第353話
「誰だ、アンタ………?」
流は突然現れた黒い甲冑の騎士にそう尋ねた。
「俺か? 言っただろさっき。俺は本当の護衛だ。ちょいとそいつらに嵌められて参上が遅れちまったが、ボウズ。お前さんのお陰で助けられそうだ。ありがとよ。ガッハッハッハ!!」
この段階では、流は一切この黒騎士を信用していない。
しかし、利用は出来ると思っている。
そもそも白騎士連中の仲間だったら、この黒騎士はわざわざ出張ってくる必要はない。
だから、少なくとも黒騎士は白騎士の敵ではあるのだ。
「………妙だとは、思ってたんだよね」
ウルクはそう言った。
「同行するのに顔を見せないわ、質問は多いわで、まるで探っているみたいだったんだ。なるほどね。騎士さん達は知らなかったんだ。名前だけ知った上で私を連れ去るっていう、王国からの命令だけで来たんだから」
「チッ………」
どうやら図星だったらしい。
偽騎士達は苛立たしげにウルクを睨む。
「か弱い女の子騙して誘拐するなんざ、騎士………いや、男の風上にも置けねぇなァ? な? 偽騎士共よォ」
ムッとした下っ端の男が前に出て来た。
「黙れ無礼者!! 我らは王命によってこの場にいるのだ!! それを侮辱するとは恥を——————」
「止せ馬鹿者ッッ!!!」
部隊長に静止され、黙り込む下っ端。
「それ以上はよしておけ。王の名を言い訳に使うな。誇りが汚れる」
「いやいや、誇りもクソもねぇだろうが。いや、埃か? ガッハッハ! 安心しろ。最初からゴミだ。第一女の子襲おうとして失敗した暴漢もどきの誇りとか、それこそ最初から汚れてんだろ」
さっきの真面目風騎士が再び黒騎士を睨む。
すると、
「おいおい、さっきから何好き勝手言っちゃってくれてんの? あ?」
先ほどのチンピラのような騎士がそう言った。
「お? やっと出て来たかそれっぽいのが」
「なんで俺みたいな奴がここに配属されたか分かるか? 簡単だ。俺がここの部隊長よか強いからだよォッッ !!」
突然、男が飛び出して来た。
「!? なんて速さだ!! アンタ、逃げた方がいい!!」
流はそんな事を言った。
しかし、
「なっ!?」
黒騎士は、一瞬にしてチンピラ騎士の背後に回った。
腰に下げたダガーを引き抜き、背中に一撃を浴びせる。
「シィッ………!!」
「ぐぁアアアッッ!!?」
チンピラ騎士は倒れる前に地面に手をつき、体を捻りながら飛んで、黒騎士の方を向いた。
しかし、
「遅ェ」
「がッッ!!」
脳天に一撃、かかと落としを決めた。
状態異常 【気絶】になった。
「ペルータがこんなあっさり………」
騎士達の中で動揺が走る。
隊長格より強い奴を瞬殺したからだろう。
「………………」
遠くから見ていた流は気がついた。
無茶苦茶なステータスがあるわけではない。
いや、もちろん化け物のような地力だ。
しかし、それ以上に巧さが際立っている。
戦闘技術が、これまで見た中でも群を抜いている。
「さてと、お次は誰かな?」
「う、うああああああああ!!!!」
「!? 待てッッ!! 1人で向かうんじゃない!!」
若い騎士が黒騎士に向かっていった。
黒騎士はやれやれとかぶりを振る。
「無様な騎士だ………………寝てろ」
黒騎士は頭を狙って突き込んで来た剣に沿って若い騎士の背後まで進む。
しかし、流石にこの程度では隙を作らない。
すぐさま振り返ると同時に剣を振った。
しかし、 振り返るのと逆向きに回り込んで黒騎士は完璧に背後を取り、首に一撃。
一瞬で気を失わせた。
「無様で情けなく、卑怯で狡猾。騎士のなんたるかを心得ていないただのゴロツキ。そんな輩に倒されるほど、俺の剣は安かァねェぜ?」
「強い………!!」
流は純粋にそう思った。
ケンほど無茶苦茶ではないにしても、かなり強い。
おそらくSSランクの冒険者相当。
故に、中身が気になる。
いったい誰がなんのために、王女の保護を手伝ってくれているのだろうか。
「貴様………ただの騎士ではないな? どこの所属だ!!」
「いや、俺騎士じゃねぇよ」
………………
しばし沈黙が訪れた。
「しっかし、甲冑ってのは蒸れていけねェな。やっぱいつもの装備の方が落ち着くわ。ちょうど中に着てるから脱いじまお」
騎士は甲冑を脱ぐ。
側だけの甲冑だったようで、ほとんど防御力はなさそうだ。
そして、 最後に兜も取り外す。
「ふぃー、これでスッキリだぜ。やれやれ、ファリスのやろう、俺だって一応ギルドの仕事で大変なんだぜ? ………まぁ、どうせ今週はカジノ行くかメイのところで酒飲むかだったけどな!!」
「きッ、貴様はッッ!!?」
やはり見知らぬ、 男だった。
しかし、顔を見た流はこう思う。
信用できるかもしれない、と。
「ダグラス・オーバーンだと!?」
「お、いいねぇ。俺も有名になったもんだ。ガッハッハッハ!!」
豪快に笑う黒騎士の正体は、フェルナンキアの冒険者および商人ギルドのギルドマスター。
ダグラスだった。
「よっしゃ。甲冑も脱いだところで、さっさと仕事を終わらせるとすっかな」




