第35話
「何処だ………」
暗闇の中、鎧が動く音が響く。
黒竜の女王は探している。
待ち人を探している。
「何故、見つからない………」
離れ離れになったあの日からずっと探して求めていた。
何日も何日も。
何日も何日も。
情報を得るために冒険者にもなった。
種族を隠すため、偽装工作するのには少し苦労したが、見つけられるのなら別に構わない。
だが、その努力も虚しく、未だ会えていない。
月日が流れる。
流石に盗みを働くわけにはいかないので、金を得るためにクエストをこなしている。
ギルドのノルマが煩わしかったが、それも我慢する。
いつもの様に、捜索しつつ、クエストをこなしていたある日、妙な異名をつけられていた。
《黒竜の女王》
何でも、黒竜の装備を身に纏っているからその名がつけられたのだとか。
だが、その意味には黒龍殺しという意味が含まれているが、実はそうではない。
これは、彼女自らの種族の竜から賜った鱗で作りあげた鎧。
つまり比喩ではなく、彼女は本当に黒竜の血を引いているのだ。
今彼女は、フェルナンキアで捜索をしている。
もちろん、依頼をこなしながら。
「何処にいるのですか——————」
探しているのは自分が忠誠を誓った、たった一人の魔族。
そして、彼女の目的はこの街で漸く果たされる。
探し求めていた者がこの街で見つかる事になるのだ。
その者は人々に恐れられ、魔族の間でこう呼ばれている。
「——————魔王様」
と。
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「おーい、ケンくん。起きてくださーい。ほらほら」
遠慮なしに頭をガシガシ叩くリンフィア。
しかもグーだ。
「いてぇ………」
ここ数日でわかったのだが、こいつは起こし方が雑だ。
自分で起ききれなかった日は、早起きのリンフィアが俺を起こすのだが、結構むちゃくちゃやってる。
叩く、殴るはもちろん、引きずり出す、耳元で叫ぶなどの暴挙に出る。
起こしてくれるのはありがたいのだが、ただ目覚めが最悪だ。
「あ、起きた。おはようございます、ケンくん」
「………おはよう」
これで悪意がないというのはタチが悪い。
「今日は記念すべき初仕事ですよー。もっとシャキッとしてください!」
張り切ってるなぁ。
そう思いながら顔を洗いに行った。
「やっと目が覚めた。あー、今日もしんどかったな。目覚まし時計がどれだけスゴイのか思い知ったぜ」
顔を洗ってスッキリした俺は、散歩に出た。
まだ朝早いので、今のうちに街を歩き回ろうと思ったのだ。
「ここは確か昨日女王がいた場所か」
朝というのもあり、人が少ないのであっという間にそんな場所まで来た。
ちなみに歩きだったのにも関わらず、昨日の帰りと比べて4、5倍くらい早く移動できた。
「ありゃ魔族だろうな。多分おっさんがくれたチェーンみたいな道具を使って種族を隠してんだろう。あんなもんが出回ってるって事は、ここのシステムも結構ざるだな」
あのアイテム、勇者の鑑定は誤魔化せないらしく、俺が見た時、リンフィアの種族は半魔族のままだった。
それに関してはクラスメイトに会わなかったら大丈夫だろう。
「魔族………人間………種族間の壁がどうしても無くせねぇみてぇだ。亜人や妖精やほかの種族達ともそんな感じなのか………」
そんなものがあるから奴隷がいるのだろう。
互いに互いを信頼できないからこそ、相手を手中に収めたがる。
話によると、向こうでは人間の奴隷が多くいるらしい。
馬鹿馬鹿しい。
ビビってるだけじゃねーか。
そう思わずにはいられない。
「………気分がのらねぇな。帰ろ」
俺は散歩をやめた。
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場面は一転し、今俺たちはギルドにいる。
とりあえず、戦闘系で、リンフィアも受けられる簡単なクエストを探そう。
「なあ、マイのねーちゃん。初心者にオススメのクエストってなんかないのか?」
「貴方なら多分何でもできますよ。あ、もしかして、その娘のために探してるのですか? それでしたら、ゴブリンがオススメです」
あれ、思ったより嫌がらない。
「思ったより嫌がらないって思ってますね」
「顔に出てたか?」
「ええ、ものすごく」
そんなにか。
ポーカーフェイスってやつがどうも苦手な俺。
「はっきり言って私は魔族が嫌いです。事情があるので」
なるほど、そういう場合もあるだろう。
「ですが、彼女が嫌いなわけではないです。何故か彼女は珍しく、魔族でも人と普通に接していますから。それに」
マイはリンフィアに優しく微笑みかけた。
「数少ない女の子の冒険者ですから、ね」
「!」
リンフィアは嬉しそうな顔をしている。
こいつはこいつで自分を蔑まない人間と会えて喜んでいるのだ。
「それでどうしますか? ゴブリンのクエスト、受注されますか?」
「ああ、頼む」
「了解しました。失敗すると、違約金として報酬の半額を頂きますので、ご注意ください。なお、クエスト中の器物破損等は、可能な限り、ギルドで対処しますが、回数を重ねるとペナルティがあります。それでは行ってらっしゃいませ」
俺は注意を頭に叩き込んで、クエストへ向かう。
「行くぞ、リフィ」
「あ、はいっ」
リンフィアは後ろをチラッと振り向いた。
目があったマイは、リンフィアにひらひらと手を振っていた。
リンフィアも手を振って返した。