第351話
「ここは退くしかなさそうじゃん?」
あっさりと逃げを選んだユノ。
これまでの戦いっぷりと、 現在ユノから放たれる魔力から見ても、逃げる必要性を感じなかった。
何か裏があるに違いない。
リンフィア達はそう思った。
「どうして!? この状況ならあなたが逃げても得はしないでしょ!?」
「確かに得はしない。どうせお前らの狙いは、俺の【無窮の闘志】の効果切れだろ? 無理無理。さっきまでの俺は、リンフィアちゃんの急な戦闘スタイルの変化に戸惑ってたけど、慣れたらどうって事ない。ゴリ押しで勝てちゃうぜ? 3人だったら………まぁ、手こずりはするが、それでも負けないじゃん?」
だったら尚のことわからない。
逃げる理由が思い当たらない。
だが、リンフィアはハッと気がついた。
ユノが何を危惧しているのか。
考えれば簡単な事だった。
逃げるのであれば、何から逃げているのか、逃げる対象がいるはずなのだ。
それが思い浮かぶような、単純に今のユノですら1人で倒してしまう人物。
そう、彼だ。
ケンのことを恐れているのだ。
「ヒジリ・ケン。これを言うのは癪だが、あんなバケモン、俺じゃ絶対勝てないじゃん? だからここは一旦退く」
ユノは、斧を仕舞い、木の上に登る。
そして、リンフィア達を見下ろしてこう言った。
「しかし忘れるな。お前らは、俺に勝てなかった。そして、俺はいつか再び戦う事になる。その時までおとなしくしててね? リンフィアちゃん」
こうして、ユノはリンフィア達の元から去った。
敗北かもしれない。
殆ど手も足もでなかったのだ。
それでも、誰も死ななかったから、それで良いと一先ず思う事にしておいた。
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「少し遅かったか………………逃げられたっぽいな」
先程、突如現れた巨大な魔力が姿を消した。
おそらく、リンフィアの魔力だろう。
近くにあった妙な圧力も消えている。
察するに、俺が来ると気がついた敵が、リンフィアをあきらめてさっさと出て行ったようだ
「見えました! 地上です!」
「ああ。出られればもうこっちのもんだ」
陽の光が薄っすらと見える。
光の方へ走っていき、俺たちは、洞窟から脱出した。
地上だ。
淀んでいた空気が、澄んでいるような気がする。
山の頂上だからか、ものすごく眩しく思える。
ダンジョンから抜け出した時も、こう言う気分を感じるのだ。
だが、そんな感傷に浸っておる暇はない。
「久々の地上ですね」
「囚人みたいな事言うなよ。じゃ、早速飛ぶか」
ケンは2人を抱え、目的地まで一気に移動し、リンフィア達と合流した。
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そして、少々遡り、現在はケン達が最深部に向かった直後の話である。
「んー、なかなか見つかんないね」
「しかし、着実に進んできています。一度、道をまとめてみてはいかがですか? 紙を使って簡易的な地図を作れば少しは変わると思いますし、我々も助言ができます」
ウルクは、現在地下であるものを探している。
“遺品”と呼ばれるそれが何なのか、護衛隊はよく知らないが、どうやらウルクにとってかなり重要なものらしい。
口調は軽いままだが、行動が機敏で、真剣な面持ちで動いている。
「地図かー………いや、大丈夫だよー。そろそろ道は絞れてきたし、一度入り口に戻ろ」
「入口、ですか」
「うん。すぐそこの入口から行くとすぐに行けると思うよー」
のしのしと入口へ向かうウルク。
足取りには迷いはなく、絞れたというのは本当だとわかる。
騎士達も、特に何もいう事なくついて行った。
ここまますんなりたどり着ける。
ウルクはそう考えていた。
モンスターは騎士達が薙ぎ払ってくれる上に、罠は慣れているのでほとんどかからない。
正直言って、楽勝だと考えていた。
もちろん、そんなに世間は甘くない。
「確かここを曲がって………」
「お久しぶりですね。ウルクリーナ王女殿下」
「!?」
知られた。
隠していた自分の素性がバレていた事に、驚きを隠せないでいる。
しかし、 さらに気になるのは、目の前から聞こえたその声はどこか聞き覚えのある声だった事だ。
「聞き覚えがあるって顔ですね………………まぁ、あるでしょうね。会ったことあるんですから」
「きッ、君、は!!」
「楠 流。覚えて頂けて光栄です。王女殿下?」
妙な胸騒ぎがした。
ウルクは、少年が浮かべている薄ら笑いが、どうしても気になった。




