第358話
これは、ユノが帰った直後のことだ。
「リンフィア、その姿は………お前は魔族………いや、半魔族か?」
「っ………」
リンフィアは一瞬目を伏せ、コクリと頷いた。
また、あの眼で見られる
そう思っていた。
しかし、
「ありがとう」
「………え?」
「お前は、姿を晒してまで我々を守ってくれた。礼を言う」
「いや、でも、私は半魔族ですし………」
「それがどうした!!」
隊長は荒々しく剣を地面に突き立てて叫んだ。
そしてこう続ける。
「確かに、魔族の中には人間を敵視し、残虐の限りを尽くすものもいる。しかしッ!! 全てがそうではないこともまた、我々は知っている。そう、お前のようにだ、リンフィアよ」
「!!」
「そうだ!! 別にお前は悪いことをしたわけじゃないんだ! もっと胸を張れ!!」
「お前のおかげで助かったのだ!! 感謝こそすれ、蔑むことなんぞ出来ようものか!!」
「うおおお!!! リンフィア万歳!!」
「万歳!!」
「ありがとう!!」
「可愛いぞ!!!」
「ありがとう!!」
「その姿で罵ってくれ!!」
妙なのもいくつか混じっていたが、1人足りともリンフィアを責めるものはいなかった。
いつか、人と魔族が共存できる世界にする。
その夢の一端を垣間見る事が出来たようで、リンフィアは感極まった。
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「なるほどねぇ………………いい連中だ。嫌いじゃない」
ヨッコラセ、と立ち上がり、空を見る。
さて、この連中もきっちり救うために、そろそろ働くとしよう。
「んじゃ、お前の出番だぜ、ブルーノ」
「任されよ」
マッチョ。
その筋肉は鋼の如く。
そして引き締まった肉体はあらゆる者を魅了するッッ!!
マッチョオブマッスゥゥゥゥルッッ!!!
それが私、ブルーノである。
と、ブルーノは正気になった瞬間、訳の分からない自己紹介から入った。
こいつは、俺がある計画のために生かしておいた。
そう、こいつがいれば、完膚なきまでの勝利ができる。
「一帯の竜は、我がマっっスゥゥルに惚れた僕よ。連中が我を操ったのは、操作が互いに打ち消しあうのを防ぐため。故に!! このマッスル、今こそ対竜種などという小賢しい邪法を消し去って見せようぞ!!」
俺はこの時をずっと待った。
そしておそらく、スカルバードも。
これは反撃の狼煙にして、蹂躙の幕開けだ。
最早一方的では済まない展開となる。
ここがピーク。
この戦闘において、互いの力が完璧に拮抗するこの場面で使ってこそ、向こうは精神的に大きな傷を負い、こちらは勢いが出るのだ。
さァ、始めよう。
「よし、今だ!!」
「んんんんんん〜〜〜〜………ッッ!! 『止ォまァアれェェエエエエいッッッッッ!!!!!!』」
ゴォオオオオッッ!!!!
荒れ狂う暴風のような、ビリビリとしたその声は、まるで本当の嵐のように、木を揺らし、地面を割り、 空へと舞っていった。
「ッッ………!! この圧迫感は………!!」
言葉を介するスキル、広範囲に渡るこの系統のスキルは、周囲に影響を及ぼす場合がある。
とはいえ、これはかなり凄まじい。
「ニール、これがそうなんだな」
「ああ。 我ら竜族は、モンスターである竜種を屈服することで支配下における。これは命令の一種だ」
生で見るのは初めてだ。
そしてマッスルに惚れたわけではなかった。
「ちなみに知り合いか?」
「いや、全然」
だそうだ。
「ま、なんでもいいわ。俺が言えるのはこれで間違いなく、戦いが終わるという事」
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「大騎士長!! もう持ちません!!」
「狼狽えるな。よく見ろ、力は拮抗している」
相手は攻撃。
対してこちらは防御。
戦闘が開始してしばらくたつが、未だに戦場はこの状態が続いている。
そして、その戦況が膠着状態になり、現在の戦況が固定されつつある。
そう、予定通りだ。
「そろそろだな………」
(命令は下した。ヒジリケン。異世界より来たる特異の者よ。お前の手腕、見せてもらおう)
そして、ついにその時が来る。
ゴォオオオオオオオオオッッッ!!!!
暴風。
いや、これは——————声だ。
荒れ狂う暴風の如き声が、竜たちの耳に入る。
声が一帯に伝わったあと、それは起きた。
「!? ど、ドラゴンが墜落していきます!!」
「しかも一体や二体ではない、全ての竜が落ちていきます!!!」
大きな地鳴りを起こしながら、竜が落ちていく。
その光景はまさに異様だった。
スカルバードも一瞬、ほんの一瞬だが唖然とした。
そして、ニヤリと笑みを浮かべる。
「………………見事だ。異界の勇者よ!!!」
スカルバードは振り返ってこう叫んだ。
「全軍!! 防御を辞め、全霊を持って敵を殲滅せよ!! 行くぞッッ!!!反撃開始だッッッ!!!!!」
「「「オオオオオオオオッッ!!!!!」」」




