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第359話



 そこからは、本当に一方的な展開だった。

 


 ドラゴンが戦闘不能となり、落下したことで押しつぶされた盗賊がいくらか戦闘不能となる。


 2割壊滅。



 そのあと、本隊の前にいた、全勢力の8割の盗賊たちが、待機していた攻撃魔法にて狙撃。

 貯めていた魔力を悉く使ったため、なんの苦労もなくほぼ壊滅させた。


 7割半壊滅。



 ほぼもぬけの殻となったアジトは閉鎖。

 各地にある残っていた盗賊ごと魔法で破壊して埋めた。

 なお、アジトはケンが作った地図で場所を割り出されていたのでスムーズに事が進んだ。


 8割壊滅。



 地方の街を襲っていた盗賊は、スカルバードの策で、ひたすら防御に回していた騎士のおかげで、犠牲者はゼロ。

 本隊前の盗賊を壊滅させた本隊が散りじりになり、挟み撃ち状態からこれを撃破。


 9割壊滅。



 後は残党狩り。

 眼を覚ましたドラゴンをブルーノに操らせて騎士と協力させた連合軍でこれを全滅させた。


 9割9分壊滅。




 均衡状態からの一瞬の逆転。

 ドラゴンを失ったという焦り。

 根城が消えるという不安。

 攻め切れないことから生まれる苛立ち。

 そして、長年に渡って逃げ切った騎士団から、壊滅に追いやられる恐怖。



 ケンは、責め立てるが如く追いやり、心身ともに疲弊させ、向こうが戦意を喪失するやり方で一気に攻めた。

 盗賊団の強みであるコンビネーションを完全に断ち切ることで、こちらが有利に動くように仕向け、こちらはこちらで、心のゆとりを持たせるようにしたのだ。



 流石に、全滅とまでいかなかったが、こちらは市民に1人の犠牲者も出さず、ここ数年街を襲っていた盗賊団を一網打尽にした。



——————一部、恐らく苦戦するであろうと思っていた場所が不自然なまでにやりやすかったのは少し気になっているるが——————



 おそらく、逃げた連中も二度と襲って来ないだろう。

 何故なら、そうやって戦う恐怖が刻まれるストーリーにしたのだから。













———————————————————————————












 「見事な策でした、大騎士長。市民に一切の被害を出さず。敵は逃げ出した数名を除き壊滅。逃げ出した輩も二度と戦うことは無いと聞きます。まさに、貴方の信条である“完膚なきまでの勝利”ですね」


 ルーティンとは別の側近の女がそういった。


 「いや、これは私の策ではない」


 「!? そんな、 この時のために大騎士長自らお考えになったものと………」


 スカルバードはかぶりをふった。


 「これは、例の少年がほんの数秒で思いついた策だ」



 ガシャン!! と、コップが割れる音がした。

 あまりに衝撃的な事実に、 側近が持っていたコップを落としたのだ。


 「はっ!! も、申し訳ございません………!!」


 慌てて片付ける側近。

 スカルバードは特に怒る様子もなく、フッと笑っていた。



 「良い。驚くのは尤もだ。実際私も、未だに鳥肌が治らん。あれはただの知恵者ではない。最早預言者の域だ。全く恐ろしい少年だ」


 スカルバードは額に小さく汗をかいている。

 


 (あの時の、ほんの一瞬だけだったが策を練る時に見せた表情。一体どれだけの情報が詰まっているんだ? そして、それをまとめて最適解を出せるだけの知能。惜しい事をした。国王陛下、彼は遊びで放っておいて良い人材ではないでしょうに………いや、そうか。陛下はこう考えたのだ。『御し切れぬ馬に蹴られるより、周囲を巻き込んで暴れさせた方がよい』、と)



 納得する。

 それでも、頭によぎってしまう一抹の不安。


 もしその暴れ馬に、我が国が巻き込まれたら、と。











———————————————————————————












 「ようやく終わったな」


 となりに来たのはニールだった。

 

 「ああ。だが、今回は成功とは認めたくねェな」


 「? 何故だ。市民には一切被害は出ていなかっただろう?」


 「確かにそうだ。だがな、俺たちが来る前に人が死にすぎた。そして、救えなかった者を目の当たりにした」


 「………」


 ニールはじっと俺を見た。

 こいつにしては珍しく、心配そうな目で俺を見ている。


 「俺は、死が怖い。自分の死ではなく、知っている誰かの死。多分俺は、あまり自分の命に頓着がない。壊れているからな。壊れた人間は破綻した考えしか出来ない………………白状するが、俺たちが来る前にここまで人が死んでいなかったとしたら、多分俺は多数を救うために、ごく少数の人間を囮に使う策を使ったと思う」


 「………!!」


 「俺はどこかで、命に大まかなランクをつけている。テッペンにはお前らと、俺のダチ。ダグラスのおっさんなんかもここにいる。その少し下には、少し顔を知っている程度の奴ら。その下には見知らぬ人。そんでもって、一番下には、いわゆる悪人らが入る。そして………俺もな」


 ダメだな。

 やっぱり今日の俺はおかしい。

 それでも、聞いて欲しかった。


 「俺はさ、下から2番目までなら死んでもなんとも思わねぇよ。多分人間の大半はそうなんだけど、俺の場合は、上位を活かすために下位の連中を殺すのも一切厭わない。より大切な者を生かすために、不要な分は殺す。魔族ですら同族殺しは嫌がるってのに俺はこれだ。だから………こんな醜い俺が嫌で嫌でしかたがないんだよ………………!!」



 俺は自分の気持ちをニールに吐露した。

 多分、ニールだから出来たのだ。

 蓮と琴葉はこのことを知っている。知らない中で俺が最も信頼しているのは、多分こいつとリンフィアとラビ。それとエルだ。

 話すならニールだった。

 ラビとエルには話す気は起きないし、リンフィアには知られたくない。


 だから俺は、ニールに向かって語ったのだ。


 ニールはしばらく黙って俺の話を聞いていた。

 そして、ようやく口を開く。



 「そうか………お前はお前で、何か抱えているんだな。それだけ強くても何か抱えているんだな。いや、強いからこそ、か」


 「………」


 「つらいか?」


 「………どうだろうな。俺は今、ちょっと嬉しく思ってんだよ」


 「へぇ? なんでまた」




 「“人”に、成れていけてる気がするから」




 ニールは一瞬凍りついた。

 そこそこ長い付き合いだ。

 この言葉の意味。

 そして、俺が今までどういう人間だったのか察してくれたらしい。


 「ぁ………………お前」



 「ったく、馬鹿のくせに気ィ使ってんな」



 ポンと頭に拳を乗せた。

 最初会った時は、よく突っかかって来られた………ま、今もそんな変わらないが、少なくとも、こいつはちゃんと俺を見てくれている。

 それが嬉しかったのだ。



 「………煩いッ、戯け者め」

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