第363話
「おー、すごい」
図書館を歩き回るラビ。
魔法学院の図書館なだけあって、その広さは凄まじかった。
魔法の書物はもちろん、神話や古文書、図鑑やミラトニアで起きた様々な事象についての記録など、研究に関わりそうなものは大抵揃っている。
ちなみに、料理本や絵本もかなりの数置いている。
魔法の研究とは関わりのないジャンルの本もあるので、これだけの広さになったのだろう。
「よみきれなさそう」
「ひょほほ。そうでもないぞ。儂はここにある本は全て目を通しているからのう」
「ほんとか!? すごいなじいちゃん!!」
「ひょほほ。まぁ、半分くらい忘れとるがのう」
「それでもこのはんぶんはすごいと思う」
「ふむ………お嬢ちゃん、図書館は初めてかのう?」
フォルゴーンはラビにそう尋ねた。
「うん。きたことない。そもそも本をよんだことがあんまりないんだ」
「ほお? それはまた奇怪な事じゃな。書を知らぬ魔法使いか」
別に魔法使いではないんだが、とラビは思ったが、口には出さなかった。
「いかんぞお嬢ちゃん。書というのは即ち叡智じゃ。知を探求する我ら魔法使いは、先ず書を手に取る事から始まる。大抵はの。しかし、ごく稀にお嬢ちゃんのような才のある若者が書も触れる事なく魔法使いになってしまう。いかんのう。実に勿体ない」
「もったいない?」
「如何にも。過程というのは存外重要なものじゃて。順序を踏んでこそ得られるものもある。お前さんも少しくらいは覚えがあるじゃろう?」
「!………ある」
何か、見透かされたような気分だった。
「ひょほほ。そう警戒せんでよい。皆そういうものじゃ。探求者が書に求めるものは未知なるもの、そして取りこぼしを拾う事じゃ。お前さんの場合はその取りこぼしが、“過程”じゃったんじゃろう? だったらここでそれを拾うとよい。お前さんには時間もある。そしてここにはその時間を有意義に使うだけの“知”がある」
ここでなら、何か見つけられるかもしれない。
そう思ったラビは、眼を輝かせた。
「うん!」
———————————————————————————
「むぅ、こむずかしい本がおおい」
ラビは片っ端から本をとっていた。
パラパラとめくっては、何か違うと思ってなおす。
そんな作業を繰り返していた。
「お嬢ちゃんは、何を探しておるんじゃ?」
「わからない」
「ふむ………そうじゃな」
フォルゴーンは、デスクにある魔法具を起動させる。
本のリストのようだ。
フォルゴーンはリストにある本をかき集めてきた。
「ふぅ」
「じいちゃんけっこうみがるだな」
「ひょほほ。これでも現役の頃はそこそこなの知れた魔法使いじゃったからの」
確かに、 身のこなしは軽く、楽に移動していた。
動きに無駄がない。
ただの司書では持ち得ない技術だろう。
ラビは、もしかしたらめちゃくちゃすごい人なのでは無いだろうかと少し思った。
「それで、この本は?」
「これはここ最近でよく借りられた本じゃよ。様々な分野の本じゃ。もしかすると、お前さんのお眼鏡に適うものもあるやもしれんのう」
ラビは一冊づつ手にとってみた。
薬学魔法研究書
………ちがう。
魔法戦闘指南書
………ちがう。
属性を極めよう! 今日からあなたも上級魔法使い
………これもちがう。
「ん? これは」
次に手に取った本は、少し感じの違う本だった。
意中のアノ人を落とそう! 薬漬け☆彼氏
「………やばい本だ」
なんて本を取り扱っているのだろうか。
ここのあるということはそれなりの人数が読んでいるということ。
犠牲者に黙祷を捧げるラビ。
と、ここまでピンとくる本がなく、半ば諦めていた。
しかし、
「………これ………これがいい!!」
ラビはフォルゴーンに本を渡した。
タイトルはこうだ。
進化の軌跡 モンスターツリー
「ほぅ、モンスターツリーか。お前さん、テイマーでも目指しとるのか?」
「めざしてるわけじゃないけど、モンスターならなかまにしてる」
「ほう、仲間か。では、持っていくといい。これが最近借りられたのは、第2学年でモンスター関連の課題があったからじゃ。すでに終わった今では、もうあまり借りられる事も無かろうて。次の貸し出しがあるまで持っておいてよいぞ」
「いいのか!? ありがとうじいちゃん!」
ラビは元気に礼を言って教室に帰っていった。
「フォルゴーン先生、随分と気に入ったみたいですね」
メガネを掛けた女子生徒がフォルゴーンにそう言った。
「ひょほほ。あの子には何か思うところがあってのう。整理終わったか? そうかそうか。ご苦労さん。いつもすまんのう。お菓子を用意しとるから、帰って食べるといい」
「やや! これはこれはありがとうございます!」
メガネ女子は嬉しそうに菓子を持っていく。
「………あの、儂の分は?」
「やや!? これは失礼しました!」
「相変わらずせっかちじゃのう、クヴィア」
「せっかちじゃないですよ。うっかりなだけです」
クヴィアはそう言ってメガネを掛け直した。




