口が裂けても言えない。
「やめなさい、可哀想でしょう」
「あ、会長。すみません」
怒られると面倒だと察したカプラは、パッと手を離す。
すると、
「大丈夫ですか?」
「もむもむ」
「はっ!!」
うっかり自分も同じことをしていると気がついたミレアはパッと手を離した。
「ご、ごめんなさい」
「あれ? 会長ってこんな感じ?」
「思ってた、イメージ、相違。今、柔らかい」
コロネはそう言った。
そして、じーっとミレアを見て、自分を見下ろして、己に足りないものを見せつけられた後に再び呟く。
「………色々と」
「まーまー、コロネ。それはそれで需要あるさ。きっと」
そっとフォローを入れるカプラ。
こればかりはどうしようもない。
「で、どうすんだオメーら。ペアワークだからペア決めねーとだろ。つかなんで集まってんだよ」
「んー、まずミレアとケンくんがいるじゃん。 ミレアにくっついてレイ君と僕が来て、ケンくんにくっついてリンフィアちゃんとニールちゃんにウルクちゃん、ガリウスくんやローゾルくん、それにルクスくんが来てる」
俺の人望はいつの間にそんな厚くなっていたのだろうか。
ニールがくっついてなどいないと騒いでいるのはスルーされていた。
「で、リンフィアちゃんにくっついてカプラちゃんとコロネちゃんが来て、ウルクちゃんにくっついてダグラスさんが来て、ガリウスくんの面倒を見るためにウォルスくんが来てる」
「おいコラ待てェッッ!!! なんで俺様だけニュアンスが違ェンだよ!!」
「お前がそうやって暴れるからだ。大人しくしていろ」
と、いつも通りに宥めるウォルス。
「スタートポイントは君とミレアだけど、そのミレアもケンくんにくっついている感あるしねー。転校生の癖に中々中心人物なんだよ、ケンくんは」
そう言って、チラッとミレアを見るシャルティール。
またからかおうとしている。
しかし、
「否定はしません」
この一言で、特科生とレイが凍りついた。
「かッ、会長………一体何が………」
「あの堅物会長がついに男に心を許したか………」
「その言い方はやめなさい。慣れただけです。彼は私が嫌いな理由である条件を偶然持ってなかっただけです」
「本当にィ? でも確かに僕みたいな美少女に一切反応しないなんてちょっと違和感あるかな? でも流石に少しくらいは、ね?」
ポーズをとっているシャルティール。
そして俺はこう言い放った。
「お前大丈夫か?」
「あ、前言撤回。普通に傷ついたわ」
「で、 ペアはどうするよ」
「ねぇ!? そのままスルーしないでよ!!」
以前スルーを続ける俺。
すると、ニールが尋ねてきた。
「ペアと言うのは勝手に決めていいものなのか?」
「基本同級のクラス同士。だが、リフィだけ特別枠だそうだ。さっきのを見られてるしな。あの隊長からの推薦だと」
「「「あー」」」
覚醒弾を撃ったリンフィアを見たやつは完全に納得していた。
「ただし、バレると面倒だから内輪でだ。ニールか俺で行け」
「そうなんですか。じゃあ………」
チラッとニールを見るリンフィア。
もう凄かった。
目をカッと開いている。
必死さがとてつもなく伝わる顔をしていた。
「じゃっ、じゃあニールと組みます」
と、リンフィアがいなくなった。
誰とペアを組むか悩ましいところだ。
すると意外な奴から声をかけられた。
「ちょっといいか?」
「ん?」
「ヒジリケン、私と組め」
そう言って、レイは俺をペアに誘ってきたのだった。




