第355話
「………くっ………ぅ」
「………………君は、どこから現れたんだ」
「さぁ………どこでも良いじゃないか………ッッ」
ルーティンによる一撃は、流によって防がれた。
ダグラスは、少し驚いた顔で流を見た。
「イケメンボウズ、お前………!」
「ヒジリ ケンに言われていたんだよ………」
「!!」
聞き馴染みのある名前に驚くダグラス。
流はこう続ける。
「へぇ、ッ………知っているッ、んだな。ヒジリ ケンを………白鳥の騎士は敵だと………ッ、奴は言っていた。そのッ、白鳥がアンタを殺そうとしたってことは、少なくとも、あんたの方が信用できるってことだ!!」
流は杖で剣を弾いた。
「人聞きの悪い………私はダグラス殿が動けなくなる程度に痛めつけるだけのつもりだったさ。これでも一応、顔見知りなのでね。しかし、 ケンは私を警戒していたか………」
「あの男はかなり頭がキレる。アンタは何か決定的なミスを犯したんだろう。自分が気づかないようなミスをな」
それは、流のいう通りだった。
ルーティンの言ったセリフ。
フェルナンキアの事を、口を滑られたルーティンが『すまない、何か事情があって伏せているとは知らず………』と言ったのを、ケンは覚えていたのだ。
事情。
伏せている原因となる事情は、騎士なら知っている筈だ。
だが、知らないと、ルーティンは言った。
これがミスだとは、この場にいる全員が気づいていなかった。
この事からわかるのは、このルーティンは——————
「お前、ルーティンじゃないな?」
ダグラスはそう言った。
「………何?」
「あのバカ騎士は、死んでも卑怯な真似はしねぇ。だから副隊長止まりなんだろうけどな。ただ、正面で戦っても勝てる強さがあるんだ。だから、アイツはここまで上り詰めた。奇襲なんてかけた事もないし、背後を狙った事もない。そこまでして正直に生きてきたアイツを、愚弄するような真似をするんなら………………殺すぞ」
荒々しい殺気が、周囲を包んだ。
共に異世界から来た、異常な強さのクラスメイトと一緒にいた流が驚くほどだ。
ここまで強い現地人をあまり見た事ないからだろう。
「くっふふ………あっはっはっはっは!! いやぁ、見抜かれるとはね。恐れ入ったよ。流石にミラトニア全ギルドの総括であるフェルナンキアのギルドマスターだ。なかなか勘が鋭いじゃないか」
偽ルーティンはコンコン、と人差し指でポンメルを叩いた。
「ぁ………!!うそ、だ………そんな………馬鹿な。お前までこの国に干渉していたのか………!? でも、何で、お前は………!!」
流が叫ぶ。
目は泳ぎ、手がブルブルと震えている。
「そこにいるんだなッッ!! 姉貴ッッ!!!」
「は!? 姉貴だァ!?」
ダグラスは辺りを見渡すが、見つからない。
見つかる筈がないのだ。
何故なら、流の姉、楠 留華は、ルーティンになっているのだから。
「流石るーの弟だね。癖でも見つけた? なーちゃん」
「!! やっぱり姉貴か!! 何だってこんな」
「決まってるじゃんか。もちろん、ウルクリーナ王女を殺すためだよ」
「っ………」
流は絶句した。
違う。
こんなのは姉ではない。
こんな事を言う様な人ではない。
あんな風に、簡単に人を殺すような人じゃない。
頭の中でぐちゃぐちゃと思考が絡まっていく。
しかし、 事実は変わらない。
流の姉はウルクを殺そうとし、それを宣言し、そして、そこの騎士を殺した。
「なーちゃんは裏切ったのかな? でも、弟のよしみだ。るーが陛下に進言して殺されないように取り計らってあげる」
「………う」
「?」
「違う………違う違う違う違う違う違う違う!!!! 違うッッッ!!! こんなの姉貴じゃない!!アンタは今正気じゃないんだ!! 目を覚ませよ!!」
必死に叫ぶ流。
しかし、 現実は残酷だ。
操られていたとして、都合よく本来の人格が戻るなどという奇跡は起きるものではない。
「はぁー………受け入れてないんだね………………なーちゃんおかしいよ。ま、いっか。とりあえず、るーは帰るよ。運動するのは疲れるし………っとその前に」
ズブッ
「………………ぁ」
後ろにいる部隊長を、魔法で殺す留華。
余計な目撃者は全員消すつもりらしい。
「んー、お掃除完了」
「また人を………!!!」
くるっと振り返る留華。
そして、武器を収めた後にこう言った。
「じゃあね、なーちゃん。また今度」
「待て、待ちや………が………れ………………」
ダグラスは流を気絶させた。
追われても困ると思ったのだろう。
「良いとこあるじゃん、ダ・グ・ラ・ス・ど・の」
「………………」
最後にそう言った留華は、暗闇へと消えた。




